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7章

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    「さぁ、どうぞこちらにいらして?」

    リンシア王女に連れられてお茶の用意がされた席へと座る。

    「ガーランドで頂いたような素敵なお菓子は用意出来ないけれど、気に入ってくれたら嬉しいわ。」

    テーブルの上にはクッキーなどの素朴な焼き菓子が並んでいる。悪阻のある私にはこってりしたクリームなどのケーキよりこちらの方が嬉しい。

    「リンシア王女、出来ればマリーには紅茶よりも白湯をお願い出来ますか?」

    「まぁジョエル様ったら!甲斐甲斐しいですわね。わかってますわ。ちゃんとマリエル様には白湯を用意してますわよ。」

    リンシア王女の合図で侍女がティーカップにちょうど良い温度の白湯を注いでくれる。

    「さぁジョエル様!約束ですわよ!今日はマリエル様を独り占めさせて下さいませ!」

    「約束?」

    「えぇ、昨日お約束しましたのよ!ジョエル様がいらっしゃるとマリエル様も遠慮して色々話せませんでしょ?何がって、もちろんお二人の馴れ初めから今日に至るまでですわ!だから今日のお茶会は男子禁制!ね、ジョエル様?」

    ジョエル様はやれやれといった感じで頷く。

    「自分の話をされるのは恥ずかしいけれど、知り合いのいないマリーには良い気分転換になると思ってね。リンシア王女、あまりマリーをいじめないで下さいよ?」

    「まぁ、いじめるだなんて!大丈夫ですわよ。あの時はマリエル様が敵だと思っていたからあんな態度を取ってしまいましたけど、今はダレンシアで共に暮らす仲ですもの。これからは仲良くしましょうね、マリエル様?」

    「はい。よろしくお願いします。」

    ジョエル様は私達の様子に安心したのか“ゆっくり楽しんで”と言い残して部屋から出て行った。


    「リンシア王女……!」

    二人きりになった途端また涙が溢れだす。リンシア王女は素早く私の隣に来て手を握った。

    「マリエル様、しぃっ!誰が聞いているかわかりませんわ。だから頑張って涙と声を堪えて!
    …よく頑張りましたね。生きていてくれて本当に良かった………!」

    そう言うリンシア王女の目からも私と同じくらい涙が溢れている。

    「ガーランドの皆は…ユーリはどうしていますか?姉は…オデットは本当に死んだのでしょうか?」

    何から聞いたらいいのかわからず思い付く限り順に言葉にすると、リンシア王女は頷きながら真剣な眼差しでそれを聞いてくれる。

    「マリエル様、落ち着いて聞いて下さいね。まずお姉さまのオデット様ですけれど、生きてらっしゃいます。」

    「………え………?」

    思わず変な声が出てしまう。

    「燃え盛る炎の中、護衛の方と共に屋敷に引かれていた水路を下着姿で逃げたそうですよ。まぁ女としては下着で逃げると言うのは非常に切ない事態ですけど、そんな事気にせず行動なさったのはさすがですわ!本当に肝が据わってらっしゃる!」

    本当に……本当に……?

    「……本当に生きているのですか…姉が?」

    「えぇ!確かにお会いしましたよ!オデット様…マリエル様が拐われた事を本当に心配してらっしゃいました。何てったってあの殿下を怒鳴りつけたくらいですから!」

     「え!?ユーリを!?」    

    「えぇ!“あんたの責任よ”って涙を流しながら……。ついでに何でかシャルル様も叱られてましたけど。」

    なんでシャルル様まで? 
    でもオデットが生きている…それだけで充分だ。生きて帰ってくれただけで……!

    「作戦はどうなったのですか?クリストフ様は?」

    「作戦は実行中です!予定通り皆で入国しましたわ!ただ入国早々に予定外の事が起こってしまって……。」

    「予定外?一体何があったのですか?」    

    「それが……ダレンシアに着いたらまず城へ戻る前にある場所へ寄る予定だったのですが、何故か国境付近に王城からの迎えが来ていたのです。しかもラシード将軍の兵が……。」

    ラシード将軍の兵…間違いない。それはおそらくリンシア王女を監視するためだろう。

    「どちらへ寄るご予定だったのですか?」

    「マリエル様、憶えてらっしゃいますか?父に遠ざけられてしまったという忠臣だった将軍の話を。その方の領地へ寄り、協力を仰ぐ予定だったのです。そしてそこでクリストフ様達を一旦匿ってもらおうと…でも駄目でしたわ。」

    「ではクリストフ様達はどちらへ…?」

    「ここですわ。」

    「は?」

     ここ、と言われても…どこ?まさかこのリンシア王女の宮に?

    「こちらにいらしてマリエル様。」

    リンシア王女は部屋の奥へと歩いて行く。

    「ただでさえ男臭い国の唯一男臭くない領域でしたのに…まぁ仕方ありませんわね。緊急事態ですから。」

    リンシア王女は歩きながら恨めしそうにぶつぶつと言っている。

    「マリエル様。殿下の事はご本人から直接聞いて下さい。」

    「え……………?」

    そして扉を開けた先に見えたのは山積みの荷物。すごい量だ。

    「マリエル様、あの一番高そうな箱を開けてみて下さい。ガーランドからのお土産です。」

    リンシア王女が指差した先は木彫りの高そうな箱。そして大きい。とにかく大きい。しかし開けてと言われたら開けない訳にも行かない。そろそろと近づいて留め具を外し蓋を上に上げる。


    中に見えたのはキラキラと輝く銀の髪。
    もう二度と会えないと思っていた大好きな人


    「………ユーリ………!!!」










    
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