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6章
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しおりを挟む何を言ってるのこの人……。
私を嫌った事などない?何よそれ……。
幼い私にあれだけの事をしておいて今さら言い逃れをしようって言うの?
「………俺は「あなたは嘘つきだわ」
思うより先に言葉が出ていた。
「私が………私がこの十年どんな気持ちで過ごして来たと思ってるの?あなたのせいで人の声が怖くて、外に出るのが怖くてどこにも行けなくなって………公爵家のお荷物のまま人生を終える事にずっと罪悪感を抱いて生きてきたのよ。それを彼が……ユーリが私を救ってくれたのに、それなのに彼まで私から取り上げるの?どれだけ私を苦しめれば気が済むの!?」
悔しくて悲しくてたまらない。こんな人の前で泣きたくなんてないのに瞳からは勝手に涙が流れて行く。
「違う俺は………!!!」
「ユーリが私を裏切る?ええそうよね。いつかそうなるかもしれないわ。だってあなたはそのためにマリアンヌ様を推してるんですものね、でも構わない!たとえ彼に傷付けられたって、彼はそれ以上のものを私に与えてくれたから!だから……!!」
ジョエル様はソファーから立ち上がり私の隣へと腰掛けると素早く私を腕の中に抱いた。
「は、離して!!何するの!?」
「少し落ち着いて!」
落ち着ける訳がない。何とかその腕から逃れようと彼の胸をドンドンと叩いて身体を捩る。
「っっ!!!」
その時振り上げた私の拳が彼の顔に当たってしまった。顔を殴ってしまった事に驚いた私は咄嗟に謝ってしまう。
「っごめんなさい………!!」
「いや………君のせいじゃない………。」
しかしジョエル様の手は緩む事はない。
「おねがいだから離して……っ!!」
どんなにもがいても男の人の力には敵うはずもない。護衛が側で聞いていては本性を現すまいとヴィクトル様を外で待機させたのが仇となってしまった。でも大声を出せばきっと………
「頼むから俺の話を聞いてくれ!!」
ジョエル様は強く強く、声も出せない程に私を抱き締める。
「苦し………ジョエル様……!」
「頼むから………聞いてくれるなら手を緩めるから………。」
ジョエル様の胸に押し付けるように抱かれ苦しくてたまらず、私はコクコクと頷く事しか出来なかった。
腕の力が緩められると肺に空気が入ってくる。
そしてジョエル様の香りも。
ジョエル様の淡い緑の瞳のような爽やかな清涼感あるこの香りに、頭の中にある光景が浮かぶ。
『マリエル嬢はどれが好きかな?』
広い庭園。
お父様とダニエル様。
淡い緑色のドレスを着た私。
可愛い二人の男の子と私より年上の………赤い髪の素敵なお兄さん。
あぁそうだ………何で忘れていたんだろう………。
傷付けられた事で頭がいっぱいで、初めて出会ったあの日の事をずっと忘れていた。
あの時も優しい顔でお菓子を選んでくれた。
さっきみたいに………
それなのに何で?
また遊びにおいでって言ってくれたのに。
何で………何で………
「何であんな事したの………ジョエル様……!!」
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