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海上封鎖

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その日、どうして、そうなったか、最初、俺にもよく分からなかった。
だが、目の前には魔界に逃げ込んできてから定期的に俺と稽古していた勇者と槍使いがいた。しかも、今日は自分で服を脱ぎ、全裸になっていた。裸なのに聖剣や槍などの武器はしっかり握って、俺を挑発していた。
「おらおらどうした、まさか、女の裸にビビってんのか」
聖剣の切っ先を俺に向けながら、勇者が吠える。
「そうだ、そうだ、大好物だろ、女の裸が。魔王様のために脱いでやったんだ、喜んで触手を全部おっ立てな」
槍使いも同じように槍を手に俺を下品に罵る。しかも、自分のおっぱいが揺れるようにわざと自分で上半身を揺らしていた。
「おいおい、なにも、ただの稽古なのに、そんな恰好しなくても・・・」
俺は呆れていたが、彼女たちは本気のようだ。
「たとえただの稽古でも手を抜かれたら、こっちは気分が悪いんだ。せっかく、お前が本気になれるように服をぬいでやったんだ。素直に喜べ、スケベ魔王」
前々から彼女たちが俺との本気の再戦を望んでいたことは分かっていた。負けた雪辱を晴らしたいというのは至極全うな感情だとは思うし、魔界に逃げ込んで来てから彼女たちが自分を鍛えていたのも見ていた。
俺を本気にさせたいからと言って、全裸になることはないと思ったが、俺が最近、手加減して稽古に付き合っているのがとバレたので、彼女たちは怒って俺に本気になるように勝手に服を脱いだのだ。初めて彼女たちと戦ったとき、俺はまだ触手の身体というものにはなれていなかった。だが、今では幾度か戦いを経験して、あのとき以上に触手が使えた。今本気を出したら、勇者たちを傷つけるのが怖いと感じるくらいに自由に触手を動かせた。
「どうなっても知らないからな。それと自分から裸になって俺を挑発したんだから、負けてどうなっても知らないぞ」
無数の触手をうねらせて、彼女たちを威嚇する。挑発してきたのは、彼女たちの方であり、本気を出してもいいよなと思う。それに、裸になったということは、負けた後、俺にどうにかされる覚悟があるということだ。こちらもビンビンにならないと失礼だろうと決意した。
一斉に、触手を二人に伸ばした。何本か斬られるのは覚悟の上だ、むしろ、わざと斬らせて、その切れた触手の一部を彼女たちの方に飛ばした。俺の触手は斬られても、すぐに動かなくなるということはないので、その飛んできた切れ端に勇者たちの意識がそれる、その隙に足元から別の触手を這わせて掴み、ブランと吊し上げる。どんな達人でも地面にきちんと足がついていないと鋭い踏み込みも斬撃も放てない。
俺はぶらぶらとゆすりつつ、勇者と槍使いを無数の触手で縛り上げた。
囮として斬らせた触手も、もう再生が始まっていた。
「くっ、くそ、放せ!」
「この、この!」
彼女たちは暴れたが、自分の裸体を卑猥にくねらせるだけで、反撃にははならい。
「さて、俺を本気にさせたんだ。このあと、どうなるか、わかってるよな」
俺は意地が悪そうにそう彼女たちに言って、彼女たちの穴に触手を潜り込ませた。
相変わらず、彼女たちは俺に勝てなかったが、人間界侵攻までの間、彼女たちは自分たちを鍛え続けた。

そして、魔界の門をこちらの勢力圏にしている間、魔界に取り残された遠征軍の生き残りなどで魔界に人間の街をつくらせそこを利用して俺たちは人間界とこっそり交易をしていた。

