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7章
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しおりを挟むリンシア王女の帰国は屋敷にいてもわかった。まるで敵でも攻めてきたのかというような早鐘が鳴り、兵士が土を踏みしめ行進する音がここまで届いたからだ。果たして兵士は出迎えのためにいるのか、拘束するためにいるのか……。
いつお会い出来るのだろうとソワソワしていると、城へリンシア王女の出迎えにでも行ったのだろうか、帰宅したジョエル様からは意外な返事が返ってきた。
「リンシア王女も君に会いたがっているよ。俺達の事は一通り話してある。だから何も心配せずに会っておいで。」
一通り何を話したと言うのだろう。まさか自分達こそ昔からお互いに想い合う仲だとでも言ったのだろうか。リンシア王女が変に誤解していなければいいのだけど……。
帰国されたばかりで疲れもあるだろうから会うのは少し先かと思っていたら、何と帰国の翌日だった。ダレンシアの王宮へ行くのも初めての私は朝からとても緊張していた。
「俺も一緒に行くんだから大丈夫だよ。何も心配しなくていい。」
今までこの人といて安心など出来た試しが無かったが、今回ばかりは有り難い。
「エルはダレンシアの王宮には行ったことがあるの?」
「ああ、母親は王族の出だからね…。式典や祭事が行われる時などに招待されて何度か行った事があるよ。」
「そうなのね。…私は領内から出たことが無かったから…こんな時とても緊張するわ…。」
何気なく口から出た言葉だったが彼にとってはかなり威力のある口撃だったらしい。何せそれもすべて自分のせいだ。“ごめん”も言い過ぎて真実味が無いと感じているのだろうか、何も言わず私を抱き締めてナデナデしている。少しいい気味だと思ってしまう私の性格はおそらく昔より悪くなっている。間違いない。
「今日もとても綺麗だよ。この髪型、本当によく似合ってる。」
「ミーナが頑張ってくれたおかげです。」
ジョエル様は私が髪を結い上げているのが好きらしい。褒められたミーナは後ろで満足顔だ。
「気を付けて歩くんだよ。ゆっくりでいいからね。それと気分が悪くなったら遠慮せずにすぐ言うんだよ。」
「もう、それ言うの何度目ですか?」
心配してくれるのはありがたいが、昨日からしつこいくらいに言われ続けて少しうんざりしている。眠る寸前まで隣で囁いていたほどだ。
「悪かった。でも心配なんだよ。」
叱られた子犬のようにシュンとするジョエル様を見てミーナはニコニコしている。きっと私達の事を幸せな夫婦だと思っているんだろう。
「さぁ、そろそろ行こうか。」
私は差し出された手を取った。
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