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5章

20-6 ジョエル

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「……っん……ジョエル様………すごくいいの……」


自慢の髪を振り乱し腰を動かし続けるマチルドを、俺は下から冷めた目で見ていた。

一度身体を繋げてから、何度も俺を求めて来るようになった。厄介な問題を抱えて助けを求める見返りに身体を差し出す事もあれば、ただ単純に自分の欲求を晴らすために自ら身体を開き俺を誘う事も。


処女を乱暴に散らされた事でさえ自分の強みに変えてしまう。結局この欲深い女には俺の与えた痛みは何の罰にもならなかったという訳だ。


「早く動いて終わらせろ。」

こいつに俺のを使われるのはもううんざりだ。

「んっ…どうして?ジョエル様は気持ちよくないの……あ……ん……」

気持ちいいどころか重い。そして腰を下ろされる度に角度が合ってないのか痛い。

「よくない。早くイケよ。」

早く俺の上からどかしたい。面倒だが両手で腰を掴んで下から思いっきり突き上げてやると狂ったように啼く。

「ひっ……いやぁぁん!!ジョエル様!ジョエル様!」

好きでもない男の名前を叫びながらよくイケるもんだと感心する。
俺なんて勃つことは勃つがマチルド相手じゃ全然イケやしない。

「ねぇジョエル様。足りないんでしょう?」

今だ硬いままの俺自身をうっとりと見つめ手を添える。足りないのはお前の方だろうに。

「いい加減にしろ。さっさと服着ろよ。」

マチルドにそう告げてベッドから起き上がり、汚い滑りを洗い流しに移動した。

屋敷の者も何となくは気付いているのだろう。マチルドが来ると俺の部屋には誰も近寄らない。しかし浴室へ向かう途中、見慣れない人に出会う。

シャノンの母親だ。

「ジョエル様…!」

俺を見るなり頬を染めるので何かと思えばガウン一枚だった事を思い出す。

「これは…見苦しい姿で申し訳ありません。」

急いで胸元を合わせ向き直る。

「こちらにいらっしゃるのは珍しいですね。何か急な用でも?あいにく父は帰ってきていなくて………。」

また新しい愛人でも囲っているのだろう。
ここのところ父はこの屋敷に寄り付かない。

「あ……あの、今日はジョエル様にご相談があって……!」

「俺に?急ぎますか?」

シャノンの母親は俺の目を真っ直ぐ見つめ頷く。シャノンに関する事だろうか。
あいつも大分大きくなって色々わかる年頃になってきた。マーヴェル家の息子として生まれたからにはたとえ愛妾の子だとしてもきちんと身の振り方を考えて行かなければならない。
父親は弟達の事は基本俺任せだ。行ってやらなければ。
後でそちらの棟へ行くと伝え、俺はまずこの汚い身体を洗い流そうと急いだ。






「援助……ですか?」

訪れた別棟でシャノンの母親は大層気まずそうに話を切り出した。
シャノンの母の生家が伯爵家だというのは知っていた。しかし没落寸前だとは今初めて聞いた話だ。

「ジョエル様にこんな事をお願いするのは本当に…本当に胸が痛んだのですが、旦那様はお帰りにならないし、どちらにいらっしゃるのかもわかりません。私にはもうどうする事も出来なくて………。」

涙ながらに語る彼女の顔色は悪い。目の下には隈が出来ている。
おそらくこの話を俺にする前に相当悩んだのだろう。そうだよな………この人達は昔から優しい性根だった。

「わかりました。すぐ手配しましょう。」

「えっ!?」

シャノンの母はまさかと言う顔で俺を見た。

「シャノンもショーンも俺にとっては可愛い弟です。それに………あなたには俺もたくさん助けて貰いました。恥ずかしい話ですが、俺の母はあんなですから………。」

心を壊した母は俺と父と暮らしたあの家から出た。今は近くの離れで使用人と暮らしている。

「父もその…あんなんで申し訳ないとしか言いようがありません。でも俺は弟達の母がお二人で本当に良かったと思っています。」

俺の言葉に彼女は身体を震わせて泣き出した。
よほど不安だったのだろう。いくら公爵邸に住まいを構えさせて貰ってはいても、父の愛情だけが頼りの何とも心細く寄る辺の無い身だ。
援助の事も、それがきっかけで父の愛を失う事になってしまったらと怖かっただろう。

「何でも相談して下さい。家族ですから。」

思えば俺は、失った家族を弟達の家族に触れる事で補完していたのかもしれない。そしてそれに癒されていた。感謝するのはこちらの方だ。

「2~3日中には何とか出来ると思います。だから今日からは安心してゆっくり休んで下さい。」

「ジョエル様………本当に、本当にありがとうございます。私も、旦那様と出会えて…ジョエル様のような素晴らしい方に息子を弟と呼んで貰えて、幸せです……。」

彼女は涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠さずに笑った。
もう大丈夫だろう。

「ではこれで失礼します。また話が進み次第連絡します。」

そしてソファーを立ち上がった瞬間だった。寝不足から来る立ちくらみだろう。彼女は焦点の合わない目で倒れ込む。

「大丈夫ですか!?」

慌てて側に駆け寄ると、気丈にも“大丈夫だ”と返事が帰ってくる。

「とにかく横に………「母上!!!!」

扉が開く音と同時にシャノンが走って来た。

「シャノン、いいところに……!」

一緒に母上を運ぼうと声を発しようとしたその時だった。

「母上に何を言ったんだ!!」

シャノンからは聞いたことも無い大声が部屋中に響く。

「シャノン……!違うのよ……違うの……!」

母親は息子を止めようと手を伸ばす。
シャノンはその手を取り母親の身体を支えながら俺を射殺すような目で睨み付けた。


俺はその目を知ってる。


【あんたなんか産まなきゃよかった!!こんな出来の悪い息子なんて私の子じゃない!!!
あんたも!あの人も!私をバカにして!!!
許さない!!許さないー!!!!!】


そうだ。あの時の母親の目だ。


シャノンはもう立派に男だ。
今まで見えなかった物が見えるようになったのだろう。自分の母親の苦しみを生み出しているのは本邸に住む俺達親子なのだという事実を。



馬鹿だった。俺達が家族だなんて。
俺だけが見ていた幻想だったんだ。



何を言っても違う気がして、俺は無言でその場から立ち去った。

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