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2章
19ー1 ジュリアンとフランシス
しおりを挟む「フランシス!見ろ!珍しい蝶だぞ!」
美しい銀髪を短く切り揃えた少年が、手に持った虫籠を差し出す。
「うわぁ!兄さん!すごい!!」
すると少年と同じ碧い瞳をキラキラさせてフランシスと呼ばれた男の子は虫籠に手を伸ばす。
一日の大半をベッドで過ごすフランシスのために、この優しい兄は毎日のように外の世界を持って訪れる。
「本当はもう一匹珍しいのがいたんだけど、逃げられた……くそっ。明日は必ず見せてやるからなフランシス!」
ワシワシとフランシスの頭を撫でると二人は笑いあった。
フランシスは生まれつき心臓が弱かったが、ガーランド王国は薬学が飛び抜けて進んでいたため、フランシスは今日も命を繋げている。
「来週の式典はやっぱり無理そうだって医者に言われたよ……。ごめんね兄さん…いつもいつも兄さんだけに任せっぱなしで……。」
フランシスは王族として何の責務も果たせない事をとても気にして、恥じていた。
「バカだなフランシス!表に出るだけが仕事じゃないだろ?俺が王になったら賢いお前が政務を支えてくれよ。そしたらこの国は無敵だ!」
兄の心強い言葉はいつも弟を励まし、弟の優しさはいつも兄の心を癒していた。
しかしこの後、二人の関係は変化して行く。
「フ、フ、フランシス!!聞いてくれ!!」
いつも豪胆な兄が珍しく慌てて駆け込んでくる。
「どうしたの?兄さん?」
ジュリアンは信じられないものを見たと言うような表情だ。
「フランシス……俺…俺………ゴニョゴニョかも……」
「は?兄さん何て言ったの?」
ジュリアンは顔を真っ赤にして口ごもっている。だが、意を決したように叫んだ。
「俺、出会っちゃったよ!見つけたんだ運命の人!!すごく美しくて彼女の周りだけ光って見えたんだ!!」
「えーーーーーーっっっ!?」
今日会ったと言う事は、明日の建国記念の式典の招待客だろう。明日の招待客はほぼ王族だ。
「兄さん、どこの国の方なの?名前は?」
「…う……それは……もしかしたらうまくいかないかもしれないから、知り合いになれたら教える………。」
弱気な兄を見るのは初めての事で驚いたが、自分にそんな姿を見せてくれる事が嬉しかった。自分への信頼を感じるからだ。
「兄さんなら大丈夫さ!兄さんよりいい男なんてどこを探したっていやしないよ。頑張ってよ兄さん!応援してるからね!!」
「お前は本当にいい弟だフランシス!!!」
ジュリアンはフランシスを抱いてベッドに倒れこんだ。
**************
祝賀の宴はまだ続いているのだろう。
少し距離のあるこの宮まで喧騒が聞こえてくる。
思っていたより体調は悪化しなかった。夜風は身体に悪いと止められているが、こもった部屋の空気から解放されたくて外の空気を吸いに出ると、眩いばかりに月が輝いていた。
しばらく夜空に見とれていると小さな足音が聞こえた。音のする方へ顔を向けた瞬間、僕の心臓がドクリと跳ねた。
「あ…あの、道に迷ってしまいまして。私はアルディエラ公国第二公女リュシエンヌと申します。ご迷惑かとは思いますが、道を教えていただけないでしょうか…?」
月の光を受けて輝きながら緩やかに流れるアッシュブロンドの髪。大きくて透き通る翠色の瞳は幾重にも重なる長い睫毛に縁取られている。
あまりの美しさにしばらく言葉を発する事が出来なかった。
「あ、あの……どうされましたか?」
少女の言葉にハッとする。僕は慌てて侍女を呼んで事情を説明した。
「じゃあこの子が案内してくれるからね。暗いから足元に気を付けて。」
