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7章
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しおりを挟む「リンシア王女が帰国するそうだよ。もうガーランドを発ったそうだ。」
「そうなのですか…。」
このところ悪阻がひどく、一日のほとんどをベッドで過ごす日もある。そんな私を心配してあれこれとジョエル様は世話を焼いてくれている。
「…気分は大丈夫?すまないね。俺にもこういう経験があればもっとわかってあげられたんだけど………。」
「……何を言ってるんですか、もう。」
自分の悪事を包み隠さず話した事で取り繕う必要も無くなったのだろう。色々と気が楽にでもなったのか。最近のこの人は以前のような軽口も叩くようになった。
「リンシア王女が帰国されたら…お会いする事は出来ますか?」
私が拐われた後の事を知りたい。そして出来ることならこの人の企みをリンシア王女に知らせ、ご自分の身をまず最優先に考えて貰いたい。
「何故?あんなに嫌われていたのに。会ってもろくな事を言われないよ?それとも会いたい理由が何かあるの?」
彼の目が怖いのは気のせいじゃない。こういう時は私もあまり取り繕わない方が良いのだろう。
「……あのあと…私がいなくなった後の事を聞きたいのです。姉に続いて私まで失った父の事がどうしても気になって…。」
嘘じゃない。それは本当の事だ。
そして私の答えを聞いた彼はすぐに顔色を変えた。
「マリー……。今回の事ではシモン様にも辛い思いをさせてしまった……。全部俺のせいだ。本当にすまない……。わかった。リンシア王女に会えるよう手配するよ。ただそれには君の体調が良いことが条件だ。いいね?」
「はい……ありがとうございます……。」
彼は自分の腕の中に抱き込むようにして隣に座り、私の腹を優しく擦る。
「……いつか俺の子も産んでくれる……?」
ジョエル様は私の顔を見ない。まるで答えを聞くのを怖がっているかのように。
「ご自分の…本当の子が出来てもこの子を可愛いがってくれますか?」
子供に恵まれず養子を迎えた夫婦が、自分の子が出来た途端にそれまで溺愛していた養子を虐げるのはよくある事だ。
「当たり前だ。マリー、俺を信じてくれ。子供には何も罪は無い。」
「もし銀色の髪の子が産まれたら?」
「君だって白金の髪だった。似たようなものさ。大丈夫。」
「あなたと全然顔が似てなくても?」
「そういう親子だっているよ。まぁ女の子だったら君に似て欲しいなとは思うけど。」
「性格が全然違っていつか激しくぶつかり合ったら?」
「それこそ親子ならぶつかるのは当たり前だよ。同じ血を持っていたって違う人間なんだ。俺と父親がそうなようにね……。俺は父親とぶつかり合った事なんてない…。」
「……お父様の事が嫌いなの?」
私の問いにジョエル様は黙ったまま答えない。余計な事を聞いてしまったようだ。
「ごめんなさい…余計な事を…。」
ジョエル様は私の髪を撫でる。
「いや…いいよ。今父の事が嫌いかと言われて考えてみたけど…わからないな。」
「…わからない?」
「あぁ。物心ついた時には既にああいう父親だったしそれが当たり前だったから。ただ……」
そう言って口ごもる。言いづらい事なのだろうか。
「…外で見かける他の親子を羨ましいと思ったことはある。何度もね…。仲の良い両親とその愛に包まれる子供…そんな当たり前の親子の姿が羨ましかった。俺には唯一無いものだったから。」
公爵家という誰もが羨む家に生まれたこの人に唯一足りなかったものが、身分など関係なしに誰もが持ち得るものだなんて…。
「本当の親子だってそんなものなんだ…だから何も心配しなくていい。血の繋がりなんて超えてみせるから……それに俺が子守りが上手いのは見たでしょ?」
「ふふ…見た。」
療養院の子供達の可愛い姿を思い出して思わず笑顔になってしまった。そんな私をジョエル様は眉を下げた表情で見つめる。
「…ジョエル様?」
「エル」
「…はい、エル。どうしたの?」
「…今は笑えないと思う。でも少しずつ君の笑顔を取り戻す。だから君は俺を憎んでいてもいい。俺が一生かけて君を心から笑わせてみせるから…。」
いつかそんな日が来るのだろうか。そんなこの人だけに優しい未来がいつか……。
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