上 下
202 / 331
6章

36

しおりを挟む





経験不足。そんな言葉が頭の中をぐるぐると回る。
触れられた指にどう返すのが良かったのか。勿論即座に反応など出来るわけがなく、既にジョエル様は自分の席に戻っている。

不甲斐ない………そもそも恋愛経験がユーリしかない(しかしそれも普通の恋人が踏む手順をかなりすっ飛ばした感がある)私には、こんな大人の男性と駆け引きするなんて土台無理な話なのだ。
しかし冷や汗ダラダラでうつむく私をジョエル様は心なしか嬉しそうに見ている。
おかしい………こんな挙動不審な私に微笑むポイントなど何もないはずなのだが………。

「とっても美味しいけど…全部食べたら太っちゃいそうで怖いわ。」

リンシア王女は目の前のお菓子に夢中ですっかり悪役モードから離脱してしまっている。国難に立ち向かう王女の気持ちをお菓子一つで散らすとは………マーヴェル家長男恐るべし。

駄目!これでは駄目なのですよリンシア王女!
思い出して下さい。何のための早起きです?その立派な縦ロールを作るためでしょう!?

私の懇願するような視線に気付いたのかリンシア王女は一瞬気まずそうにした後再び気を取り直した。

「そ、そういえばジョエル様。マリアンヌは今殿下のお部屋へ?」

「ええ。今日は直接との事で………。」

ジョエル様はチラリとこちらを見た。まさか私に気でも使っているのだろうか。

「マリエル様は今日から公爵邸の方にお帰りになるそうよ。マリアンヌが殿下のご寵愛を受けるのももうすぐかもしれませんわね。」

再びいい感じになってきた!私はすかさず切ない表情でうつむく。

「公爵邸に………?本当ですかマリエル様?」

「はい………。殿下にそうするようにと。」

ジョエル様は信じられないといった表情だが信じて貰わねば困る。

「お気の毒ですけれど王族の繁栄のためには仕方のない事ですわ。殿下も健康な男子ですもの。ねぇ、ジョエル様?」

「ええ………。リンシア王女、もう少し召し上がりますか?」

「あらっ!よろしいの?じゃあ少しだけ………」

ジョエル様は難しい顔のまま菓子を取り分けていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

処理中です...