深々と頭を下げてお礼を言う彼女に、僕の口から信じられない言葉が出ていった。
「僕はフランシス。よかったらまた遊びにきてね。」
彼女は恥ずかしそうに頬を染めて、また一礼して戻って行った。
**************
柔らかな髪が僕の頬を撫でる。
くすぐったさで目を覚ますと隣でリュシーが本を開いたまま眠っている。
初めて会ったあの日から、リュシーは僕のところを訪ねて来てくれるようになった。
身体の弱い僕のためにたくさんの本や画集を抱えて来てくれて、しかも僕が横になったまま見れるようにってベッドに乗って来たときはさすがに慌てた。
こんなとこ誰かに見られたらリュシーに傷が付くって何度も言ったのに、彼女は全然気にしない。いつしか僕もそれに慣れて、こんな風に一緒にお昼寝したりする。
リュシーは日を追うごとに綺麗になる。
いつか彼女も健康で逞しい男の腕に抱かれる日が来るのかと思うと、頭がおかしくなりそうになる。これが嫉妬なのだと最近気付いた。
僕は自分の身体を呪う。
もっと健康であったなら。
彼女を支えられるくらい逞しかったなら。
……そう、ジュリアン兄さんみたいに……
「………ん……フランシス……?」
ぼんやりと薄くリュシーの目が開く。
綺麗な翠。僕だけのもの。
小さな薔薇の蕾のような唇が僕を誘う。
そっと触れるだけの口づけをすると、リュシーは目を閉じる。
「リュシー……君を愛してる……誰にも渡したくないよ……。」
ぎゅうっと強く抱き締めるとリュシーも僕を強く抱き締め返す。
「フランシス……私も……もうずっと前から愛してるわ。」
彼女が抱き締めてくれたから、ずっと呪ってきたこの身体が初めて悪くないものに思えた。
「リュシー、婚約しよう。君を幸せにしてあげられるかはわからない。でも君といると僕は誰よりも何よりも幸せなんだ。」
わがままだよねと謝ると、リュシーは花が開いたように笑った。
**************
「…………んっ……あっ…あっあんっ……駄目、もう駄目なの……フランシスっ……!!」
膝裏を抱えて深く挿入するとリュシーはいつも泣きそうな顔をする。でも知ってる…リュシーはこれが好きなんだ。リュシーと深く繋がれてキスも出来るから、僕はいつもこうする
「リュシー……すごく熱いよ……今日はリュシーの方が熱があるみたい……。」
トロトロに蕩けて蜜が溢れ出すリュシーと繋がる場所から、ぐちゅぐちゅと卑猥な音がいつもより大きく響いて、耳を犯されてるような気持ちになる。
「リュシー、今日は本当にすごい……こんなトロトロなの初めてで僕も溶けちゃいそう……!」
「…や……言わないで……恥ずかしい……」
もう何度もこうして繋がってるのにリュシーはまるでいつも初めての事のように恥ずかしがる。それがとても可愛くてたまらなくて僕はいつもリュシーを求めてしまう。
腰をゆっくりと何度も沈めては浮かべ、耳の中に熱くぬめる舌を這わせると、リュシーは僕をきつく締め付けてお願いをする。
「もう…もうダメ……お願い…お願いフランシス…」
息を荒げ、目尻からは溢れた涙が今にも零れ落ちそうだ。こんなにも可憐で美しい人を我を忘れる程に悦ばせているのが自分なのだと思うだけで背筋がゾクリと震える。
「うん……僕ももう限界……リュシー、愛してるよ……。」
その言葉を合図に僕はリュシーから自身を抜ける寸前まで引き抜き、そして一気に貫く。
「あああぁん!!いやぁ!!フランシス!!フランシス!!」
快楽を怖がりながら、もっともっととねだるように受け入れるリュシーに僕の理性も吹っ飛ぶ。
混ざりあった大量の蜜がぐぷぐぷと音を立てて泡立つ中に、僕は自身の欲を解き放った。
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