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6章
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しおりを挟む経験不足。そんな言葉が頭の中をぐるぐると回る。
触れられた指にどう返すのが良かったのか。勿論即座に反応など出来るわけがなく、既にジョエル様は自分の席に戻っている。
不甲斐ない………そもそも恋愛経験がユーリしかない(しかしそれも普通の恋人が踏む手順をかなりすっ飛ばした感がある)私には、こんな大人の男性と駆け引きするなんて土台無理な話なのだ。
しかし冷や汗ダラダラでうつむく私をジョエル様は心なしか嬉しそうに見ている。
おかしい………こんな挙動不審な私に微笑むポイントなど何もないはずなのだが………。
「とっても美味しいけど…全部食べたら太っちゃいそうで怖いわ。」
リンシア王女は目の前のお菓子に夢中ですっかり悪役モードから離脱してしまっている。国難に立ち向かう王女の気持ちをお菓子一つで散らすとは………マーヴェル家長男恐るべし。
駄目!これでは駄目なのですよリンシア王女!
思い出して下さい。何のための早起きです?その立派な縦ロールを作るためでしょう!?
私の懇願するような視線に気付いたのかリンシア王女は一瞬気まずそうにした後再び気を取り直した。
「そ、そういえばジョエル様。マリアンヌは今殿下のお部屋へ?」
「ええ。今日は直接との事で………。」
ジョエル様はチラリとこちらを見た。まさか私に気でも使っているのだろうか。
「マリエル様は今日から公爵邸の方にお帰りになるそうよ。マリアンヌが殿下のご寵愛を受けるのももうすぐかもしれませんわね。」
再びいい感じになってきた!私はすかさず切ない表情でうつむく。
「公爵邸に………?本当ですかマリエル様?」
「はい………。殿下にそうするようにと。」
ジョエル様は信じられないといった表情だが信じて貰わねば困る。
「お気の毒ですけれど王族の繁栄のためには仕方のない事ですわ。殿下も健康な男子ですもの。ねぇ、ジョエル様?」
「ええ………。リンシア王女、もう少し召し上がりますか?」
「あらっ!よろしいの?じゃあ少しだけ………」
ジョエル様は難しい顔のまま菓子を取り分けていた。
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