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最強王女に最弱騎士
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豪奢な馬車に乗せられた俺はため息をついていた。
「たく、なんだよ、この格好」
ものすごくヒラヒラしたドレスを着せられた自分を嘆くように俺は、また、ため息を繰り返した。
「大変お似合いですよ、王女様」
侍従である同乗している巨乳メイドが楽しそうに笑う。
「王女様の影武者なら、男の俺よりも、女の君がやった方がいいんじゃないのか」
「いえいえ、わたしのようながさつな生まれの者が王女様の真似など、宰相の息子さんで、王女の幼馴染であるあなただからこそ、影武者に相応しいのです」
「いや、幼馴染と言っても、俺は近衛の騎士で、本来なら外で・・・」
俺は馬車の戸を少し開け、馬で並走している護衛の王国一の騎士に声をかける。
「王女様、男が影武者なんて変ですよ、やっぱ、辞めましょう」
「ばかもの、お前がそうやって顔を出したら敵に影武者とバレるではないか」
真紅の甲冑をまとい、剣の達人として男装して護衛役をしていた王女が、俺を叱責する。
「影武者というより、貴様は囮だ。敵を誘うな。軟弱な顔しか取り柄のないお主には、ぴったりではないか」
「軟弱でも王女の近衛の騎士です。守るべき相手に守られていては本末転倒」
「あたしに剣の稽古で勝てぬ者が、騎士だと名乗る方が本末転倒だと思うが」
「ですが、王女様の実力は並み以上、そう簡単に勝てぬのはご容赦を」
「だからと言って、そなたのような軟弱な騎士におとなしく守られていろと言うのは、いささか滑稽だと思うがな」
「ふふふ、そうですわね。このメイド風情にも勝てませんものね」
「うっ・・・」
以前、王女様の戯れで、この巨乳メイドと勝負させられたことがあり、俺は見事に完敗した。後で知ったことだが、このメイドは、王族と縁の深い一族の娘で暗殺、密偵、など王の影となって暗躍するのを生業とする者たちのひとりで、生まれた頃より鍛えられた手練れだった。俺はというと代々多くの宰相を出してきた貴族の家柄で王家とも親しく、武芸より学問を優先に学ばされた。近衛の騎士に任じられたのは現宰相の父が元気で現役で、他に任官できる職の空きが王宮にはなく幼馴染の王女殿下の推挙もあって彼女付きの近衛になれたというわけである。
彼女が言うには、「お前みたいな軟弱者は、このあたしのもとで鍛え直した方がいい」ということだった。彼女は王女ではあるが、武芸に秀で、王国最強の将という顔を持っていた。
この度の帝国と王国との戦でも総大将として全軍の指揮を執り、帝国軍を迎え撃ち、講和へと帝国軍を追い詰めていた。国力からすると、大国の帝国に小国の王国が勝てる道理はなかったが、彼女の武勇と俺の戦略により、帝国からの停戦交渉を引き出し、現在、帝国の全権大使のいる都市に王国の総大将たる王女が向かっているところだった。帝国内部には、この講和に反対する戦争継続派の勢力があり、その者たちの襲撃の可能性ありということで、それゆえの影武者というわけである。
「しかし、本当にお似合いですよ」
巨乳メイドが、ニコニコ笑っている。
「うちの王女様は、そういうのに興味がなくて、宝の持ち腐れになっておりましたが、ここで役に立つとは、戦場に持ってきておいて良かったですわ」
「たく、お前ら二人とも俺をおもちゃにして楽しんでいるだけじゃないのか」
「いえいえ、楽しんでいるのは王女殿下で、私はそのお手伝いをしているだけです」
「いい性格してる」
「自分から喜々として男装までなさる王女殿下には負けます」
「ちょっと、二人とも、そとまで聞こえてるわよ」
王女が、外から文句を言う。
「本当のことだろ。悔しかったら、俺よりドレスが似合うように上品な仕草ってやつを勉強しろよ」
