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5章

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「こんなにも護衛の選定を急ぐのは、君がこの国で一番価値のある女性だと国中に知られる事になってしまったからだよ。」

?    わたしが一番価値のある女性?
それは一体何の冗談なのか。

「マリー……君、噂をきちんと全部聞いたのかい?」

噂………。
最初にこの話を聞いたのは療養院だった。
医療用品を届けてくれるおじさんが大きな声で話していたのだ。
そしてその日公爵邸に戻って執事に聞いた。そしてルネにも。皆同じ事を言っていたから間違ってはいない筈だ。

「じゃあその噂にこの一文は入っていたかい?【ユリシス王子の寵愛を一身に受けるフォンティーヌ家のご令嬢が、それを利用してヘルマン元侯爵領を手に入れた】って。」

「えっ!?」

何それ!そんなひどい一文は聞いていない。

「やっぱりね。そうだと思ったよ………。」

はぁ、とため息を一つついてユリシス様は続ける。

「私が君に夢中なのが国中に知れ渡った。フォンティーヌ公爵派の貴族にはめでたい出来事だが他の派閥ならどう思う?君の存在は厄介どころの話じゃない。消してしまいたいほどに邪魔な存在になってしまった。だってそうだろう?長年仕えた侯爵家を躊躇なくあっという間に潰したんだ。あれは完全にヘルマンの自業自得だが周りはそうは思っていない。君がヘルマン侯爵家を気に入らなくて私にやらせたと思ってる……と言うよりそう周りに思わせるよう噂を振り撒かれたんだ。」

「そんな………。なんてひどい……。」

「いくら私が第一王子だからって侯爵家を独断で潰すなんて出来やしない。ちゃんと父上と側近達の許可を取った上での事だ。それなのによくそんな嘘を皆信じるものだと思ったが、人と言うのは真実なんてどうでもいいのさ。面白い部分だけ切り取るのが上手い生き物だからね。

それとマリー、前にも言ったがジョエルにだけは気を付けてくれ。」

「王族との縁を狙っているからですか?」

「詳しくはまだ話せない。だが奴が悪人だと言うことだけは覚えておいてくれ。君の過去を抜きにしてもだ。」

私の過去を抜きにしても………でも、それなら何故捕まえないのかしら……。悪人だと言い切るにはそれなりの材料があるのだろうに。

「あいつは絶対に自分の尻尾を掴ませない。だがいくつもの事件にあいつの影が見え隠れしている。だけどもしかしたら………」

「もしかしたら?」

「もしかしたらその尻尾の先を掴んで帰ってくるかもしれない………君のお姉さんが。」

「オデットが!?」

「マチルドとジョエルが幼い君に言った言葉が同じなのはおかしいと思った事はないかい?」

幽霊………。確かに同じ言葉だわ。
でも場所は違う。二人に虐められたのはそれぞれ別の家だったし、二人が一緒にいるところなんて見たこともない。

「マチルドとジョエルは繋がっていた。幼い頃からね。君も聞いただろう?マチルドが身体を開いて解決して貰っていた相手がジョエルだ。

しかしヘルマン侯爵家が取り潰される際、マーヴェル家は一言も発しなかった。取り潰された方が都合のいい何かがあったんじゃないかと思う。そして侯爵家が潰された瞬間今度は矛先を君に向けた。君は今とても危険な状況にいる。」

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