121 / 331
4章
18
しおりを挟む彼女の豊かに艶めくストロベリーブロンドの髪を、無価値であると言わんばかりの冷たい目で切り落とせとユリシス様が言った瞬間、マチルド様は目を限界まで見開き、ユリシス様に焼け付くような眼差しを向けた。
「おや、やっと喋る気になったかい?」
「……私は虐殺などしておりません……!!
私の馬車の前に平民が飛び出して来たのです。私のせいではありませんわ!!」
「じゃあ轢いた事は認めるんだね。で?
その後助けを呼ばなかった事に関しては何て言い訳する?そして飛び出したお前らが悪いとの発言には何て?」
「ですからそれは……双方の記憶の食い違いですわ!!」
尚も言い訳を続けるマチルド様にユリシス様は呆れ返ったとばかりに溜め息をもらす。
「………少しは考えてやってもいいかと思ったんだけどね………。お前のその報われない人生とそれによる人格の歪みはお前だけのせいじゃない。お前にその生き方を課した親の責任も多分にある。
この先同じ輩が現れないよう罪状を詳らかにし、家を取り潰される様を貴族達に見せた後、孤島の修道院行きくらいにしてやろうかとね。夜会でも言っただろう?正直に話せば少しは人間性に見込みが持てるとね。
でもお前はダメだ。虚飾に満ちたその姿には心底うんざりする。
ヘルマン、覚悟しておけ。明日王都に戻り次第お前達を正式に罪人として召喚する。」
「ユリシス殿下!!何故私の言葉は何一つ信じて下さらないのです!?私の気持ちはご存知でしょう?私は幼い頃からずっと……ずっとユリシス殿下だけをお慕いして参りました!それなのになぜですの!!」
「お前が好きなのは私じゃない。私の地位だろうに。」
「そんな事はございません!!私は、私は心からユリシス殿下を愛しておりますわ!!」
マチルド様の愛の告白に、ユリシス様は噴き出すように嗤う。
「何がおかしいのです!?いくら殿下でも真剣な想いを馬鹿にするなんて許されませんわ!!」
マチルド様の激昂も目に入らないようだ。心の底から可笑しいとでも言うように嗤い続ける。
そしてひとしきり嗤い終えた後、彼の口から出た言葉にマチルド様は再び言葉を失う事となる。
「いや悪かったね。そうかい、そんなに私を愛してくれているのかい。幼い頃から私を想い続けてくれたのなら、君の身体は当然清いままだよね?間違っても違う男に身体を開いたりなどしないよね?だって心から愛してるんだよね?私の事を。」
マチルド様の顔は凍りついた。
「どうだいマチルド?君が純潔を保ったままだと証明してくれれば私もその想いの強さを認め、罪状についても少しは考えてみようかと思うのだけど………でも無理だよね。証明なんて出来る訳がない。君の男癖の悪さは有名だそうだね。何かある度に男に身体を開いては解決してきたそうじゃないか。今回もそうしてみるかい?処刑人に身体を開いて命乞いしてみる?」
そして彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
「……そんな事………そんな事してません……。私がお慕いするのはユリシス様だけ………。
ユリシス様だけです………。ユリシス様だけ……」
がっくりと膝から崩れ落ち、悲鳴のような泣き声が上がる。
哀れだ………。
きっと、マチルド様がユリシス様を愛していたのは本当だ。今の彼女が、おそらく今日唯一見せた本当の自分なのだろう。
「………お前の培ってきた知識と経験、そしてその気の強さなら、王妃でなくとも私を支える存在にはなれただろうに……残念だよマチルド。
そのままのお前を受け入れ、愛し導いてくれるような男に出会えれば良かったね……。
………私は初めてマリーと愛し合った日、生まれて初めて心が震えるほどに歓喜したよ。
愛する人に等しく愛される幸せを、お前が知らずに死ぬのは……素直に可哀想だと思う。
マチルド。最期の日まで、心安らかに過ごせ。」
20
お気に入りに追加
1,272
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる