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第二章

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    「誰があなたをここに通したの!?」

    衛兵が廊下にもいるはずだ。なのに何故。

    「王族に歯向かえる奴なんているわけないだろ?」

    ギャレットは悪びれず言う。
    大方脅して無理矢理通ってきたのだろう。

    「ギャレット殿。ここは女性の患者の部屋だ。お引き取り願おう。」

    父がこの場にいたのは予想外だったのだろう。少しだけ驚いた顔をしたがやはり図太い神経のこの男だ。

    「これはこれはグレンドール国王。エルフィリア姫がなかなかつれなくて困っているのです。私に姫と話をする機会を与えては貰えないでしょうか。」

    そう言うその顔は明らかに私達を下に見るような目だ。

    「悪いが娘にはもう決まった相手がいる。誤解を受けるような行動は慎んで貰いたい。」

    え!?
    お父様今何て言った!?
    【決まった相手】ってもしかして……。

    ボッと顔が燃え上がるように熱くなる。
    そ、そりゃ私はアンリ様以外なんて考えた事もなければこの先もずっとアンリ様だけだ。でも他人からそれを言われるとこんなにも恥ずかしいものなのね。

    しかしギャレットは国王の言葉に対し眉間に皺を寄せる。

    「エルフィリア姫はまだ誰ともご婚約もされていないと伺ってますが?」

    そんなことあんたにまったく関係ないでしょ。私の顔から駄々漏れていたその感情を代弁してくれたのか父は更に続けた。

    「相手も身分のある方なのでまだ内々の話だ。相思相愛の二人なのでね。我らもとても喜んでいる。」

    そうなの!?お父様喜んでるの!?
    しかし夜な夜な男の元に通う娘を許しているくらいだ。言葉だけ聞くと相当ふしだらな娘だし、よくよく考えると昨夜は大分ふしだらな行為をしていた気がする。けれど相手がアンリ様だから安心して預けてくれているのだと思うと何だかとても嬉しくて、心がホワホワと温かくなる。

    「……そうですか。しかし未来はどうなるか誰にもわからない事ですからね。ねぇ、エルフィリア姫。」

    ギャレットは蛇のように細く、鋭い目付きで私を見る。
    父が出てくれたのだ。わざわざ私が余計な事を喋る必要もないだろう。私は何も言わずノエリア様に向き合った。

    そしてギャレットは諦めたのか誰にも聞こえないように小さく舌打ちをしてこの場を去って行った。
    私はノエリア様の従者の方にお詫びをした。すると従者の方は何かを思い出すような顔をして悩んでいる。

    「どうされました?」

    私の言葉に彼は

    「あの黒髪……」

    「黒髪?」

    「ええ。エルフィリア様はご存知ありませんか?黒髪を持つ一族の話を。」

    黒髪の一族?
    その時父が口を開く。

    「呪術を生業とするシャグランの民か。」

    その表情は硬い。
    しかしシャグランの民とは何だ?そのような国名も民族の名も、私の学んできたあらゆる書物には記されていなかった。

    「シャグランの民とは一体何者なのですか?どこに暮らしているのです?」

    私の問いに従者の彼が説明してくれた。

    「シャグランの民は姫様のような魔法使いの皆様とは一線を画す存在です。このグレンドールの魔法使いの皆様は正しき心を持ってその力を使いますが、シャグランの民が使う力は人から生まれる妬み嫉み…人を呪う心です。その威力は凄まじく、狙われた者は逃げられない。それ故にシャグランの民は忌み嫌われる存在…ですから遠くローゼンガルドの森の奥深く。極寒の国の更に北。断崖絶壁の谷に住まうとされています。」


    ローゼンガルドの北。
    忌み嫌われる黒髪の一族シャグランの民。
    サニーはギャレットが去った今も姿を見せない。私は言い知れぬ不安に胸が締め付けられた。    
    部屋を出た後お父様は誰にも聞こえぬように私に言った。

    「エルフィリア。もしもの時はアンリ殿をローゼンガルドから連れて逃げなさい。」

    「逃げるって…どこへ…?」

    その問いにお父様は答えてくれなかった。
    

    


    



    
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