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第三章

18 破廉恥アドラー捕獲大作戦③

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 起きると既にルーベルの姿は無く、アマリールはこんな日に寝坊してしまったかと慌てた。しかし寝坊というほど寝過ごしてはいなかったようだ。

 「大丈夫ですよアマリール様。殿下も先程出られたばかりです。」

 事情を知るタミヤが笑顔で教えてくれる。

 「良かったわ。じゃあ早速支度をお願い。」

 「お任せ下さい!」

 昨日タミヤと相談し、今日は“お忍びで街に遊びに来た貴族のお嬢様スタイル”にする事にした。
 久し振りの動きやすいワンピースに心も弾むようだ。

 「よくお似合いですわ。」

 「ふふ、ありがとうタミヤ。」

 誰にも見つからないようこのワンピースを手配してくれたのも彼女だ。
 (タミヤは本当に優秀な侍女だわ)
 きっと以前の生でもそうだったのだろう。
 何だか急に胸が締め付けられるような懐かしさでいっぱいになった。

 「……あなたにも殿下に秘密を作らせてしまってごめんなさい。でも何かあっても必ずタミヤは私が守るから!」

 タミヤは己の手を両手で握る少女を見て目を細めた。
 側に仕えて四年。目の前の少女は随分成長したが、何事にもひたむきで一生懸命なところはぜんぜん変わらない。きっとこの先もそれは変わらないだろう。

 「はい。タミヤはずっとアマリール様にお仕えしたいのです。ですから今日の事がうまくいくようにここから祈っております。」

 
 **


 アマリールが朝食を終えて少しした頃、皇太子妃宮に一人の男がやって来た。

 「ゲイル様から遣わされました。サンと申します。」

 サンと名乗ったその青年はゲイルの実家オーブリー宰相家に仕える者だと言う。
 
 「それじゃサン、どうやってバレずに皇宮の外へ出るの?」

 金髪菫目のド派手な自分を一体どんな手を使って外に出すのだろうか。アマリールはドキドキしながらサンの答えを待つ。

 「何て事はありません。担いで出ます。」

 「……は?」

 今この子(いや青年だけど)何て言った?
 担ぐ?担ぐって何よ。よいしょって肩に担いで皇宮出るって?バカ?サンはバカなの?
 もはや絶望的な予感しかしないアマリールの目の前に、サンはバサッと音を立てて麻袋を広げた。
 
 「これに入って貰います。」

 「サン……」

 「はい。」

 「これでバレないって本当に思ってるの?」

 「はい。」

 「一応聞くけどあなた本当にゲイル様のところから来たのよね?」

 「はい。」

 あ、頭が痛い。でもあのゲイル様が寄越したからには信頼に足る人物であるのは間違いない。
 (ええぃ!女は度胸よ!!)
 
 「わかった!任せたわよサン!」

 こうしてアマリールは覚悟を決めて麻袋の中へと入ったのだった。

 *


 「あれは……」

 回廊を歩くルーベルは見知らぬ男に目を留める。

 「ど、どうしました殿下?(あれはサンじゃないか!!何でこんなとこ堂々と……それであの麻袋は何だ!?)」

 「いや……随分活きがいい麻袋だ……」

 「活きがいい?」

 ルーベルは担がれて行く麻袋を遠い目をして見つめている。
 (まさか……まさかあの麻袋は……アマリール様!?)
 サンは一番腕は確かだが人間的には癖が強すぎる。しかし必ず無事に殿下の元へ返すためには奴しかいないと送り込んだのが間違いだったかもしれない。
 (まさか気付かれてないよな……ん!?)
 背筋に悪寒が走り振り向くと、何と目が据わったルーベルが自分を見ていた。

 「で……殿下?」

 「ゲイル……今日は楽しい一日になりそうだ。」

 「は?」

 「昨夜はアマリールの宮で過ごした。」

 「そ、それはよろしかったですね!仲がよろしいのは何よりです!」

 「よく眠れてな……」

 「ええ!隈も取れてます!」 

 「なので今日も早目にあれの宮へ行こうと思う。」

 「早目にですか!?しかし今日も政務は山積みで……(早くはダメ早くはダメ!!)」

 「だが安心しろ。政務はいつもより多めに終わらせてやる。あれの驚く顔が見れるよう頑張るさ。」

 「……(早く捕獲されろエクセル。私の命が危ない……)」

 ゲイルは幼馴染みが速攻お縄に掛かる事を祈りながら瞑目めいもくした。

 
 **


 「……本当にこんな簡単に出れるなんて……」

 「だから言ったじゃないですか。あ、もうすぐアドラー様のお屋敷ですから。」

 サンは麻袋のアマリールを待っていた馬車に乗せ、スルリと皇宮の門をくぐってしまった。
 きっと身分証と通行証が相当しっかりしたものなのだとアマリールは推測した。
 しかし本当の目的はこれからだ。何が何でもアドラーを捕獲して帰らなければならない。そして捕獲するだけでは不十分。クロエと共に歩く決意をして貰わなければ。
 けれどアマリールにはずっと不思議に思っていた事がある。なぜアドラーはクロエに想いを告げずにここまで来たのかと言う事だ。
 模擬戦での女神のキス。高価な贈り物。一つ一つ拾い集めると想いを告げてるのと同じようなものなのに、肝心の事は何も伝えていないのだ。
 考えられるとしたらクロエからの反応を待っているのか……相手の幸せを第一に考えて何も出来ないのか……多分どちらかだろう。
 
 「お嬢、着きましたよ。」

 「えっ!?もう?」

 (まだ考え途中だったけど……でもこれ以上考えたって仕方ないわ。当たって砕けろよ!)

 「サン!いざと言う時はアドラー公子を力ずくで連れて行くからね!」

 「……この国最強の男ですよ……そこはあんまり俺に期待しないで下さい。」
 


 


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