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2章
16
しおりを挟む王妃様の宮に着くと、待っていた何人もの侍女が恭しく頭を下げる。
「側についていてあげたいんだけど、今日は男子禁制だって。ごめんねマリー。近くで控えているから、何か嫌なことがあればすぐに逃げておいで。」
ユリシス様の言葉に侍女達が苦笑する。
「大丈夫です。ユリシス様のお母上様ですもの。」
私もつられるように笑いながら礼をした。
白く大きな扉が開かれると、アッシュブロンドに翠の瞳を持つ美しい女性がこちらを微笑んで見ていた。
「まぁ……何て美しいお嬢さんなんでしょう。うちの息子達が喧嘩するほど心を奪われるのも納得だわ。」
「あ、あの……ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。フォンティーヌ公爵家のマリエルと申します。」
「気をつかわなくていいのよ。マリエルさん……私も息子達のようにマリーちゃんと呼んでもいいかしら?さぁ、こちらに座って。」
王妃様はそう言うと給仕の侍女を呼んだ。薔薇の描かれたティーセットから上質な茶葉の香りが漂う。
「それは……ユリシスとシャルルが贈ったのかしら?」
ドレスと宝石の事だろう。私が頷くと
「本当に馬鹿でごめんなさいね。二人とも独占欲丸出しで恥ずかしいわ……。全力でマリーちゃんにマーキングしてるわね。」
マーキングとは……言葉のチョイスがオデットに似ているような……。いや気のせいだきっと。
それにしても私の事はお二人からどんな風に聞いているのだろうか。二人とその……チョメチョメな事をしているのも知っているのだろうか。
知ってらしたとしたら今すぐこの場で穴を掘って入りたい。さぞかしろくでもない女だと思われている事だろう。
「マリーちゃんの事はユリシスから少し聞いたわ……お母様を亡くしたばかりの頃にとても辛い思いをしたのね…。」
ユリシス様が事前に説明して下さっていたとは知らなかった。王妃様も母親だからだろうか、とても優しい目で私を見つめて下さる。
「……殿下からお聞きになられたかと思いますが……この歳になるまでずっと領地に引きこもっておりました。貴族との交流もなく、夜会も出たことがありません。でも王妃様にいただいたせっかくのこの機会を無駄にしてはいけない気がしました。両殿下にも本当にたくさんの事を教えていただき、そして勇気も……。感謝してもしきれません……。」
ユリシス様とシャルル様の顔が浮かんで思わず涙が零れそうになる。お二人が自分にとってどれだけ大切な人なのか痛感させられる。
「マリーちゃん…感謝するのはこちらのほうだわ。あの二人をこんなにも夢中にさせてくれて。私、本当に嬉しいのよ。」
「……え……?」
嬉しい……?どうして……?
愛しい息子に纏わり付く迷惑な女じゃないのだろうか……。
「あの子達に誰かを本気で愛する気持ちを教えてくれて、感謝しています。ありがとうマリーちゃん。」
本気で誰かを愛する気持ち……。
「あの子達は幸か不幸か王家の男子として生まれてきてしまったわ。王族に生まれたものが一番手に入れられないもの、もしくは一番に諦めなければならないものは何だと思う?」
手に入れられなくて、諦めなくてはならないもの……。何だろう。王家は絶対の存在で、手に入らないものなんてないのでは……?
私が答えに悩んで顔を上げると王妃様が悲しげに微笑む。
「それはね……自分の気持ちよ。自分の心のままに生きることを許されず、何かあれば一番に自分の心を殺さなければならない。愛する人と結ばれる事が出来る王族なんて奇跡に近い確率でしか存在しないわ。王族の婚姻はそのほとんどが政略のため……国の存続のためになされてきた。それはあの子達も同じこと。」
いつかは意に染まぬ相手と婚姻を結ばなければならない日があのお二人にも訪れる。そういう事なのだろう。でも王妃様と国王陛下は……
「王妃様と国王陛下はとても仲睦まじいご夫婦だと伺っております。お二人はその奇跡に出会われたのですね…。」
……あれ?王妃様の反応がおかしい。
私何か変な事を言ってしまっただろうか…。
いやでも実際仲睦まじいご夫婦をその通り表現しただけなのに…なぜ?
まさか本当は世間を欺く仮面夫婦でした!とか?……そんな事ないわよね。
「マリーちゃん私ね、ジュリアン……陛下とは恋愛結婚じゃないの。」
ん……政略結婚から始まったという事かしら?確か王妃様はお隣のアルディエラ公国の二番目の公女様だったわよね…。でも結果恋愛したのならそれはそれで…………
「陛下は無理矢理私を奪ったのよ。弟のフランシス殿下からね。私はフランシス殿下の婚約者だったの………。」
「…………………………えっ………………!?」
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