109 / 331
4章
6
しおりを挟む「マリー……今夜君の部屋に行ってもいい?」
膝の上に乗る私の髪を優しく梳きながらねだるように聞かれて心が跳ねる。
恥ずかしさにおずおずと見上げると頬を大きな手で包まれる。綺麗な顔が目の前で艶かしく誘うように私を見ている。
「身体が辛かったら何もしない。ただ君を抱いて眠りたい……。」
こんなにも美しい顔の恋人に、そんな切ない顔で言われて断れる訳がない。
……何より私もそれを望んでる。
「………はい。」
私の答えに何とも甘やかに微笑んでくれる。
「ユーリ……大好き……」
一度口にしてしまえば今までの苦悩は何だったのかと言うほど素直にそう思える。
私の言葉に破顔する彼を見ていて思う。
こんな風に笑う人だっただろうか?
彼の笑顔にはいつも理性がつきまとっていて、こんなに険の取れた少年のような笑顔は初めて見る。
本当にずるい人。
一緒にいればいるほどあなたの事が好きになる。
「多分……すぐには行けないと思うから、先にベッドに入っていてくれていいからね。」
「?何か用でもあるのですか?」
「いや、用は無いんだけど……。まあ、あくまで多分だから。」
???
不思議そうに見上げる私に彼はそっと口づけを落とした。
夕食は揃って食べようとフランシス様が仰って下さり、食堂へ入るとそこにはユリシス様の“多分すぐには行けない”理由が並んでいた。
明らかに上等そうなラベルのワインが山ほど並んでいる。
そういえばオデットがこの辺りの名産はワインだと言ってたわね。でも何でこんなに?
「あっ!きたきた!マリーちゃんも今日はお祝いだから一杯飲もうね!」
「サーリー様。お祝いって一体何のお祝いですか?」
「やだなぁ、ユリシスの念願成就祝いと、マリーちゃんの開通記念祝………いてっっ!!」
サーリー様の後頭部にキレのある平手打ちが決まる。背後には昼間の笑顔が嘘のような恐ろしい形相のユリシス様が。
「お前のスカスカの頭でも人の祝い方の常識くらいは備わっていると思っていたけどな。」
「何だよ!?お前が浮かれまくってるから盛大に祝ってやろうっていう友の心遣いを何だと思ってんだ!」
「まだ浮かれてなどいない。マリーと結婚するまでは浮かれてなどいられるか。」
うそぉ…………。
先に来て席に着いていた殿下とお父様含め全員が、昼間のユリシス様の姿を思い返しているのだろう。言葉にしなくても同じ一言を考えているのは表情で見て取れる。
「さぁ、ユリシスもサーリー君も、皆座って。
今日は何はともあれ若き二人のお祝いだ。明日が最後の滞在となるし、今夜は楽しもう。」
「さ、さ、マリーちゃんどれがいい?一応女の子が好きそうなやつはこれかな~。」
サーリー様は私の前に数本のワインを置いてくれる。同じ赤ワインでもこんなに色の違いがあるなんてびっくりだ。
「これなんていいんじゃない?渋みは少ないし甘いよ?」
そう言って差し出されたのは色合いの淡い、赤紫色のワインだった。
「わぁ……綺麗ですね!でも私、お酒を飲むのは初めてで、どれがいいのかさっぱりわからなくて………。」
迷う私のグラスに、横からはちみつのようにとろりとした色の液体が注がれる。
「ユリシス様?」
「………んもぅ……婚約するまではその呼び方でもいいけど、婚約したらちゃんと呼んでくれないと許さないよ。」
あら、拗ねてるのかしら……それとも少しお酒が入っているせいかしら。いつもキリリとした目元が少し垂れ下がっているような………。
「サーリー、マリーにはこれ。
マリー、これならとても飲みやすいよ。極甘口のデザートワインだ。でも飲みやすいからって飲み過ぎちゃ駄目だよ。これもアルコールだからね。」
じぃっと私を甘い目で見つめてる……。
ドキドキして思わず下を向いてしまう。
サーリー様はやれやれと言うように、優しい笑みで自分の席へ戻って行く。
「マリー、飲まないの?大丈夫だよ。残しても私が飲んであげるから。」
そう言えば夜会でもシャルル様に止められて飲めなかったのよね……。
じゃあ、ちょっとだけ。
おそるおそるグラスに口をつけると、フワリと広がる芳醇な香りと甘い甘い味。
「うわぁ、美味しい………。」
思わずユリシス様を見れば、今口にしたワインよりもずっと甘い微笑みを返してくれる。
「ふふ、良かった……。でも……」
ユリシス様は私の耳元に唇を寄せる
「………私はワインよりももっと甘いマリーを食べたい………。」
「ふぁっ!」
ユリシス様の吐息がとても熱くて変な声が出てしまう。
「お願いだから、寝ないで待ってて………。」
私はゆっくりと頷いた。
10
お気に入りに追加
1,279
あなたにおすすめの小説
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる