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第二章
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しおりを挟む「未来のアンリ様が私の事を……?」
そんな…そんな訳ない。
だって私達には何にもなかった。
今みたいになんでも話し合ったり、キスしたり、愛を育むような時間なんて何も…。
「それでもわかるんだ。自分の事だからね。」
「そんなものなの?」
「うん。とりあえず涙を拭こうか。」
用意がいい。まるで私が大泣きするのがわかっていたかのように懐からサッと布を取り出す。
「キスする前に拭いてあげれば良かったね。でもどうしてもキスしたかったんだ。ごめん。」
「ううん、アンリ様からして貰えて嬉しい。だから謝らないで?」
アンリ様は頬を赤く染めて笑う。
「エルフィリア…私はエルフィリア以外と肌を合わせる事は無いよ。だから安心して。」
でも夢の中のアンリ様はファルサと…
「未来の私も泣いていたんでしょう?きっと、死ぬより辛かったんだろうね…愛する人の命を奪った張本人を抱かなければならなかったんだ。」
「アンリ様はそんな事をしてまで一体何をしようとしているのかしら…」
命の契りを交わせばアンリ様の身体は自由になる。ファルサが生きている限りはその力を共有するのだ。神殿が聖女と呼ぶほどのファルサの力を。でももし…もしもその聖女がいなくなれば神殿の力は確実に弱まる……
「まさか……!まさかそんな事……!!」
「どうしたのエルフィリア!?」
「命の契りには掟があるの!契りを交わして命を分けて貰った者は決して自ら命を絶つような事をしてはいけない。何故なら…」
「何故なら?」
「その命は術者のものだから。命を共有するものが命を絶つという事は術者も死ぬと言う事。もしかしたらアンリ様は…未来のアンリ様は自分の命を絶つ事でファルサを……どうしようアンリ様!アンリ様が死んじゃう…!!」
取り乱す私をアンリ様は落ち着くよう諭す。
けれどとても冷静になんてなれない。未来のアンリ様は今のアンリ様と違うけど同じ人。死んでなんて欲しくない。生きて幸せな人生を歩んで欲しい。
「よく考えてエルフィリア。未来の私はゼノというグレンドールの魔法使いと行動を共にしていたんだよね?そして棺の中のあなたに“必ず帰してあげる”そう言ったんだよね?」
「そうよ。そしてゼノは使えないはずの回復魔法を使って死んだはずの私の身体を治療したわ。アンリ様はどうしてゼノと一緒にいたの?そしてゼノはあの日…ローゼンガルドがグレンドールへ侵攻してきたあの日、どうやって生き延びる事が出来たの?どうして回復魔法を…」
駄目だ。考えても考えてもわからない。
私があの鳥籠に囚われている間に外の世界では何が起こっていたのだろう。
「確かに今の私達には情報が無さすぎる。でもね、ひとつだけ私にもわかることがある。」
「ひとつだけわかること?」
「うん。おそらく未来の私は自死するつもりではない。自由な身体を手に入れて叔父上やギャレット、そしてファルサを擁する神殿と戦うつもりなんだと思う。そして、“帰してあげる”とはきっと…あなたを祖国へ帰すという事だと思う。」
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