8 / 331
1章
6ー3 シャルル
しおりを挟む
理解するのが遅れた僕を、了承したと思ったのかイネスは手際よく衣服を脱ぎ捨てた。
ねっとりとした唇が僕のそれに重なる。
白粉の香りと紅の味に吐き気がする。
「……っやめろイネス!!気持ち悪い!!」
やっとの事で顔をそらすとイネスは悲しげな目で僕の銀の髪を梳いた。
「そんな事おっしゃらないで下さいませ……こんなに、こんなにもお慕いしておりますのに……この真っ直ぐな銀の髪も…不思議な色合いのこの瞳もそのすべてをずっとずっと私は……」
「っやめろーーーーーーっっっ!!!!!」
僕の大声に気付いたのか、すぐに兵士が駆け付けイネスを僕から引き剥がし、床に押さえ付けた。
裸で髪を振り乱し、崩れた化粧で顔を歪めるイネスはもう僕の知っている優しいイネスではなかった。
「ユリシス様!!ユリシス様どうか!!どうかお許し下さい!!ユリシス様!!!」
狂ったように兄上の名を叫びながらイネスは僕に手を伸ばす。兵士に無理やり引きずられ、 部屋を出るその瞬間までずっと。
***************
翌日、オットー公爵が捕まった事を聞かされた。王位簒奪を企てたのはイネスの兄だった。イネスの兄マルクは、オットー公爵が遠征中に周囲を唆し、オットー公爵が帰還する前日を狙って挙兵した。戦いが始まってしまえば兵を引き連れた父は後に引けない息子の加勢をしてくれるだろうと思っていたそうだ。救いようのないバカ息子だ。
誰よりも王位を狙えるほどの武力を持ちながら、この国のために常に先頭に立ち危険に身をさらし戦ってきたオットー公爵に、陛下は何とか救いの手を伸ばそうとしたが、公爵はそれを断った。ここで自分達を許せば、この先同じ輩が必ず現れる。この国の為に自分の首が必要なのだと。
【誠を尽くす臣であれ。これは我がオットー公爵家に代々受け継がれてきた矜持。それを果たすどころか裏切ったのです。愚息といえどあれも間違いなく私の可愛い息子。共に逝く事をどうかお許し下さい。我が公爵家の全ては王家にお還し致します。ですが何とぞ領民の事だけは宜しくお願い致します。】
そう言ってオットー公爵は息子と共に牢へ繋がれた。あと数日で斬首されるそうだ。
イネスはマルクの陰謀に気付き、ずっと兄を止めようとしていたそうだ。だが妹が王宮に戻って企みを報告されては困ると考えたマルクによって、イネスは自室に軟禁された。
あの夜、雨音に紛れて兄が挙兵した後、見張りの目を逃れてイネスは家を飛び出した。城の兵士達が城下にせまるマルクの軍に気を取られている間に僕の部屋へ忍び込んだらしい。
【お慕いしておりました……初めてお会いしたあの日からずっと……。】
イネスの言うあの日とは、イネスが僕の教育係に決まるずっと前。
社交的だったオットー公爵婦人はイネスを連れてよく王妃主催のお茶会へ出席していた。
【子供の私に王宮の薔薇園は、まるでおとぎ話に出てくる天使が住まう世界のようでした。】
そして花を摘むために一人席を離れたイネスは、薔薇園に佇む天使に出会う。
ねっとりとした唇が僕のそれに重なる。
白粉の香りと紅の味に吐き気がする。
「……っやめろイネス!!気持ち悪い!!」
やっとの事で顔をそらすとイネスは悲しげな目で僕の銀の髪を梳いた。
「そんな事おっしゃらないで下さいませ……こんなに、こんなにもお慕いしておりますのに……この真っ直ぐな銀の髪も…不思議な色合いのこの瞳もそのすべてをずっとずっと私は……」
「っやめろーーーーーーっっっ!!!!!」
僕の大声に気付いたのか、すぐに兵士が駆け付けイネスを僕から引き剥がし、床に押さえ付けた。
裸で髪を振り乱し、崩れた化粧で顔を歪めるイネスはもう僕の知っている優しいイネスではなかった。
「ユリシス様!!ユリシス様どうか!!どうかお許し下さい!!ユリシス様!!!」
狂ったように兄上の名を叫びながらイネスは僕に手を伸ばす。兵士に無理やり引きずられ、 部屋を出るその瞬間までずっと。
***************
翌日、オットー公爵が捕まった事を聞かされた。王位簒奪を企てたのはイネスの兄だった。イネスの兄マルクは、オットー公爵が遠征中に周囲を唆し、オットー公爵が帰還する前日を狙って挙兵した。戦いが始まってしまえば兵を引き連れた父は後に引けない息子の加勢をしてくれるだろうと思っていたそうだ。救いようのないバカ息子だ。
誰よりも王位を狙えるほどの武力を持ちながら、この国のために常に先頭に立ち危険に身をさらし戦ってきたオットー公爵に、陛下は何とか救いの手を伸ばそうとしたが、公爵はそれを断った。ここで自分達を許せば、この先同じ輩が必ず現れる。この国の為に自分の首が必要なのだと。
【誠を尽くす臣であれ。これは我がオットー公爵家に代々受け継がれてきた矜持。それを果たすどころか裏切ったのです。愚息といえどあれも間違いなく私の可愛い息子。共に逝く事をどうかお許し下さい。我が公爵家の全ては王家にお還し致します。ですが何とぞ領民の事だけは宜しくお願い致します。】
そう言ってオットー公爵は息子と共に牢へ繋がれた。あと数日で斬首されるそうだ。
イネスはマルクの陰謀に気付き、ずっと兄を止めようとしていたそうだ。だが妹が王宮に戻って企みを報告されては困ると考えたマルクによって、イネスは自室に軟禁された。
あの夜、雨音に紛れて兄が挙兵した後、見張りの目を逃れてイネスは家を飛び出した。城の兵士達が城下にせまるマルクの軍に気を取られている間に僕の部屋へ忍び込んだらしい。
【お慕いしておりました……初めてお会いしたあの日からずっと……。】
イネスの言うあの日とは、イネスが僕の教育係に決まるずっと前。
社交的だったオットー公爵婦人はイネスを連れてよく王妃主催のお茶会へ出席していた。
【子供の私に王宮の薔薇園は、まるでおとぎ話に出てくる天使が住まう世界のようでした。】
そして花を摘むために一人席を離れたイネスは、薔薇園に佇む天使に出会う。
23
お気に入りに追加
1,279
あなたにおすすめの小説
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる