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6章
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しおりを挟む「あ…………あの…………」
リンシア王女は助けを求めて視線をあちこちに向けるが、貴族達はリンシア王女と目を合わせないように下を向き、口を閉ざした。
私とユーリへ視線を向けているのは私達の婚約を支持してくれた貴族の皆様だ。彼らは余計な事は何も言わず、事態を見守っている。
「殿下……少し宜しいでしょうか。」
「何だジョエル。これはリンシア王女が引き起こした事だ。お前が何を言っても私は耳を傾ける気はないよ。」
「はい。ですがマリアンヌの件でリンシア王女にご助力をお願いした私共にも責任はあります。しかし先ほどのリンシア王女の発言は純粋に我が国の行く末を心配しての事。今まで一度も社交界へ姿を見せなかったご令嬢が、瞬く間に殿下の婚約者候補へ登り詰めたのです。これを心配しない者がおりましょうか?」
ジョエル様の出した助け船にリンシア王女の表情が僅かに緩み、黙っていた貴族からもちらほらと声が聞こえる。
ユーリは呆れたように深くため息をついた。
「………お前達は私とマリーがつい最近出会ったばかりだとでも思っているのか?それで私がマリーに一目惚れして恋に狂ってまともな判断が出来なくなっているとでも?まったく揃いも揃ってもう少しマシな考えは思い浮かばなかったのか…。」
「…では殿下はマリエル様とは昔から想い合う仲だったと?」
ジョエル様の目は鋭くユーリ見つめている。
「その通りだ。私とマリーが出会ったのはもう十年も前の事。マリーは今は亡き母上より引き継いだ療養院で、懸命に患者達と向き合っていたよ。世間ではその年頃の娘なら着飾ってお茶会巡りに精を出す頃だ。しかしマリーはフォンティーヌ公爵家の厳しい教育をこなしながら療養院で色々な事を学んでいた。とある事情で療養院を訪れた私は彼女と出会い、心を奪われたんだ。そして彼女もその出会いからずっと私を想ってくれていた。」
……ん?
ずっと想ってくれていた?
何か違うぞ。ユーリ、脚色してません?
「私達はお互いを想いながら誰にも知られぬよう愛を育み、清い関係を続けていた。何故だかわかるか?マリーが婚姻を結べる年まで待っていたんだ。」
ちょ、ちょっとユーリ!?大分違いますよ!?
私はあなたと出会っていた事すら知りませんでしたけど!?
「どうせならきちんと結婚するまで待てば良かった?その方が………もっと悦びが大きかったかな?ごめんねマリー、我慢が出来なくて……。」
そこは【悦び】じゃなくて【喜び】ですよね!?やめて甘い顔で頬っぺ触らないで!
陛下と王妃様はワイン片手に私達を見ながらニヤニヤしている。いや、ニヤニヤじゃないな。あれは私が今受けている一種の羞恥プレイを楽しみながらイチャついていらっしゃるのだ。こちらとしては楽しんでないで色々と助けていただきたい。
そしてそんな私達の話を聞いていたマーヴェル派の貴族から声が上がる。
「な、何と!それなら何の心配もないではないか。至極真面目で素晴らしいお嬢さんだ。」
「そうだな。しかもシモン殿のお嬢さんだ。フォンティーヌ公爵家での教育を修了したという事は、国の要職にも就ける能力があると言う事。正妃の資格は十分どころか十二分にある。」
今まで野次を飛ばしていた貴族達の態度は一転した。おそらくマーヴェル側から聞いていた情報と今目の前で見た光景が大きく違っていたのだろう。流れが変わったと思いユーリを見ると、ユーリとジョエル様が睨み合うようにお互いを見ていた。
「何か文句でもあるのかジョエル。」
「………。」
ジョエル様は口を真一文字に引き結んだまま何も言わない。
「お前がいくら吠えたところでマリーを正妃にする気持ちは変わらない。
………それよりリンシア王女。未来の王妃にここまで無礼を働いたんだ。いくら君が王女だろうと関係ない。ダレンシアにはこの事に対する抗議文を送ると共に交易は一旦停止させてもらう。そしてそちらの出方次第では近い将来に友好条約も破棄する事になる。覚悟するんだね。」
「そっ、そんな!!私はただ良かれと思って…!!!」
「悪気がなければ何をしても良いって?本当にどうしようもない子だね。王家に籍を置くものとしての自覚がまるでない。こんな子に国の未来を心配されるなんてガーランドの評判も落ちたものだ。」
「何ですって!?」
子供扱いをされたリンシア王女の頬はみるみる赤くなり、息を荒げ始めた。
「あなた!そんな事してただで済むと思ってるの!?お父様が…ダレンシア国王が黙ってないわよ!!すぐ戦争が起こるわ!それでも良いって言うの!?」
「それはこっちの台詞だよ。それで本当に良いの?今の状態で戦争なんてすれば君の国は滅びるよ。ただでさえ飢えで命を奪われていっている民は抵抗する力も残っていないだろう。争いに巻き込まれれば全滅だよ。」
「っっ………!!」
「………君には国民への愛や感謝はないのかい?自国を愛し守る心は。」
「………あるに決まってるじゃない!!!でもどうしろって言うのよ!!お父様は戦って支配する事でしか生きられない!!私だってこんな役目死ぬほど嫌だった!
…どうせ……どうせ援助を受けられたところでそれは民のためじゃなく戦のために使われるんだから………。」
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