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2章
19ー11
しおりを挟む「……凄い雨だな。」
昨日までの天気が嘘のようだ。
「そうですねぇ……。ここ数年大雨による被害も大きいですから……何事もなければ良いのですけど。」
シモンはリビエラとの交易書類に目を通している。ぽけーっとしてるようで会話と計算が成り立っているのだから恐ろしい頭脳だ。
「いや~、それにしてもジュリエット様の母君が紹介して下さった商会のおかげで良質な綿を仕入れる事ができます。我が国ではなかなか良いものが育ちませんからね。これを機に繊維業が発展してくれれば言うことなしです。」
「そうだな……。大事に扱わねばなるまいな。」
じとーっとした目でシモンが俺を見る。
「…なんだ……何か言いたいなら言え。」
「……いえ……なんでもございませんけど。」
けど。 けどなんだ。
「わかってるよ……もう彼女とは何もない。この先もね。」
「…そうだとよろしいのですが……。」
シモンがこういう物言いをするのは大抵俺の素行に不満がある時だ。
「あの時ジュリエットと関係を持ったのはリュシエンヌはフランシスの婚約者で…永遠に手に入らないと思ってたからだ。身代わりにしたのは悪かったとは思うが……。」
俺の言葉にシモンの眉間に山脈ができる。
「なんだよ……お前だって俺と同じ立場で考えたなら理解できるだろ?」
「できません。まったく。」
こいつ……主の初恋のみならず素行までもリュシエンヌにばらして尚俺に説教しようと言うのか。
「ジュリアン様。犯した間違いはいつの日か自分自身を苦しめます。それは罪が己に反るだけでなく、自分の一番大切な人を巻き込む事がほとんどだからです。あなた様が知らないだけでもしかしたらもう大切な人が、ジュリアン様が身代わりになさった方々からの悪意に飲み込まれているかもしれませんよ。」
「やめろ怖い」
「シモンはいい加減な事は申しません。」
普段は泣き虫のくせにおっそろしい事をサラリと言いやがって。
頭の良すぎる奴だが情緒の締まりが壊れてるとしか思えない。
だが身に覚えがある分そう言われると途端に不安になる。
昨日のリュシエンヌの様子は確かにおかしかった。でも俺が関わった女性達とは会う機会などないはずだが……。
「機会というのは図らずとも訪れます。」
「……お前、読心術でも習得したの……?」
恐ろしいシモンの予言(?)に政務も捗らない。
雨はますます激しさを増している。
「……ちょっと休憩を取ってもいいか?シモンも茶でも飲みなさい。リビエラの商会が寄越した珍しいお菓子もつけてあげるから。」
シモンはにぱっと表情を和らげ、侍女にお茶のリクエストをし出した。微妙にチョロいぞシモン。
外は雨で視界が悪い。屋根付きの回廊だが石畳は吹き込む雨で濡れている。
自宮に近付くと侍女達がソワソワと何かを待っているようだった。
「ジュリアン様!!!」
フランシス付きだった侍女のマノンは俺を見付けるなり慌てた様子で駆け寄ってくる。
「ジュリアン様!リュシエンヌ様が外を歩いてくると言って出ていったきり戻られないのです!どこかで雨やどりされていれば良いのですが……。」
戻ってない?この雨で!?
嘘だろ……。何をしてるんだリュシエンヌ…。
「俺が探してくる!お前達は湯を沸かして待て!」
俺は今来た道を駆け戻った。
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