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6章

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可哀想に………。
リンシア王女は確か私より年下だったはず。それなのにこんな嫌な役をさせられて、晒し者のようになって………。マリアンヌ様を正妃にする事で莫大な援助を望めると美味しい話に乗ったのはダレンシアだが、話を持ちかけたのはジョエル様を始めとする貴族達だ。こんな事を女性にさせるなんて許せない。

彼女の口振りから察するに、国民の事を彼女なりに大切に思っているのだろう。そして国の現状を把握し未来を憂いている。だからこそこんな事を引き受けたんだろうな…。辛かっただろう。悔しかっただろう。ガーランドへの道中何を考えていたのだろう。同情は出来ないが、彼女の立場の辛さを思うと切なかった。


「何よそんな顔して………心の中ではいい気味だと思ってるんでしょ!?」

リンシア王女は私の表情が気に障ったようだ。

「そんな事は思っておりません。」

「じゃあ何?同情でもしてるの?それこそ余計なお世話だわ!」

「………同情できるほど私はリンシア王女の事を知りません。ただ………」

「ただ何よ………?」

皆の視線が私に集中してる。
手には嫌な汗が滲んできた。
怖いけど逃げる訳には行かない。絶対に。

「………ダレンシアは確かに軍事強硬派で知られていますが、国王陛下は決して民を蔑ろにするような方ではなかったはずです。」

一度も口を開かなかった私が喋り出した事に皆驚いたようだ。隣にいるユーリも目を見開いている。

「ダレンシアとガーランドが友好を結ぶ事となったのは先の戦でのダレンシアの敗戦と伝えられてはいます。しかし真実は、劣勢を強いられたダレンシアで民の身に被害が及びだし、それを重く受け止めたダレンシア国王陛下が最悪の事態に陥る前に引かれたのだと私は教わりました。そのきっかけとなったのが農村部での略奪、虐殺だったと。」

戦争で土地を踏み荒らされ家を焼かれ、住む場所も食べる物も失った民は暴徒と化し、食料を求めて農村部を襲った。同じ民族同士なのにだ。元々が豊かな国ではない上配給の食料は兵士に優先される。ダレンシア国王は戦場を駆ける傍らできちんと国民を見ていたのだ。

「ダレンシア国王陛下は全面降伏をする代わりにガーランドからの食料品の援助を願い出られた。戦を駆ける誇り高き戦士でもある国王がです。全面降伏などと…とても屈辱的な事だったでしょう。しかしそれよりも国民の命をとられたのです。そんな方が本当に今のダレンシアの状況を放って置かれているとは思えないのです。一体ダレンシアで何があったのですか?」

手の震えが止まらない。
こんな余計な事を言って、それこそ両国の間に何かあったらどうしよう。
私は祈るような気持ちでリンシア王女の答えを待った。

しかし、答えは返って来なかった。
何故ならリンシア王女がその場で大声を上げて泣き出してしまったからだ。






「すごかったね。角笛かと思ったよホント。」

「シャルル様!!!しぃっ!!」

あの後陛下は貴族達にきつく口止めをした。
他言すれば爵位剥奪だと脅し………いや、皆を信用しているよと念を押して。
そして宴はお開きとなり、我々信用できる者だけでリンシア王女を連れて場所を移した。

ウォンウォンと泣くリンシア王女に面喰らった我々だったが、落ち着きを取り戻した後に彼女はゆっくりと話し始めた。

ある日父親が倒れた事。
その日から政務は兄が代わるようになった事。
父の周りに怪しい医師がまとわりついている事。
そして父親が狂ったように軍備増強に心血を注ぎ出した事。

「無事に回復はしたのですが、その日から人が変わったようになってしまったのです………。会いたくてもその医師が父に会わせてくれません。兄は主に事務方の仕事だけなので、軍は相変わらず父の統治下にあります。」

国王の指示なら誰も止められない。しかし何故今そんな事を?

「戦を起こそうとしているのだろうか………でも一体何のために?そしてどの国と………?」

そう言ったレーブン様の眉間には深い皺が出来ている。

「わかりません。何しろ父に会うことが出来ないから………。」

泣いた後のリンシア王女は喋り方もすっかり普通の少女のよう。きっとこれが本当の彼女なのだろう。

「今回の事は本当に申し訳ありませんでした。………でもこのままでは本当に国民は飢えて死んでしまう。兄は私を止めたんです。でも私に出来ることはこんな事しかないから………。」

リンシア王女は悔しそうに唇を噛む。
膝に置かれた手も握りすぎて痕が残りそうだ。

「まぁ…聞いた限りだと一番怪しいのはその医師だね。リンシア王女、その医師は昔から王宮に勤めていた者かい?」

「陛下それが………誰も知らないのです。しかし確かに王宮専属の医師として登録されている。そして何度も取り調べようとしたのですが父が彼を離さない。まるで彼が離れることを恐れているようで………。」

皆で打つ手を考えるが何しろ相手は国王だ。下手な事をすればすぐさま全面戦争へと突入してしまう。しかしこのまま行けばダレンシアの民は全滅だ…………。


「僕が行くよ。」


八方塞がりの状況に風穴を開けたのは。私の後ろに控えていたクリストフ様だった。













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