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6章
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しおりを挟むテーブルのお菓子はまだまだ残っていたが、もうお腹がいっぱいなのだろう。リンシア王女はとても残念そうな顔をしている。
「お気に召していただけて良かったです。またお持ちしましょうね。」
優しく笑うジョエル様にリンシア王女は恥ずかしそうに微笑み返す。はしゃぎすぎてしまったと思ったのだろう。
「これからのご予定は?」
そう聞かれても、予定が狂いまくりの私達は悩んでしまう。
「マリー。」
「ユーリ!?」
何でここにいるの?マリアンヌ様はどうしたの?
「やぁジョエル。マリアンヌは今シャルルが独り占めしているよ。」
「シャルル様が?」
ジョエル様は怪訝そうな表情をしている。
「あぁ。二人は今シャルルの宮でお茶を飲んでるはずだ。シャルルがマリアンヌに美味しいお茶を淹れてあげるって張り切ってたよ。」
どういう事!?ユーリ………まさかシャルル様にマリアンヌ様を押し付けて逃げてきたんじゃないでしょうね………。
ユーリは涼しい顔をしている。これは間違いない。シャルル様、可哀想に………。
「君、私にもお茶をくれるかな?」
え!?ユーリも入るの?
控えていた侍女は手早くユーリの分の紅茶を淹れる。
これは一体どういう状況なのか。リンシア王女も私も閉口する。
「さすがジョエルだね。女性の心を潤す物をよく知ってる。」
目の前のお菓子の事を言っているのだろう。
すっかり潤されてしまった手前、とても恥ずかしい。
「私など殿下に比べれば………。」
「そんなに謙遜する事はない。公爵邸の方には縁談も山ほど来てるそうじゃないか。そろそろ身を固めてはどうだい?」
ユーリの言葉にジョエル様はとても気まずそうな様子だ。
「マリーもそう思わない?」
私にそんな話振る!?ユーリ……一体何を考えてるの?
しかし答えない訳にはいかない。
「………そうね。ユーリ、このお菓子は王都で今流行りの物をジョエル様がリンシア王女にと用意して下さったの。こんなにお気遣いができるジョエル様だから、周りの女性が放って置かないのは当たり前だわ。もしかしたら引く手あまたで困ってしまっているのかも………。」
公爵家長男・美形・高身長・頭脳明晰・性格良し(私以外には)とくれば、彼を射止めんとする女性達が鼻息を荒くしている事くらい容易に想像がつく。
それでも結婚しないのは………まさか私の事を想っているからとでも………?まさかね……。
「マリーの言う通りかもしれないね。ねぇジョエル、誰か気になるご令嬢はいないの?良かったらお節介を焼かせて貰うよ?私もお前には色々と面倒をかけているみたいだからね。」
「それは私も気になりますわ!ジョエル様?いらっしゃるんですの?どなたか想う方が?」
二人の猛攻にジョエル様は困ったように笑い、その後口を開いた。
「お二人には参りましたね。………確かに、想う方はおります。もうずっと長い事拗らせてしまって………。」
「えーーーーーーっっ!?」
お茶にお菓子に恋の話。年頃の娘さんの大好物が勢揃いしたこの状況にリンシア王女の乙女心は最高潮まで達した。
リンシア王女ったら………もはや悪役じゃなく、ただただ可愛いだけの娘さんになっちゃってるじゃないですか………。
「どんな!?どんな方ですの!?聞きたいですわ!殿方の恋のお話なんて、私みたいな男臭い国に生まれた女にはこの先一生ご縁がありませんもの!ジョエル様!後生ですから聞かせて下さいませ!!」
「私も聞きたいな。ジョエル、頼むよ。」
ユーリまで………。
「残念ながら、お二人にお聞かせするほど彼女と共に時間を過ごした事が無いのです。」
「何故ですの!?ジョエル様って積極的なタイプでしょう?」
「えぇまぁ……でも彼女には他の女性にするようには出来なくて……。情けないですよね。 」
ジョエル様は眉を下げて笑う。
「本当に好きな方にはなかなか素直になれないって…恋愛の指南本なんかによく載ってるあれですわね!?ジョエル様のように大人の男性でもそうだなんて………恋って難しいのですね……。」
リンシア王女はすっかりジョエル様の話に夢中だ。恋愛の指南本まで読んでるくらいだ。現在進行中で恋愛をする男性の本音を聞きたい気持ちは抑えられないだろう。
「ジョエル様のお気持ちをお相手の方はご存知ですの?」
「………ええ、それが………つい先日奇跡のような事が起こりまして、想いを伝える事が出来たのです。」
「まぁぁ!!!それは良かったですわね!!で?反応はいかがでしたの!?」
「………まだ何も。でもいつか答えを聞かせてくれると思っています。」
ほら、つまらない話でしょう?とジョエル様は自嘲気味に笑う。
「つまらなくなどありませんわ!ねぇ?ユリシス殿下?」
「………あぁ。そうだね。私もお前の恋の結末を知りたいよ。ねぇ、マリー?」
名前を呼ばれてドキッとした。
ユーリの目は笑ってるようで笑ってない。
「………えぇ、そうね。」
私はシャルル様に言われた事も忘れ、作り笑顔でそう答えるのが精一杯だった。
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