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2章
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しおりを挟むそしてやってきてしまった夜会当日。
昨夜は緊張してよく眠れずいつもよりかなり早起きした私をこれ幸いとばかりに侍女達がテコ入れして行く。
普段は無頓着なお肌の手入れから身体へのリンパマッサージでむくみ取り。全身パックに爪の手入れまで。目が回るような忙しさだが、そのおかげでありがたいことにパック途中で寝落ちできた。
サイドの髪は美しく複雑に編み込まれる。その中に細い細い白金色のリボンも一緒に編み込んでもらった。幼い頃の自分を連れて行くような気持ちになれるかと思ったのだ。
ユリシス様が贈って下さった胸元が控えめなようで艶やかに開くデザインのドレスに、シャルル様からいただいたネックレスがよく映える。
絹のストッキングは足を通すと肌をスルリと滑らかに撫でて行く。
大粒の石が中央に輝く華奢な靴はとてもよい作りで、これなら長時間の夜会で足を痛める事もなさそうだ。
いつものように白粉は塗らず、柔らかな色合いの口紅だけを薄く乗せて、最後にイヤリングを着ける。
「まぁ……まぁまぁマリー様!こんなにお綺麗になられて………!」
ルネは出来上がった私の姿を見るなり感極まったように泣き出した。
「……ルネ………今まで心配ばかりかけて本当にごめんね。」
お母様が亡くなったあと、色々あって引きこもるようになってしまった私を見るのは辛かった事だろう。
「マ、マリーぃぃぃぃ!!!お母さんにそっくりだよぉぉぉぉぉーー!!!!」
「お父様………夜会はこれからなのに……。」
今日共に出席してくれる父は顔面が滝と化している。一応王家に次ぐ三公爵家の当主なのに。
「あー、肩こるわ。正装はこれだから嫌ね。でも情報収集には持ってこいなのよね夜会って。ぐふふ。」
これまた共に出席してくれる事になった姉は相変わらず黒い笑みを漏らしている。
この三週間、ユリシス様とシャルル様はご自分の時間を削ってまで私に協力して下さった。
合間合間に色々と対価?を払わされてしまったような気もするが、先週ついにお二人からそれぞれの特訓に対するお墨付きをいただいた。
お二人から共通して言われた事は、【とにかく今の自分自身を見失わない事】だ。
大丈夫。お二人の気持ちがこもったこの贈り物達が私を包んで守ってくれている。
「マリー様、お客様がいらっしゃいました。」
「あ、今行くわ!!」
今日、夜会へ行く前にどうしてもこの姿を見せたい人がいた。早足で入り口のホールへと向かう。
「アニーーー!!」
そう。私の大親友に見て欲しかった。過去と戦いに行く自分の姿を。
「まぁ………まぁマリー様……!!何て、何て綺麗なの…!!」
アニーは大きく目を開いたあと、泣き出してしまった。
「アニー、来てくれてありがとう。どうしてもアニーに見て欲しかったの。引きこもりの弱虫マリーには今日でお別れするわ。私、私頑張ってくるから!」
アニーの手を握るとぎゅうっと握り返される。
「マリー様。アニーは必ずマリー様が笑顔で帰ってくると信じています。」
アニーはそう言って、力強く頷いた。
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