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1章

6ー3 シャルル

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    理解するのが遅れた僕を、了承したと思ったのかイネスは手際よく衣服を脱ぎ捨てた。
    ねっとりとした唇が僕のそれに重なる。
    白粉の香りと紅の味に吐き気がする。

    「……っやめろイネス!!気持ち悪い!!」

    やっとの事で顔をそらすとイネスは悲しげな目で僕の銀の髪を梳いた。

    「そんな事おっしゃらないで下さいませ……こんなに、こんなにもお慕いしておりますのに……このそのすべてをずっとずっと私は……」

    「っやめろーーーーーーっっっ!!!!!」

    僕の大声に気付いたのか、すぐに兵士が駆け付けイネスを僕から引き剥がし、床に押さえ付けた。
    裸で髪を振り乱し、崩れた化粧で顔を歪めるイネスはもう僕の知っている優しいイネスではなかった。

    「ユリシス様!!ユリシス様どうか!!どうかお許し下さい!!ユリシス様!!!」

    狂ったように兄上の名を叫びながらイネスは僕に手を伸ばす。兵士に無理やり引きずられ、        部屋を出るその瞬間までずっと。




***************




    翌日、オットー公爵が捕まった事を聞かされた。王位簒奪を企てたのはイネスの兄だった。イネスの兄マルクは、オットー公爵が遠征中に周囲を唆し、オットー公爵が帰還する前日を狙って挙兵した。戦いが始まってしまえば兵を引き連れた父は後に引けない息子の加勢をしてくれるだろうと思っていたそうだ。救いようのないバカ息子だ。
    誰よりも王位を狙えるほどの武力を持ちながら、この国のために常に先頭に立ち危険に身をさらし戦ってきたオットー公爵に、陛下は何とか救いの手を伸ばそうとしたが、公爵はそれを断った。ここで自分達を許せば、この先同じ輩が必ず現れる。この国の為に自分の首が必要なのだと。

    【誠を尽くす臣であれ。これは我がオットー公爵家に代々受け継がれてきた矜持。それを果たすどころか裏切ったのです。愚息といえどあれも間違いなく私の可愛い息子。共に逝く事をどうかお許し下さい。我が公爵家の全ては王家にお還し致します。ですが何とぞ領民の事だけは宜しくお願い致します。】

    そう言ってオットー公爵は息子と共に牢へ繋がれた。あと数日で斬首されるそうだ。

    イネスはマルクの陰謀に気付き、ずっと兄を止めようとしていたそうだ。だが妹が王宮に戻って企みを報告されては困ると考えたマルクによって、イネスは自室に軟禁された。
    あの夜、雨音に紛れて兄が挙兵した後、見張りの目を逃れてイネスは家を飛び出した。城の兵士達が城下にせまるマルクの軍に気を取られている間に僕の部屋へ忍び込んだらしい。





    【お慕いしておりました……初めてお会いしたあの日からずっと……。】

    イネスの言うあの日とは、イネスが僕の教育係に決まるずっと前。

    社交的だったオットー公爵婦人はイネスを連れてよく王妃主催のお茶会へ出席していた。

  【子供の私に王宮の薔薇園は、まるでおとぎ話に出てくる天使が住まう世界のようでした。】

    そして花を摘むために一人席を離れたイネスは、薔薇園に佇む天使に出会う。


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