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1章

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    近付きたくない場所に限って外せない用があったりするものだ。
    現在私は今一番避けたい王宮で、父との面会を待っている。

    婚約者候補とはどういう事なのか父よ。
    亡き母とは貴族には珍しい恋愛結婚であった為か、【マリーも本当に想う人と一緒になってほしいな】などと私が幼少の頃から言ってくれていたではないか。
    そして最近仕事が忙しいとの理由で帰って来ないのも怪しい。まるで私を避けているかのようだ。父よ、娘を売ったのか。やはり何か弱みでも握られたのか。
    ……でも、私なんて何かと引き換えにできるほどの価値はない。そんな事は自分でもよくわかっている。ただでさえ華のない容姿なのに、年頃のご令嬢達のように少しでも美しく見せようと着飾る事もしない。夜会やお茶会は嫌いだから何かと理由をつけては欠席していた。
    私がフォンティーヌ公爵令嬢だと知る人が、貴族の中に何人いるだろうか。

    「考えれば考えるほどわからないわ……」


    面会を申し出てから一時間ほど経とうとしているが、未だ目の前の扉が開く気配はない。
    急な訪問だ。それも仕方ないのだろうと冷めたお茶に手を伸ばした時……

    コンッ、コンッ   とやけにゆっくりノックする音が響いた。

    すごく嫌な予感がする……

    「やぁマリー。二日続けて君に会えるなんて嬉しいな。シモンが来るまでもう少しかかりそうなんだ……」

    だから私に君の相手をする権利をくれる?と私の手をとって優雅に口付ける。いや、口付けている。何故離してくれないのだ。

    「ユ、ユリシス王子、わたくしなら一人で待てますわ。お忙しい王子の邪魔になるような事はできません。ですからどうか」

    お戻りになって下さいと言おうとしたのに、今度は手のひらに口付けられて言葉を失ってしまった。


    「マリー……マリーは私の事が嫌い?」


    王子は私の手のひらを頬にあて、覗き込むように見つめてきた。整いすぎた顔面の威力は凄まじく、何も言えないままソファーの背へと追いやられる。

    「き、嫌いなんて……そんな事……」

    考えた事もない。好きとも嫌いとも。

    でもその答えは不正解だったらしい。

    
    「……駄目だよマリー。シャルルに先に許すなんて。」


    「!?」



    腰を抱かれ、大きな手が優しく私の頭を支える。
    固く閉じた私の唇をユリシス王子の舌が割って入り、優しく歯列をなぞっていく。

    「マリー……舌を出して……」

    戸惑う私の耳朶が王子に食べられる。

    「きゃっっ!!」

    腰のあたりがぞくぞくして驚く私の口が開いたのを王子は見逃がさない。
    口を塞がれたまま背もたれから身体をずらされ、重なりながらソファーに沈んだ。
    絡めとられた舌が音をたてる。苦しくないのに苦しくて、くぐもった声が出てしまう。

    「マリー、辛い?」

    放心する私には首を横に振ることが精一杯だ。
    私の反応にユリシス王子は何とも艶やかで慈しみを含んだ笑顔を見せる。細められた目に心臓が締め付けられるような気持ちになる。

    そして再開された口付けで、お互いの舌がどちらのものかわからなくなった頃、待ち人来る。

 
    「マリー!!ごめんね待たせて~!!!」

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