「くっ・・・」
王女自身、自分があまり王族として品性とか気品というものを身に付けていなことは自覚していて、それを引け目に思っていることを幼馴染の俺は知っていた。そこを突かれるのを嫌がることも。
「たく、言わせておけば・・・」
ブサッと何かが馬車の戸を破って突き出る。
矢じりだと俺が把握するよりも早く巨乳メイドが俺をぐいと引っ張り、馬車の床にうつぶせにさせ、その上に自らの肉体を覆い被せる。
「お、おい」
「敵襲です。伏せて」
「む、胸が背中に当たってる」
覆いかぶさった巨乳メイドは、その巨乳を押し当てるみたいに俺の背に乗っていた。
「胸の感触を気にできるなんて余裕ですね」
「ま、外にはあいつがいるからな。矢の一本が馬車に刺さったくらい」
「ま、そうですね。うちの王女様に手を出そうだなんて命知らずが、まだ帝国側にいたということですか」
「そういう愚か者を釣るための囮役だ。ここはうまくいったと喜ぶべきだろ」
馬車が止まり、外で剣のぶつかり合う音が響き、しばらくして、馬車の戸が開いた。
真紅の甲冑姿の王女は無傷だった。
「おい、終わったぞ。お前の希望通り何人か生け捕りにした。これでいいのか」
「ああ、講和締結のための使者を帝国の手の者が襲ったという確実な証拠になる」
そのあと、とらえた襲撃者を、巨乳メイドが拷問して、誰の命令かを聞き出し、俺たちはその情報と襲撃者の身柄を帝国の講和の使者に引き渡した。
これで、帝国内の戦争継続派は沈黙するだろうし、帝国は我が国に一目置くようになるだろう。
で、この数年後、父の急死により、宰相の任を継いだ俺と、女王となった彼女とで王国は最大の繁栄を迎えるのだが、それはまた別の話。
それと、この俺を替え玉にして襲撃者を王女自ら捕らえた逸話により、このあと王宮に残される彼女の肖像画のほとんどが、本人ではなく、宰相になった俺が影武者を続け、彼女本人の肖像ではなく、俺の肖像ではないかという噂話が生まれるのだが、それは俺と王女とのほんのささやかなエピソードに過ぎない。
「たく、なんだよ、この格好」
ものすごくヒラヒラしたドレスを着せられた自分を嘆くように俺は、また、ため息を繰り返した。
「大変お似合いですよ、王女様」
侍従である同乗している巨乳メイドが楽しそうに笑う。
「王女様の影武者なら、男の俺よりも、女の君がやった方がいいんじゃないのか」
「いえいえ、わたしのようながさつな生まれの者が王女様の真似など、宰相の息子さんで、王女の幼馴染であるあなただからこそ、影武者に相応しいのです」
「いや、幼馴染と言っても、俺は近衛の騎士で、本来なら外で・・・」
俺は馬車の戸を少し開け、馬で並走している護衛の王国一の騎士に声をかける。
「王女様、男が影武者なんて変ですよ、やっぱ、辞めましょう」
「ばかもの、お前がそうやって顔を出したら敵に影武者とバレるではないか」
真紅の甲冑をまとい、剣の達人として男装して護衛役をしていた王女が、俺を叱責する。
「影武者というより、貴様は囮だ。敵を誘うな。軟弱な顔しか取り柄のないお主には、ぴったりではないか」
「軟弱でも王女の近衛の騎士です。守るべき相手に守られていては本末転倒」
「あたしに剣の稽古で勝てぬ者が、騎士だと名乗る方が本末転倒だと思うが」
「ですが、王女様の実力は並み以上、そう簡単に勝てぬのはご容赦を」
「だからと言って、そなたのような軟弱な騎士におとなしく守られていろと言うのは、いささか滑稽だと思うがな」
「ふふふ、そうですわね。このメイド風情にも勝てませんものね」
「うっ・・・」
以前、王女様の戯れで、この巨乳メイドと勝負させられたことがあり、俺は見事に完敗した。後で知ったことだが、このメイドは、王族と縁の深い一族の娘で暗殺、密偵、など王の影となって暗躍するのを生業とする者たちのひとりで、生まれた頃より鍛えられた手練れだった。俺はというと代々多くの宰相を出してきた貴族の家柄で王家とも親しく、武芸より学問を優先に学ばされた。近衛の騎士に任じられたのは現宰相の父が元気で現役で、他に任官できる職の空きが王宮にはなく幼馴染の王女殿下の推挙もあって彼女付きの近衛になれたというわけである。
