上 下
183 / 331
6章

17

しおりを挟む





「万が一失敗したらどうする?」

皆が答えを躊躇う中、口を開いたのはレーブン様だった。

「身分がわかるようなものは一切所持しないようにします。そして万が一失敗した時はダレンシア兵に捕まる前に自分で命を絶ちます。」

クリストフ様の答えにレーブン様は満足気に頷く。

「陛下。殿下。その任務、クリストフにやらせて下さい。」

「そんな!!」

リンシア王女が叫ぶ。父親なら止めてくれると思ったのだろう。

「息子はまだ未熟な所はありますが、その覚悟は本物です。ガーランドに迷惑をかける事はないでしょう。」

「お前はそれでいいのかレーブン。」

陛下の言葉にレーブン様は迷いなく答える。

「息子が自分で翔ぼうとしているのです。喜びこそすれ何を迷うことがありましょうか。」

その顔は優しく微笑んでいる。これはきっと公爵としてじゃなく、父親としての顔。

自分を信じて行かせようとする父の言葉にクリストフ様の目は赤く染まり、涙を堪えた瞳はキラキラと輝いている。

ややあって陛下は諦めたようにため息を吐いた。

「………わかった。クリストフ。君に任せる。その代わり必ず帰って来なさい。わかったね?」

陛下の言葉にクリストフ様は大きく頷く。

「マリエル様ごめんね。僕が自分で護衛に志願したのに………。」

「私の事なら大丈夫です。ヴィクトル様がいて下さいますし………。それよりクリストフ様。必ず無事で帰って来て下さいね。」

「わかってる。僕だってまだ死にたくはないしね。
……………じゃあこれからの事を少し話させて下さい。」

クリストフ様はこれからの流れについて自分の考えを話しだした。


「まず僕は明日の朝一番にフランシス様の所へ行きます。そしてその薬の製造に携わっていた、もしくは同時期にそこで勤めていた人間のリストを手に入れて来る。

で、リンシア王女には最初の態度のままマリエル様に接していて欲しいんだ。」

「それは構わないけど………なんで?」

「僕達がやろうとしてる事を敵に気付かせないで欲しいんだ。この話し合い自体が相手にとっては良い展開じゃない。だからこの話し合いで援助は受けられない、交渉が決裂したと思わせるよう明日からまたマリアンヌ嬢を殿下のお妃へと推して欲しい。」

「………わかった。あの子の事はあんまり好きじゃないけど頑張る。」

「マリエル様も、リンシア王女に意地悪されて切なーいって顔しててね!」

「わ、わかりました!」

演技は得意じゃないけどやるしかない。

「殿下は………あの、非常に言いにくいのですが………。」

「何だ?お前だけ危険な目に合わせて私だけ何もしない訳にはいかないだろう。出来るだけの事はする。言ってみなさい。」

ユーリの言葉にクリストフ様の顔がぱぁっと輝く。

「やった!本当に!?さすが殿下!

じゃあお願いします!マリアンヌ様との婚約を考える姿勢を周りに見せて下さい!」



「………はぁ!?」


凄まじくドスの利いたユーリの声が部屋に響いた。












しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

塩対応彼氏

詩織
恋愛
私から告白して付き合って1年。 彼はいつも寡黙、デートはいつも後ろからついていく。本当に恋人なんだろうか?

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

処理中です...