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6章
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しおりを挟む今日は夜会のような派手な装いは避け、上品な紺色の布地に裾はビーズを留め付けて柄を出したドレスにした。髪は編み込んだ後結い上げて、ドレスと同色のリボンで飾る。
あまりごてごてしない方が良いだろうと思い、アクセサリーはシンプルなイヤリングと揃いのネックレスにした。
「こんなに素敵にしていただいて嬉しいです。ありがとう、エルザさん。」
ユリシス様付きの侍女のエルザさんにお礼を言うと、照れたように“いえ…”と下を向く。
エルザさんは私がまだ王宮内に不慣れな頃、ユーリの宮から案内をしてくれていた女性だ。
聞くところによるとこのエルザさんという方はユーリの侍女になって長いそうで、あのユーリでさえもその働きぶりを褒めるくらい仕事も完璧なのだそう。
確かに彼女は他の宮で見かける“いかにも嫁ぎ先を探しに来ました”と言うような侍女達とは様子が違う。整った顔立ちにはいつも化粧っ気がなく香水の匂いもしない。余計な話もしないから私から話し掛けない限り声を聞く機会もなかっただろう。
「やぁマリー、綺麗だね。」
隣の部屋から正装に身を包んだユーリが顔を出す。白を基調とした王子様仕様のこの姿を見ると、とてもドキドキしてしまう。
「ユーリこそ、とっても素敵です。」
「ありがとう。マリーが髪を結い上げた姿は初めて見るけど、とても良く似合ってる。………でも君の美しいうなじを他の男に見せるのは嫌だな…。」
少し背中の開いたドレスは大人っぽくてちょっと恥ずかしい。ユーリはとても切ないようでいて何かを堪えるような表情をした後、私の背中に口付ける。
「………早く夜が来ればいいのに…。」
ユーリ………ほんのさっきまで夜でしたよ……。
ていうか侍女の皆さんが赤面して下を向いたままになってますから!気付いてあげて!
「マリー。ちょっとこっちへ来てくれる?」
?
ユーリは私の手をとり自室へと歩いて行く。
「そこに座って待っていてくれる?」
そう言われソファーに腰掛けて待つと、ユーリは奥から小さな黒い箱を手に持ってきた。ベルベットで出来たそれはジュエリーケースだろうか。
「これを君に…。」
ユーリが箱を開けるとその中には大きな空色の宝石が輝く指輪が。
「ユーリ、これ………」
驚く私にユーリは優しく微笑む。
「婚約指輪は今作らせているんだけど今日には間に合わなくてね。これは私からマリーへの愛の証。この石を見た時思ったんだ。大きくて丸いマリーの空色の瞳そっくりだって。」
差し出された彼の手の平に私の手を乗せると、ユーリの細く長い指がゆっくりと薬指に指輪をはめていく。
「私だと思ってつけてくれると嬉しい。」
「ユーリ………。」
私………頭の中は王女様のお相手を務める事ばかりでユーリの事まで気が回らなかった。
「マリー。無理をお願いしたのはこちらなんだ。それは気にしないで。」
そんな…無理なんかじゃない。これは私がやらなきゃいけない事。
「決めたの。ユーリのお嫁さんになるって。だから無理をお願いしたなんて言わないで。でも…でも私一人じゃ乗り越えられないからユーリに側にいてほしい。ユーリの側にいられない時はこの指輪をユーリだと思って頑張る。」
お守りだ。それもとびきり御利益のある。
「うん。失敗したっていい。思いっきりやっておいで。戻ってきたら私の腕の中で思いっきり甘やかしてあげるからね。」
もちろん夜だよ、と付け加えられる。
この時私は、失敗しても黙っておこうかと本気で考えていた。
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