123 / 331
4章
20
しおりを挟む「何だか忙しかったみたいだね。ヘルマン侯爵が来たんだって?」
突然の訪問者の事はフランシス様にも伝わっていたらしい。夕食の席でユリシス様は皆に要点を追って話した。
「………それは、大変な事になりましたね。今年に入って取り潰されるのはオットー公爵家に続き二例目。しかも侯爵家となると……後釜を狙った貴族達で荒れるでしょうね。」
「お父様………。」
悩む父の顔を見ると少し不安になる。ヘルマン侯爵領はフォンティーヌ公爵領の隣だ。揉め事が起こらなければ良いのだけれど……。
「大丈夫。ヘルマンの領地についてはもう考えてある。適任者がいるんだよ。」
意外なほどに明るい声でユリシス様が言う。
「へぇ、ユリシスが言うんだ。かなりのやり手なんだろうね?」
「………いや、未知数。だけどやらせる価値はある。それと万が一何かやらかしても素晴らしい保護者がいるから安心だ。」
ニコニコと微笑みながら今日は少しだけと言って注がれたワインを飲むユリシス様の顔は………とてもとても良くない笑顔の気がした。
「少し歩こうか。」
そう言われて月明かりの庭を手を繋いで散歩する。滞在も今夜で最後なのかと思うととても残念だ。
たった三日間だったけど、私の十六年の人生の中で一番色濃く忘れられない時間だった。
「叔父上の薬草園、入ってみる?」
いつの間にか入り口まで来ていたようだ。
ガラス張りの大きな建物の中は様々な植物でいっぱいだ。
「見てみたいです!」
好奇心から思わず大きな声が出てしまった。
そんな私にふふ、と微笑んでユリシス様は扉を開ける。
「うわぁ………。」
外の気温より高い園内は、薬草の匂いで満ちていた。薬草であろう植物は、小さなものから大きなものまで全てに名札が添えられている。
手彫りのそれはフランシス様がお作りになられたのだろうか。
「この園内には百を越える薬草が育てられてるって叔父上が言ってたよ。そりゃ名札がないと駄目だよね。」
「ユーリも薬草に詳しいの?」
「いや、さっぱりわからない。」
うん。そんな気がする。ユリシス様の性格には向いてなさそうだ。
「初めてここを訪れた時は複雑な気分だったよ。母上の元婚約者だった父上の弟って、聞いただけで既に静養できない気がしない?
それに、口さがない連中からよく聞かされてたからね……父と母と、叔父上の昔話を。」
フランシス様も言っていた。ユリシス様を王妃様とフランシス様の子だと噂する者もいたとか。幼い彼はそれをどんな気持ちで聞いていたのだろう。
「でもね……実際会うと不思議な人でね。…何も話さなくても私の考えてる事がわかってるようだった。だから余計な会話や気遣いは一切いらなくて、楽だったよ。
それから何か大きな事を終える度にここへ来るようになった。叔父上にベラベラと喋ってると、妙に頭の中がスッキリしてね。いつの間にか自分なりの答えが出るんだ。
だから、マリーと一緒にここへ来ようと思ったんだ。何か答えが出るかもしれないって。
そしたら……マリーは答えを出してくれた。
私を選んでくれたんだよね……?」
少し怖がるように私の気持ちを確認するその姿に胸がぎゅっとなる。不安なんだ。ユリシス様が、私を想って不安になってる。
私もきっと同じような顔をしていたんだ。それを彼は惜しみ無く愛を与える事で拭い去ってくれた。だから、私が今出来る事は一つだけ。
「ユーリ……。私にはこの先一生あなただけ。
私の心も身体もすべてユーリのものです。
………不安ならいつでも確かめて?あなたの手で……。」
10
お気に入りに追加
1,272
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる