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しおりを挟む当然というべきか、朝の支度に入室してきた侍女は、ベッドに寝転がる超絶美形妖精に驚き腰を抜かした。
しかし殿下はさすが肝が据わっているというか、床にへたり込む侍女に涼しい顔で名を名乗ると、にっこりと微笑んだ。
「すまないが身体を清めたいんだ。バスルームの準備をお願いできるかな」
「ははは、はいぃっ!」
複雑な気分である。
風呂の準備よりも先に、『なぜ皇太子殿下が絶賛閉鎖中のコートニー侯爵領に?』とか、『なぜ領主の娘の寝室にいるの?』とか、疑問に思わなければ駄目だろうに。
我が家の使用人は、教育の行き届いた有能な者ばかり。
それなのにも関わらず、一瞬で殿下の虜になり、言われた通りに行動する侍女の姿は、まるでこれまでの自分を見ているようで恥ずかしくなる。
「一緒に入ろうか、ルツィエル」
「えっ!?」
(一緒にって、生まれたままの姿を見せあうってこと!?)
「と、と、とんでもありません!」
咄嗟に両手を胸の前で交差させた私に殿下は残念そうな顔をする。
「けれど、昨夜私は身を清めないまま君を抱いて寝てしまったから……」
「殿下はいつもとてもいい匂いがして綺麗ですから大丈夫です!」
言い終わり、ふと我に返る。
(私ったら、なにを口走っているの!)
これではまるで、殿下の匂いを喜んで嗅いでましたって言っているようなものだ。
あながち間違いではないのだが、淑女としては恥ずかしすぎる。
「あ、あの、私のことは気にせずお入りになってください」
「……わかった。じゃあ、手伝いをお願いしてもいいかな?」
「手伝い……?」
エミル殿下はにっこり微笑むと、私の耳元に唇を寄せた。
「この屋敷の侍女たちが、君よりも先に私のすべてを見てもいいの?」
「いやです!!」
「ふふ、じゃあ決まりだ」
──し、しまったわ!
しかし後悔しても遅い。
エミル殿下はまるで、いたずらが成功した子どものような顔をしている。
昨夜再会を果たしてからというもの、目に映るのは初めて見る表情ばかりだ。
いったいどれが本当の殿下なのだろう。
けれど、どの殿下も魅力的で目が離せない。
「さあルツィエル、案内してくれるかな」
「……はい」
ドクン、ドクンと、うるさい胸の鼓動。
これまで何度も経験したはずのそれが、いつもと違う気がするのはなぜだろう。
私は平静を装いながら、バスタブのある隣室へと殿下を案内したのだった。
桃色の大理石で造られた金の猫脚のバスタブは、大のお気に入りだ。
たっぷりと張られた湯の上には、薔薇を中心にローズマリーやミントなどのハーブが束ねて浮かべられている。
これももちろん、私がいつも好んで使用しているものだ。
我が家の浴室は、貴族の屋敷の中では上等な造りだとは思うのだが、日頃大きな湯殿で疲れを癒やす王族の方にとっては、狭く不便なはず。
けれど殿下は不満はおろか、そんな素振りすら一切見せなかった。
むしろ上機嫌ともいうべき表情で、室内を眺めている。
(こういう造りの浴室が珍しいのかしら……)
しかし、視察や諸国への訪問の際、途中立ち寄る宿場などで、こういった浴室は何度も経験しているはず。
そんなことを考えていた私に、この直後、衝撃的な瞬間が訪れる。
なんと、バスタブの前に立ったエミル殿下が、躊躇いもせず着ているものを脱ぎだしたのだ。
徐々に露わになる美しい肌。
見ちゃいけないと思いつつも、奇跡のような肉体に、目を逸らす事ができない。
しかし、直視できたのは上半身までのこと。
殿下がトラウザーズに手をかけた瞬間、頭の中が真っ白に染まり、思考が停止した。
そして次の瞬間、目の前で惜しげもなくさらされた引き締まった臀部に、私の息の根は止まった。
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