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勇者の鎧

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その鎧は、とても威厳に満ちた豪奢な鎧だった。一目見て、勇者が着ていると分かる、それだけの気高さと力強さを漂わせていた。思わず、彼の行く手を塞ぐように見惚れてしまった。
「ん、何か用かね?」
フルフェスの兜の下から、彼は怪訝そうに俺に尋ねた。思わず、
「素敵な鎧ですね、勇者様ですね握手してもらえませんか」
と言ってしまった。
「あ、ああ・・・」
彼は兜の下で苦笑したようだが、快く俺と握手してくれた。
「この鎧、そんなに素敵に見えるかい?」
「はい」
「なら、私から君にこれを貸そう、ちょっと着てみるがいい。勇者気分を味わってみたいだろ」
「いいんですか」
「ああ、これを着て、この街をぐるりと歩いてみるといい」
そう勇者様に言われて、彼の泊まっている宿屋に行き、本当に鎧を着せてもらい町中を歩いた。
勇者の鎧を着ただけなのに、俺を見る人々の視線が明らかに違った。
気持ち良かった。普段は頑固おやじとして有名な店主が、気前良く、パンをくれたり、子供たちが勇者様だ勇者様だと俺の周りで騒いだ。
「探したぞ、勇者」
ふと賢者らしき老人に呼び止められ振り返ると、魔法使いや女騎士などいかにも手練れっぽい者たちが俺を囲んでいた。
「いつまで遊んでいるんだ、次の街に行くぞ」
「あ、ちょ、待って、俺は勇者じゃない」
「何、言ってるの。早く、魔王を退治しないと」
離れた場所でこっそり様子を見ていた元勇者に見送られながら、俺は勇者の仲間たちと伴に別の街に旅立った。
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