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4章
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しおりを挟む「で? 何なのこんな朝から。約束もしてないよね?」
現在絶賛不機嫌中のユリシス様が、応接間にてヘルマン侯爵とマチルド様の対応中です。
「君、この静養地が何のためにあるのか知ってるよね?その名の通り静養するために来てるんだよ。それをわかってて邪魔するんだ、相当の用件なんだろうね。」
ユリシス様と向かい合うソファーには、静養地には不似合いな派手な装いの二人が、取り付く島のない王子様にオロオロとしている。
「ユ、ユリシス殿下におかれましてはご機嫌麗し「麗しくないよ」
ユリシス様は明らかに不機嫌そうにヘルマン侯爵の挨拶に言葉を被せる。
「ヘルマン。先日マリーが体調を崩してね。二人でゆっくり過ごすためにここに来てるんだよ。」
「は、はい。実はそのマリエル様の事でお話がございまして……。」
私の事?
あ、ちなみに私は今応接間の隣室の扉の陰で、サーリー様と聞き耳を立てている最中です。
「マリーの事?何?」
「実は先日の夜会でお会いしましたマリエル様が、何やらうちのマチルドに対して勘違いされているようで……。娘から話を聞きまして取るものも取り敢えず参りました次第でございます。」
「取るものも取り敢えずって割には遅いよね。」
「サーリー様、しーです!」
確かに遅すぎだけど、勘違いって何かしら…。
「実は……大変申し上げにくいのですが……マリエル様はどうやらマチルドが殿下の婚約者に一番近い存在である事をお知りになって、娘を目の敵にされているようなのです。」
は!?
何……何を言ってるのこの派手侯爵様は。
隣のマチルド様はユリシス様の庇護欲を誘おうとしているのか切なそうにうつむき、目を潤ませている。
「まだマリエル様が幼き頃、母君を亡くされたと聞いたうちの妻がマリエル様をお慰めしようと我が家へご招待したのですが……その……」
ヘルマン侯爵が言いよどむ横で堰を切ったようにわぁっとマチルド様が泣き出した。
「私がいけないのです。わ、私はただマリエル様と仲良くなりたかっただけですのに……マリエル様は何がお気に召さなかったのか私の事をずっと無視されておりました………。
母君を亡くされたばかりで心が不安定でいらっしゃったのでしょう……。いえ、そんな事はいいのです。私さえ我慢すればいいことですもの。
夜会でユリシス殿下のお隣に立つマリエル様をわかっていながらご挨拶できなかったのは、昔を思い出して足が震えてしまったからなのです!どこかで私がユリシス殿下の婚約者候補だとお聞きになられたのでしょう。マリエル様は私を真っ直ぐに見つめて牽制してらしたのです。ユリシス殿下に近付くなと………。それで昔のマリエル様の……あのきつい私を睨み付ける目を思い出してしまって………。
ですからユリシス殿下、もし何か誤解されているようでしたらこれが真実ですわ!どうかご理解下さいませ………!」
「マリーちゃんの目ってきついどころか丸くてくりくりしてるよねぇ?何言ってんのあの子。マリーちゃんあんなヤバい子本当にいじめたの?」
「サーリー様!!しーって言ってるでしょ!」
「あぁマチルド……!!可哀想に!!
殿下、お聞きの通りなのです!娘に悪意などこれっぽっちもありません!
夜会での事はすべてマリエルさまの嫉妬故……。娘は一途に殿下だけをお慕いして来たのです!どうか、どうかお許し下さい!!」
………よくもそんな作り話を……。
もう馬鹿らしすぎて怒る気にもなれない。
でも、こんな風に思えるようになったのもユリシス様とシャルル様のお陰だ。
それにしても何でこんな所まで来てそんな作り話をする必要があるのか?
「多分ユリシスの静養先にマリーちゃんも行くって聞いて慌てたんだろうね。
婚約者候補ってだけで正式に婚約した訳じゃないからまだいくらでも挽回できると思ってたんだろうけど、この静養地は王族専用。王子が女性同伴で行くって事は婚約確定と同じような意味になるからね。」
「そうなんですね………。」
と言うことは、まだ彼女はユリシス様の事を諦めていないんだ………。いや、ユリシス様をと言うより王妃の座を。
「へぇ…………。それは初耳だねマチルド。もう少し良く聞かせてもらおうか。」
ユリシス様が妖しく微笑む。
あ……これ、よくない笑顔だ!!
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