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第3話 団長室にて
しおりを挟むエミリアンの突然の訪問は、良くも悪くも第三騎士団に刺激をもたらした。
第三王子がついに王位継承権争いに名乗りをあげたのだと興奮する者もいれば、青白く覇気のない主に落胆する者も。
それぞれが様々な思いを胸に、夜を明かした。
翌日。アベルの元を同期であり友人でもある第三騎士団所属のロイクが訪ねてきた。
二つ年上のロイクとは、騎士見習いの頃から寝食を共にしてきた気のおけない仲だ。
なのでふたりだけの時はいつも気安い声が飛んでくる。
「なあアベル……お前、昨日のアレどう思った?」
「どうって、なにが」
アベルは、自身に与えられた団長室のソファでくつろぐロイクに、質問の意図を確認した。
「今まで俺たちに無関心だった坊やが急に挨拶に来るなんて、なにかおかしいと思わないか?」
「……まあな」
今年二十四になるアベルが第三騎士団長に就任したのは四年前のこと。
直属の騎士団は、王子が十二歳の年に与えられる決まりになっている。
アベルはエミリアンが十二を迎える前の年、騎士団創設のために開かれた選抜試験を首席で合格し、団長に選ばれた。
しかし叙任式以来、彼がエミリアンに会うのは年に一度あるかないか。
国内に不測の事態が起こった時のみだった。
それは三人の王子たちにとって、自身の能力を周囲に知らしめる大切な機会でもある。
しかしエミリアンに指示を仰ぐに行くと、いつも『みんなのいいようにしてくれ』としか返ってこない。
けれどアベル個人の意見としては、物足りなさは否めないものの、権力に固執しないエミリアンの姿勢は好ましかった。
第一王子は頭脳明晰だがその人柄には温度をまるで感じない。いつも無表情でなにを考えているのかわからない。
そして第二王子の騎士団は国難云々よりもとにかく手柄を立てたがる。主の性格も反映しているのだろうが、いつもギスギスとしていて荒っぽく、小競り合い程度の喧嘩の話なら何度も耳にした。
それに比べて微塵も王座に興味なさそうなエミリアンを主に持つこの第三騎士団は、気負いもなく、雰囲気も悪くない。
アベルがきちんと目を光らせていることもあるが、精神的にも余裕がある分、各々自己管理が行き届いている。
しかし団員たちからすると、退屈で未来のない場所に身を置くのは、時に虚しく感じることもあるだろう。
この第三騎士団は、エミリアンが生きている限りなくなることはない。
だから食いっぱぐれる心配はないのだが、明らかに出世とは縁遠い。
騎士であれば一度は王の元で剣を振るう立場に憧れるもの。
だが、昨日のエミリアンの訪問で、騎士たちは俄に色めき立ってきた。
「期待して、あとで失望するようなことにならなきゃいいけどな」
ロイクは他人事のように呟いた。
それは、かつて彼自身もこの場所に希望を抱いていたから。
後悔するくらいなら、最初から期待などしないほうがいいと思っているのだろう。
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