12 / 331
1章
7
しおりを挟む白目をむいて倒れた父は、翌日豪華な王家の馬車で丁重に送られて帰ってきた。三日間の休暇付きで。
そして今私は、窓の外を哀愁漂う目で眺める父と、父が王宮から持たされた菓子を美味しそうに頬張る姉と、向かい合って現在私が置かれている状況確認をしていた。
「だからまとめると、シャルル王子に舌入れられて唾液を吸われて、それを知ったユリシス王子が焼きもち妬いて押し倒されて、更にすごいキスしてきたって事でしょ?」
やめてお姉さま。お父様が灰になる。
「で、マリーはどっちが良いの?」
「ど、どっちって……そんな事考えた事も無かったし、そもそも私がユリシス王子の婚約者候補ってどういう事なのお父様?」
お父様がゆっくりと私に視線を向けるなり“うぅっ”と涙ぐんだ。そりゃ引きずるほどショックだっただろう。泣きたいだけ泣いてくれ。
しばらくして父がボソボソと話し出した。
「オットーの騒ぎのあと、ユリシス王子に呼ばれたんだ。マリーと会いたいってね。うちには王子と同い年のオデットもいるのに、王子はマリーをと言うんだ。」
オデットなら万が一何かあっても王子を撃退するだろうと思って薦めてみたんだけどね……と言うと、その万が一の事態をまた思い出したのだろう。ハンカチ広げてメソメソ泣き出した。
「……それで、シャルル王子とも仲良くしてるって聞いたから、社交が苦手なマリーには良かったかもと思っていたんだよ……。でも前回のお茶会の後、王子が珍しく不機嫌な顔をして僕のところへやってきて、マリーを婚約者にするって言うんだ……。」
お茶会の後って……シャルル王子とチェスをして、すごく長い時間キスしてたあの時よね……。
「そうそう、あの日あんた王家の馬車で送られてきたでしょ?うちの執事がお礼を言ったら“とんでもございません。王子の大切な婚約者候補の方ですから”って言われたんだってさ。」
何なのその御者への伝達の早さ。しかも婚約者を決めるって幸せな事じゃないの?それなのに不機嫌な顔してたってどういう………
「あんた、もしかして見られちゃったんじゃないの~??」
オデットがニターっと笑う。
「見られた?誰に?何を?」
「だからぁ、ユリシス王子に、シャルル王子からあんたが長~い長~いキスされてるところを。」
【……ダメだよマリー。シャルルに先に許すなんて。】
……あれって……侍女から告げ口されたのかと思ってたんだけど……でもこのスピード感を考えると……もしかしてユリシス王子に見られてたの!?
お父様……今私、倒れたお父様の気持ちが死ぬほどわかります……
15
お気に入りに追加
1,279
あなたにおすすめの小説
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる