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6章
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しおりを挟む「お茶を頼む。あと菓子もいくつか持ってきてくれ。」
リンシア王女が部屋を出た後ジョエル様は侍女にそう言い付けた。
目の前で紅茶が音を立てて注がれて行く。お菓子の甘い香りも漂って、女の子の大好きな光景が広がる。
しかしそれを幸せだと感じる事はとても出来なかった。なぜならお茶の相手がこの世で一番苦手なこの人だから。
一体何を話せって言うの?………。この人も私とお茶なんて飲みたくもないだろうに……。
ジョエル様は特に何を話すでもない。私と向かい合ってはいるが、無言のままだ。
することがない私はつい何度もお茶に手が伸びる。侍女が淹れてくれたお茶は南国の花が原料の、爽やかな酸味のある紅茶だった。本当は酸味のあるお茶は苦手なのだかさっき注がれたばかりのカップは気付けばもう空になっていた。
「新しい湯とカップを持ってきてくれないか。」
ジョエル様は沸かした湯を侍女に持って来させると、それを受け取り侍女を下がらせた。何をするのかと思ったら自分の手で新しいお茶を淹れ始めたのだ。先程とは違う茶葉の缶を開け、慣れた手付きでお茶を淹れる。
そしてジョエル様が淹れた紅茶の入ったカップは私の前に置かれた。
「えっ………?」
「飲んでみて。」
私に!?
目の前のカップからは湯気と共に柔らかな香りがする。まさかとは思うけど毒とか入ってないわよね………。
「毒なんて入れてないよ。だから安心して。」
あ、バレた。そんなにわかりやすい表情をしていたかしら。
恐る恐るカップに口をつけると砂糖も入れてないのに甘味が広がる。
「……美味しい………!!」
びっくりしてつい言葉が出てしまった。
はしたなかったと思いジョエル様の方を見ると
え………?
ジョエル様は私を見て微笑んでいた。
びっくりして何も言えないでいる私をよそに、ジョエル様は美しく絵付けされた小さな皿を手に取った。何をするのだろう?その目は色とりどりの菓子が並べられた皿に向いている。
さすが王宮お抱えの菓子職人が作っただけある。見目の美しさはもちろんその味の種類も豊富だ。チョコレート一つとっても甘いものからほろ苦いもの、果実や木の実を練り込んだものまで何種類もある。甘酸っぱいジャムの乗ったクッキーや、ブランデーをたっぷりと塗りつけて寝かせたケーキまで、見ているだけでお腹も心も満たされるよう。
でもジョエル様はその中から甘いものばかりを選んで皿に乗せて行く。そして甘いだけじゃなく細工の美しい綺麗な菓子から優先的に。まるでわざとそれ以外を避けているようだ。
酸味や苦味が苦手なのかしら………?
淹れてくれた紅茶もとても甘みがあった。
そんな事を考えていたら、ジョエル様の手にあった皿は私の前に置かれた。
「………え………?」
私の反応にジョエル様は吹き出して笑う。
「さっきから“え?”しか言わないね。」
だってそれしか言いようがない。
「酸味のある紅茶が嫌いなのは変わってないみたいだね………。じゃあまだ甘い焼き菓子が好きなのも変わっていないかな?そう思って選んだつもりだけど………それも食べてみて?」
何で………何でそんな事知ってるの?
ユーリにだって言った事がないのに。
酸味のある紅茶が苦手で…甘いお菓子、特に焼き菓子が好きな事………。
ジョエル様は小さな銀のフォークを私に差し出す。いきなり差し出されたそれに慌てて手を伸ばすと、ジョエル様の手に指先が触れた。
「ご、ごめんなさい!」
「慌てなくていい。」
そう言ってジョエル様は自身の両の手で私にフォークを握らせた。
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