彼女が言うには、「お前みたいな軟弱者は、このあたしのもとで鍛え直した方がいい」ということだった。彼女は王女ではあるが、武芸に秀で、王国最強の将という顔を持っていた。
この度の帝国と王国との戦でも総大将として全軍の指揮を執り、帝国軍を迎え撃ち、講和へと帝国軍を追い詰めていた。国力からすると、大国の帝国に小国の王国が勝てる道理はなかったが、彼女の武勇と俺の戦略により、帝国からの停戦交渉を引き出し、現在、帝国の全権大使のいる都市に王国の総大将たる王女が向かっているところだった。帝国内部には、この講和に反対する戦争継続派の勢力があり、その者たちの襲撃の可能性ありということで、それゆえの影武者というわけである。
「しかし、本当にお似合いですよ」
巨乳メイドが、ニコニコ笑っている。
「うちの王女様は、そういうのに興味がなくて、宝の持ち腐れになっておりましたが、ここで役に立つとは、戦場に持ってきておいて良かったですわ」
「たく、お前ら二人とも俺をおもちゃにして楽しんでいるだけじゃないのか」
「いえいえ、楽しんでいるのは王女殿下で、私はそのお手伝いをしているだけです」
「いい性格してる」
「自分から喜々として男装までなさる王女殿下には負けます」
「ちょっと、二人とも、そとまで聞こえてるわよ」
王女が、外から文句を言う。
「本当のことだろ。悔しかったら、俺よりドレスが似合うように上品な仕草ってやつを勉強しろよ」
「くっ・・・」
王女自身、自分があまり王族として品性とか気品というものを身に付けていなことは自覚していて、それを引け目に思っていることを幼馴染の俺は知っていた。そこを突かれるのを嫌がることも。
「たく、言わせておけば・・・」
ブサッと何かが馬車の戸を破って突き出る。
矢じりだと俺が把握するよりも早く巨乳メイドが俺をぐいと引っ張り、馬車の床にうつぶせにさせ、その上に自らの肉体を覆い被せる。
「お、おい」
「敵襲です。伏せて」
「む、胸が背中に当たってる」
覆いかぶさった巨乳メイドは、その巨乳を押し当てるみたいに俺の背に乗っていた。
「胸の感触を気にできるなんて余裕ですね」
「ま、外にはあいつがいるからな。矢の一本が馬車に刺さったくらい」
「ま、そうですね。うちの王女様に手を出そうだなんて命知らずが、まだ帝国側にいたということですか」
「そういう愚か者を釣るための囮役だ。ここはうまくいったと喜ぶべきだろ」
馬車が止まり、外で剣のぶつかり合う音が響き、しばらくして、馬車の戸が開いた。
真紅の甲冑姿の王女は無傷だった。
「おい、終わったぞ。お前の希望通り何人か生け捕りにした。これでいいのか」
「ああ、講和締結のための使者を帝国の手の者が襲ったという確実な証拠になる」
そのあと、とらえた襲撃者を、巨乳メイドが拷問して、誰の命令かを聞き出し、俺たちはその情報と襲撃者の身柄を帝国の講和の使者に引き渡した。
これで、帝国内の戦争継続派は沈黙するだろうし、帝国は我が国に一目置くようになるだろう。
で、この数年後、父の急死により、宰相の任を継いだ俺と、女王となった彼女とで王国は最大の繁栄を迎えるのだが、それはまた別の話。
それと、この俺を替え玉にして襲撃者を王女自ら捕らえた逸話により、このあと王宮に残される彼女の肖像画のほとんどが、本人ではなく、宰相になった俺が影武者を続け、彼女本人の肖像ではなく、俺の肖像ではないかという噂話が生まれるのだが、それは俺と王女とのほんのささやかなエピソードに過ぎない。
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