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4章
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しおりを挟む平民を轢き殺した………?
本当なの?何でそんな事を………
「夜会でカロルに会ったんだよ。ヘルマン、君も知ってるだろう?レント伯爵家ジェレミー・レントの妻のカロルだ。その日カロルは久し振りに姿を見せたマリーに昔を懐かしんで挨拶をしに来てくれたんだよ。
聞けば娘のサラとマチルド、そしてマリーには繋がりがあったと言うじゃないか。
私としては愛するマリーの昔話を聞きたかったのだがその日は時間が無くてね。夜会の数日後サラに来てもらったんだよ。王宮までね。」
夜会の数日後………早馬で伯爵家へ召喚の報せを飛ばしたのなら2~3日後といったところだろうか。
ちょうど私が熱を出して寝込んでいた時だ。
「夜会の時もそうだったがサラは酷く怯えた様子でね。何に対してそんなに怯えているのか気になって聞いてみたんだけど、【この事がバレるとどんな酷い目に合わされるかわからない】と言うんだ。」
「でっ、ですからそれはマリエル様に……!!」
「相変わらず躾のなっていない娘だな。王族の話を遮るなんて、良い度胸だ。」
塵屑を見る時だっておそらくユリシス様の顔はもう少し優しいだろう。
どこまでも冷たく、見るのも汚らわしいと言わんばかりの顔だ。
いつものユリシス様じゃない。
これは私の知らない、けれど皆が知っているユリシス様の姿。
「その日、サラの乗って帰るはずだった馬車が故障した。いつもなら何時になろうと修理が済むまで待たせるか、貸し馬車でも手配しろと言う君が、何故かその日に限っては“自分が送って行く”と言い出した。そして馬車は走り出す。サラの住む郊外の邸宅ではなく街中へね。」
『マチルド様?どこへ行くのですか?我が家の方向はこっちじゃありませんよ。』
『うるさいわね!黙って乗ってなさいよ!わざわざ送ってやるんだから!』
漆黒に塗られた馬車の中二人は向かい合わせに座り、マチルドは覗き窓から街中の様子を見ていた。
『あれにするわ……ねぇ!!走って!早く!』
彼女の目線の先には幸せそうに手を繋いで歩く男女の姿。
命令を受けた御者は馬を鞭で叩きスピードを上げて行く。
『マチルド様!?』
『鬼ごっこよ。あんたもやった事あるでしょ?捕まったら負け。逃げたら勝ち。』
馬車は恋人同士であろう二人めがけて走る。
通りは暴走する馬車に逃げ惑う人々。
あちこちで悲鳴が上がる。
「マチルド様!!お止め下さい!!このままでは人を、人を轢いてしまいます!!」
サラの言葉はもはやマチルドには届かない。
マチルドは獲物めがけて走る馬車に、己に、言いようのない興奮を覚えていた。
そして馬車の片側から鈍く重い音。
周りからはひときわ甲高い悲鳴が響く。
窓の外を覗くマチルドの顔は紅潮し、微笑んでいた。
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