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1章

6ー5 シャルル

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    「……君が婚約者候補だった事は確かだよ。でもね、私は君と婚約するつもりはなかった。」

    顔を上げたイネスは信じられないといった表情をしていた。
    僕は、何で今兄上がそんな事を言い出すのかさっぱりわからず困惑した。イネスの罪はもう決まっている。最後にムチ打つような真似しなくたっていいじゃないか。最後まで夢を見たままで行かせてやれば…。

    「オットー公爵……いや、マクシムはマルクを愚かだが可愛い息子と言い、共に逝く覚悟を決めた。あれほどの男がだ。そこには家族への揺るぎない愛があった。愚かな息子だって可愛いのだ。イネス、君のように賢い娘の事は尚更愛しく思っていた事だろう。」

    僕もそう思う……。遠征ばかりのオットー公爵はきっと、チェスを通してイネスに戦う術を教えたんだ。懐に醜い欲を隠した連中に、決してイネスが負けることのないように。

    でも、イネスは負けた。自分自身の欲に。

    「父親が最後にその背を見せたのに、君はどうだい?私に似たシャルルを襲い、兄を怨み、美しい思い出にすがり……マクシムの教えは…オットー公爵家の矜持は君のなかに微塵も受け継がれていなかったようだね。」

    イネスの顔がぐにゃりと歪む。

    きっと兄上はイネスのために、イネスが囚われてしまった夢の檻から出してあげようとしてるんだ。



    「君がマクシムだったなら、結婚していたかもね。」




    ……………え?

    ちょっと兄上………それはちょっと………

    え?ガタイの良いのが好みって事?違うよね。

    どうしようこんな時におひげマッチョなオットー公爵の姿が頭の中いっぱい




    「シャルル」


    何!?今こんな状態の僕に何なの!?


    「イネスに言うことはあるか?」

    「………………………。」



    イネスが僕を見てる。あぁ、その顔は傷付いてるんだね。馬鹿だね、僕を傷付けたのは君の方なのに、何で君の方が切ない顔してんのさ。
    でも、僕を大切に思ってくれていたから君も傷付いたんだよね。本当に大バカだよイネス。

    「イネス………イネスが行く島は寒さが厳しい土地だって聞いてる。」

    罪人の入る修道院だ。設備も最低限のものしかないだろう。公爵令嬢のイネスにはきっと想像もつかない生活が待っているはずだ。

    「身体を……大切にするんだよ。イネスはただでさえちっちゃいんだから、しっかり食べなきゃダメだよ。あとは………」

    言いかけて気付く。

    あぁ、これは全部イネスが僕にくれた言葉だ。



    「イネス、僕は大丈夫だから。」


    そう言って微笑んだ僕を見て、イネスは声を上げて泣いた。





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