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4章

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彼女の豊かに艶めくストロベリーブロンドの髪を、無価値であると言わんばかりの冷たい目で切り落とせとユリシス様が言った瞬間、マチルド様は目を限界まで見開き、ユリシス様に焼け付くような眼差しを向けた。

「おや、やっと喋る気になったかい?」 

「……私は虐殺などしておりません……!!
私の馬車の前に平民が飛び出して来たのです。私のせいではありませんわ!!」

「じゃあ轢いた事は認めるんだね。で?
その後助けを呼ばなかった事に関しては何て言い訳する?そして飛び出したお前らが悪いとの発言には何て?」

「ですからそれは……双方の記憶の食い違いですわ!!」

尚も言い訳を続けるマチルド様にユリシス様は呆れ返ったとばかりに溜め息をもらす。

「………少しは考えてやってもいいかと思ったんだけどね………。お前のその報われない人生とそれによる人格の歪みはお前だけのせいじゃない。お前にその生き方を課した親の責任も多分にある。
この先同じ輩が現れないよう罪状を詳らかにし、家を取り潰される様を貴族達に見せた後、孤島の修道院行きくらいにしてやろうかとね。夜会でも言っただろう?正直に話せば少しは人間性に見込みが持てるとね。

でもお前はダメだ。虚飾に満ちたその姿には心底うんざりする。

ヘルマン、覚悟しておけ。明日王都に戻り次第お前達を正式に罪人として召喚する。」

「ユリシス殿下!!何故私の言葉は何一つ信じて下さらないのです!?私の気持ちはご存知でしょう?私は幼い頃からずっと……ずっとユリシス殿下だけをお慕いして参りました!それなのになぜですの!!」

「お前が好きなのは私じゃない。私の地位だろうに。」

「そんな事はございません!!私は、私は心からユリシス殿下を愛しておりますわ!!」

マチルド様の愛の告白に、ユリシス様は噴き出すように嗤う。

「何がおかしいのです!?いくら殿下でも真剣な想いを馬鹿にするなんて許されませんわ!!」

マチルド様の激昂も目に入らないようだ。心の底から可笑しいとでも言うように嗤い続ける。
そしてひとしきり嗤い終えた後、彼の口から出た言葉にマチルド様は再び言葉を失う事となる。


「いや悪かったね。そうかい、そんなに私を愛してくれているのかい。幼い頃から私を想い続けてくれたのなら、君の身体は当然清いままだよね?間違っても違う男に身体を開いたりなどしないよね?だって心から愛してるんだよね?私の事を。」

マチルド様の顔は凍りついた。

「どうだいマチルド?君が純潔を保ったままだと証明してくれれば私もその想いの強さを認め、罪状についても少しは考えてみようかと思うのだけど………でも無理だよね。証明なんて出来る訳がない。君の男癖の悪さは有名だそうだね。何かある度に男に身体を開いては解決してきたそうじゃないか。今回もそうしてみるかい?処刑人に身体を開いて命乞いしてみる?」


そして彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。


「……そんな事………そんな事してません……。私がお慕いするのはユリシス様だけ………。
ユリシス様だけです………。ユリシス様だけ……」

がっくりと膝から崩れ落ち、悲鳴のような泣き声が上がる。

哀れだ………。
きっと、マチルド様がユリシス様を愛していたのは本当だ。今の彼女が、おそらく今日唯一見せた本当の自分なのだろう。




「………お前の培ってきた知識と経験、そしてその気の強さなら、王妃でなくとも私を支える存在にはなれただろうに……残念だよマチルド。
そのままのお前を受け入れ、愛し導いてくれるような男に出会えれば良かったね……。

………私は初めてマリーと愛し合った日、生まれて初めて心が震えるほどに歓喜したよ。

愛する人に等しく愛される幸せを、お前が知らずに死ぬのは……素直に可哀想だと思う。

マチルド。最期の日まで、心安らかに過ごせ。」


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