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4章

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「何だか忙しかったみたいだね。ヘルマン侯爵が来たんだって?」

突然の訪問者の事はフランシス様にも伝わっていたらしい。夕食の席でユリシス様は皆に要点を追って話した。

「………それは、大変な事になりましたね。今年に入って取り潰されるのはオットー公爵家に続き二例目。しかも侯爵家となると……後釜を狙った貴族達で荒れるでしょうね。」

「お父様………。」

悩む父の顔を見ると少し不安になる。ヘルマン侯爵領はフォンティーヌ公爵領の隣だ。揉め事が起こらなければ良いのだけれど……。

「大丈夫。ヘルマンの領地についてはもう考えてある。適任者がいるんだよ。」

意外なほどに明るい声でユリシス様が言う。

「へぇ、ユリシスが言うんだ。かなりのやり手なんだろうね?」

「………いや、未知数。だけどやらせる価値はある。それと万が一何かやらかしても素晴らしい保護者がいるから安心だ。」

ニコニコと微笑みながら今日は少しだけと言って注がれたワインを飲むユリシス様の顔は………とてもとても良くない笑顔の気がした。






「少し歩こうか。」

そう言われて月明かりの庭を手を繋いで散歩する。滞在も今夜で最後なのかと思うととても残念だ。
たった三日間だったけど、私の十六年の人生の中で一番色濃く忘れられない時間だった。

「叔父上の薬草園、入ってみる?」

いつの間にか入り口まで来ていたようだ。
ガラス張りの大きな建物の中は様々な植物でいっぱいだ。

「見てみたいです!」

好奇心から思わず大きな声が出てしまった。
そんな私にふふ、と微笑んでユリシス様は扉を開ける。

「うわぁ………。」

外の気温より高い園内は、薬草の匂いで満ちていた。薬草であろう植物は、小さなものから大きなものまで全てに名札が添えられている。
手彫りのそれはフランシス様がお作りになられたのだろうか。

「この園内には百を越える薬草が育てられてるって叔父上が言ってたよ。そりゃ名札がないと駄目だよね。」

「ユーリも薬草に詳しいの?」

「いや、さっぱりわからない。」

うん。そんな気がする。ユリシス様の性格には向いてなさそうだ。

「初めてここを訪れた時は複雑な気分だったよ。母上の元婚約者だった父上の弟って、聞いただけで既に静養できない気がしない?
それに、口さがない連中からよく聞かされてたからね……父と母と、叔父上の昔話を。」

フランシス様も言っていた。ユリシス様を王妃様とフランシス様の子だと噂する者もいたとか。幼い彼はそれをどんな気持ちで聞いていたのだろう。

「でもね……実際会うと不思議な人でね。…何も話さなくても私の考えてる事がわかってるようだった。だから余計な会話や気遣いは一切いらなくて、楽だったよ。
それから何か大きな事を終える度にここへ来るようになった。叔父上にベラベラと喋ってると、妙に頭の中がスッキリしてね。いつの間にか自分なりの答えが出るんだ。

だから、マリーと一緒にここへ来ようと思ったんだ。何か答えが出るかもしれないって。

そしたら……マリーは答えを出してくれた。
私を選んでくれたんだよね……?」


少し怖がるように私の気持ちを確認するその姿に胸がぎゅっとなる。不安なんだ。ユリシス様が、私を想って不安になってる。
私もきっと同じような顔をしていたんだ。それを彼は惜しみ無く愛を与える事で拭い去ってくれた。だから、私が今出来る事は一つだけ。


「ユーリ……。私にはこの先一生あなただけ。
私の心も身体もすべてユーリのものです。
………不安ならいつでも確かめて?あなたの手で……。」


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