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6章
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しおりを挟む明日の打ち合わせも一通り終わったところでユーリは残った仕事を片付けるために退室した。
【夕食は二人でゆっくりとろう。】
そう言い残して。
そして案内された王子妃の部屋に通された私は………とんでもなく緊張していた。
ここに入室が許されるのは世界でただ一人。王子の正妃のみだ。側妃は立ち入る事は許されない。ジュリアン国王陛下は側妃を娶られなかったが、歴代の国王は皆表に出すかどうかは別として側妃を娶られている。恋であったり、政略であったり理由も様々だが…。
………ユーリが側妃を娶らなければならない日はいつか来てしまうのだろうか。今の平和がずっと続くかなんて誰にもわからない。そしてユーリは私との約束よりも国民の命を優先する。それは当たり前の事だ。可能性はそれだけじゃない。ユーリが恋に落ちる事だって………。
今までの王子妃達はこの部屋でどんな事を考えて過ごしていたのだろう。
そして、側妃を娶る夫の事をどんな風に考えていたのだろう。
ダメだ………また悪い事ばかり考えてる。
今はとにかく明日の事に集中しないと。
この部屋に私を入れてくれたユーリを信じなければ………。婚約前の私を入れる事で反発もされただろう。それはきっとお父様もだ。
私の人生で、私の欲しい幸せなのだ。私が頑張らないと。
「……でもとりあえず少し休みたいわ…。」
情けないけど朝からドタバタしてたせいだろう。眠くてたまらない。私はベッドに“少しだけ…”と横になるとすぐ眠りについてしまった。
「いや、いいよ。何か軽く食べれるものを私の部屋に運んでおいてくれ」
………ん………
遠くで扉の閉まる音がすると、ギシッとベッドが軋む。
「…疲れたんだね……。ありがとう、マリー。」
私の頭の下にそっと腕を差し入れ胸の中にしまいこむように抱く。
ユーリの匂い………。大好き………。
「………ユーリ………」
「マリー、起こしてしまった?」
「ううん……。ごめんなさい。少し眠くなってしまって……ユーリ……大好き……。」
ユーリの肌は魔法のよう。一瞬で私を幸せにしてしまう。
「もう少し眠る?私に気を遣わなくていいんだからね。」
「ううん…一緒にいたいの。ずっと逢いたかったから………。」
「ふふっ、でも目が開いてないよマリー。」
「もう少しだけ待って………。起きるから。」
もう少しだけくっついていたくて、腕の中で丸まる私の頭にユーリはキスを落とす。
くすぐったいけど、優しくて気持ちいい。
「………ずっとマリーをここに閉じ込めておきたい……。でももうすぐだ。」
もうすぐ…早くそうなって欲しい。
「あの静養地での三日間…君を毎晩腕に抱いて眠る幸せを知ってしまってから辛かった……。
一人で眠るのはもう嫌だ。マリー…マリーが滞在する間はずっと一緒に眠ろう?駄目?」
駄目なんかじゃない。私も淋しかった。
ずっとずっと不安で淋しかった。
「淋しかったの………。」
「うん………。」
「わがまま言っちゃいけないって………」
静かに涙が頬を伝い、ユーリの胸元を濡らす。
「ユーリのお嫁さんになればこの不安も消えるのかなって思ってたけど………多分違う。
この先あなたを想い続ける限り、この不安は一生続くんだわ。」
そう。多分おばあちゃんになってもずっと。
「これから大人の男性へと変わって行くあなたはもっともっと大勢の人を惹き付ける。今だってこんなにも素敵なのにこれ以上なんて……。
あなたの周りにはたくさんの美しい女性が群がるわ。それを見るたび私は不安になって、嫉妬して、泣いて………きっとあなたをたくさん困らせる。」
それを笑って許してとはとても言えない。
「………困らないよ。」
「……え……?」
「ねぇマリー?どうしてそれが君だけの事だと思うの?」
それ、とは私が不安になって嫉妬して困らせるという事についてだろうか。
「私がそうなるとは思わないの?」
「ユーリが?私に?」
「うん。」
「………とても思えないわ。」
私の答えにユーリは上に覆い被さって来る。
美しい瞳が私の心の奥を覗き込む。
「君と再会してからのわずかな期間に君の周りには何があった?シャルルは君に心を奪われ、夜会では男達がこぞって君を舐め回すように見つめ、レーブンの所の奴らは全員君の虜だ。挙げ句………まさかあいつまで……。」
あいつ?
「ユーリ、あいつって誰?」
ユーリは私を見つめたまま何も言わない。
「ユーリ……?」
頬に手を当ててみてもユーリはピクリともしない。何を考えているのだろう。
「………もし君に触れたなら、殺すかもしれない。」
殺す………?一体誰の事を言ってるの?
ユーリの表情は今まで見たことが無いくらいに冷たく感情が抜け落ちている。
「マリー………」
耳元で低く甘く私の名を囁いた後、首筋に顔を埋め私の匂いを確かめるようにしながら唇を這わせて行く。
「……さっきまで眠ってたせいだね…マリーの身体…とても温かい……。」
それは……何だか小さな子供みたいでとても恥ずかしい。
「全部見せて……マリーの全てを。」
ユーリはドレスを脱ぐのを手伝ってくれながら、少しずつ現れる肌に口付けて行く。
後ろから抱き締められ、大きな手で乳房を包まれやわやわと揉まれると、芯が熱を帯びて緊張する身体を解していく。
「綺麗だ……。たまらなく欲しかったよマリー…君じゃなきゃ駄目なんだ…他の誰でもない。君だけだ……。」
「ユーリ………」
嬉しい…。ずっとそう言って欲しかった。
そしてこれから先も何度でも言って欲しい。
「マリー、久し振りだから痛くしないようにたくさん溶かしてからにしようね。」
「たくさん溶かす…?………えっ?きゃっ!!」
背に片手を添えられたと思ったら、そのまま後ろに倒される。
「ユ、ユーリ!?」
さっきまでの無表情が一転ニマーっとした悪い微笑みに変わる。
「マリーがお昼寝しておいてくれて本当に良かったよ。」
じわじわと追い詰めるように迫ってくるユーリに嫌な予感しかしない。
「ユーリ、あのね、私もユーリととってもしたいけど明日の事もあるからね?だから……あっあん!!」
「ちゃんとわかってるよ………でもそれはマリー次第だよ?
ここが嫌がったらちゃんとやめるから………」
そこが嫌がるって…そもそもが受け入れる仕様になってるのにどうやったら嫌がれるんだ……。
しかしさすがに明日の事もあるのだからそこまでしないだろうと思っていたこの時点での私は、まだまだ全然ユリシスという人を理解していなかったのだと思い知る。
もっと早く思い出すべきだった。ワインをがぶ飲みしても平気な顔で朝まで励んで、尚まだ頑張れると言ったあの静養地でのユーリを………。
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