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6章
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しおりを挟む「万が一失敗したらどうする?」
皆が答えを躊躇う中、口を開いたのはレーブン様だった。
「身分がわかるようなものは一切所持しないようにします。そして万が一失敗した時はダレンシア兵に捕まる前に自分で命を絶ちます。」
クリストフ様の答えにレーブン様は満足気に頷く。
「陛下。殿下。その任務、クリストフにやらせて下さい。」
「そんな!!」
リンシア王女が叫ぶ。父親なら止めてくれると思ったのだろう。
「息子はまだ未熟な所はありますが、その覚悟は本物です。ガーランドに迷惑をかける事はないでしょう。」
「お前はそれでいいのかレーブン。」
陛下の言葉にレーブン様は迷いなく答える。
「息子が自分で翔ぼうとしているのです。喜びこそすれ何を迷うことがありましょうか。」
その顔は優しく微笑んでいる。これはきっと公爵としてじゃなく、父親としての顔。
自分を信じて行かせようとする父の言葉にクリストフ様の目は赤く染まり、涙を堪えた瞳はキラキラと輝いている。
ややあって陛下は諦めたようにため息を吐いた。
「………わかった。クリストフ。君に任せる。その代わり必ず帰って来なさい。わかったね?」
陛下の言葉にクリストフ様は大きく頷く。
「マリエル様ごめんね。僕が自分で護衛に志願したのに………。」
「私の事なら大丈夫です。ヴィクトル様がいて下さいますし………。それよりクリストフ様。必ず無事で帰って来て下さいね。」
「わかってる。僕だってまだ死にたくはないしね。
……………じゃあこれからの事を少し話させて下さい。」
クリストフ様はこれからの流れについて自分の考えを話しだした。
「まず僕は明日の朝一番にフランシス様の所へ行きます。そしてその薬の製造に携わっていた、もしくは同時期にそこで勤めていた人間のリストを手に入れて来る。
で、リンシア王女には最初の態度のままマリエル様に接していて欲しいんだ。」
「それは構わないけど………なんで?」
「僕達がやろうとしてる事を敵に気付かせないで欲しいんだ。この話し合い自体が相手にとっては良い展開じゃない。だからこの話し合いで援助は受けられない、交渉が決裂したと思わせるよう明日からまたマリアンヌ嬢を殿下のお妃へと推して欲しい。」
「………わかった。あの子の事はあんまり好きじゃないけど頑張る。」
「マリエル様も、リンシア王女に意地悪されて切なーいって顔しててね!」
「わ、わかりました!」
演技は得意じゃないけどやるしかない。
「殿下は………あの、非常に言いにくいのですが………。」
「何だ?お前だけ危険な目に合わせて私だけ何もしない訳にはいかないだろう。出来るだけの事はする。言ってみなさい。」
ユーリの言葉にクリストフ様の顔がぱぁっと輝く。
「やった!本当に!?さすが殿下!
じゃあお願いします!マリアンヌ様との婚約を考える姿勢を周りに見せて下さい!」
「………はぁ!?」
凄まじくドスの利いたユーリの声が部屋に響いた。
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