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5章

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「一体何をしてるんだお前は………!」

落ち着いた声音だがその底には計り知れない怒気が含まれている。

「だ、だってユリシス様が訓練場に向かったと聞いたから行っただけよ!そしたらマリエル様の護衛の選定をしてるって言うじゃないの。私だって護衛を付けてもらうのは当然でしょ?婚約者候補なんだから!!」

「まだ候補と認められてはいない。ちゃんとした教育も受けていないお前が付け焼き刃の知識であいつらとまともに話せるとでも思ったのか!?このバカが!!
お前が失態を働けば婚約どころかマーヴェル家も罰せられるんだぞ!?そうなったらどうするつもりだ!お前を養女にしたのがただの無駄になるどころかこっちの立場も危うい。」

「だってユリシス様ったら全然お部屋から出てこられないのよ!出てきたと思っても足早に執務室に入ってしまうし………これじゃ取り付く島も無いじゃない!何とかしてよお兄様!!」

「二人の時にその呼び方はやめろ!お前ごときが俺を兄だと?気持ち悪い………。」

振り向き様に怒鳴られ、マリアンヌの身体が硬直する。
怯えるマリアンヌへ向かってゆっくりと歩を進め、目の前で立ち止まるとジョエルはその細く白い首に触れる。

「お前みたいな薄汚い女を拾ってやったのは、あのお綺麗な王子様にぴったりだと思ったからだ………。さっさと媚を売るなり何なりして虜にしてこい。ただし我がマーヴェル家に迷惑がかかるような事だけはするな。………わかったね?マリアンヌ。」

口を歪め嗤うその様は悪魔のようだ。

「………はい……。」

マリアンヌの返事にジョエルは満足そうに微笑む。


「良い子だ………。もう少ししたらやってもらわなければならない事がある。それまでは皆さんに一生懸命顔を売っておきなさい。」











目を閉じれば昨日の事のように思い出せる。


美しく流れる白金の髪………綺麗な空色の瞳と赤い果実のような唇。そして白く透き通るような肌に包まれた小さな身体………。


どれほど焦がれたかしれない。
そしてどれだけ待ったか。

十年だ………。

十年も待ったのに…それなのにあの男、ただ王子だと言うだけで横から奪って行った。

何故あの娘だったんだ。
他にいくらでもいるだろうに何故………!


「絶対に許すものか……!」


誰にも渡さないために傷付けた。
どこにも行けないように。
誰の目にも触れさせないように。


「……マリエル………」


大切な大切な俺だけの名前……。


今度こそ手に入れる。


たとえあいつを殺してでも。




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