あまり人間界と密接になるのは危険ではないかと俺は小さな軍師と話したが、こちらが人間界に侵攻して皇帝を倒した後とかを考えたら、人間界と魔界に交易があるのは良いことだと軍師は言った。特に、帝国を通さず、軍師の祖国などと俺たちは交易するようになった。軍師の調略で帝国の周辺国には、帝国と縁を切り魔界と手を結んだ方が利口だと考える国も増えているようだ。魔界と交易することで利益が出ると人々に知られれば、人々の魔界への見方も変わるだろうと。
「実は、皇帝を倒せなかった場合、皇女様を女王に据えて、あの街を小国として独立させようかと考えています」
「つまり、魔界に人間の国を作るつもりか、軍師殿は」
「その通りです、陛下。門の近くに人間の国、しかも、帝国の皇族の皇女が治める国ができましたら。人間界も、そう強引にその国を突っ切って魔界に攻めて来れないでしょう」
「つまり、人間界への盾の役割を果たせると」
「はい、いくら帝国でも、同じ人間の国を蹂躙して魔界に攻め込めるでしょうか。もし行えば、現皇帝は実の娘さえ殺そうとする悪逆非道な為政者と世に知られるでしょう」
「なるほど、だがそれは、現皇帝を倒せず、我々が魔界に逃げ帰った場合だろ?」
「はい、戦というものは、敗走した場合のことも考えるべきです」
「なるほど、負けたときのことを考えておかないと、無謀な戦を無理に続けようとすると」
「引き際を見誤らないために、あらゆる事態を想定するべきです」
「だが、人間側が、魔界に人間の国を快諾しなかったら?」
「そこは、陛下が人間界で大暴れしていただき、皇女様には怖い後ろ盾がついていると喧伝していただければ、文句をいうものは少ないでしょう」
俺の触手の力まで戦略に組み込んでいるのか。
「ということは、人間界に攻め込んだ時、俺があっさりやられた困るというわけか」
「人類の代表たる勇者一行に嬌声を上げさせられる陛下が、何をおっしゃいます」
「この前の稽古覗いてたのか。だが、嬌声を上げているのはお前もだろ」
「・・・意地の悪い言い方をするのですね」
小さな軍師が頬を赤らめる。
神様から授かった触手で、女を手籠めにしている実感はある。だが、彼女たちの意志を無視しているつもりもない。
「とりあえず、この件は明日、俺が皇女に会いに行って話しておこう」
「今日は、もうお疲れになられましたか、陛下」
「疲れたというより、ちょっとゆっくり考える時間をくれ」
このままでいいのか、何か間違っているところがないか落ち着いて考える時間が欲しかった。吸血鬼の王たる伯爵が、魔王なんて望まなかった理由がよくわかる。
「では、少し休憩を。お茶を運ばせますか」
「いや、少しひとりにさせてくれ」
そう言って俺は自室にこもった。
人間の国の建国か、妙案だとは思うが、この先皇女の子孫が魔王との友好関係を破棄して、人間界側と手を組んで、魔界への侵攻拠点にならないという保証もない。
さて、どうするのが一番かとひとり考えていたとき、ドアがノックされた。
「陛下、いられますか」
「ああ、いるぜ、誰だ?」
「人魚のミーナです」
半魚人の王が俺への献上品として寄こした人魚だ。
「なんのようだ、お前を呼んだ覚えはないぞ」
俺は魔王として、好きな時にこの魔王城で働く女を呼んで。好きなように遊んだ。
その人魚もそういうおもちゃの一人だった。
「こんな明るいうちから俺の触手が欲しくなったのか」
「いえ、聞いてください、陛下。真面目な話です」
「私には、双子の妹がおりまして、その妹と私は、どんなに離れていても心が通じるのです」
「その妹からたくさんの船に追われて。助けてほしいと」
「その妹さんは、いまどこに?」
「我らの王とともに人間界の海に」
「ん、魔法使いに作らせた新しい門を通ってか?」
「はい、人間界の海は、我らの敵になる者が少なく油断して、多くの者がそちらに移り、その中に妹が」
「よし、分かった。軍師を呼べ、すぐに軍議と、そなたには、妹さんから詳しい状況を聞き我々に教えてくれ」
帝国だってバカじゃない。海での船への襲撃が、魔界の魔物によるものと気づいて、大艦隊を派遣して、
逃げられないように海上封鎖を始めたのだろう。
あの半魚人の王、プライドが高そうだったから、きっとこちらに助けを求めるなんて嫌だと考えて黙っているのだろう。プライドの高い王自身が自らのプライドで討ち死にするのは構わんが、随行している者を巻き込むのは感心できん。俺は魔王だが、冷酷ではないつもりだ。見殺しは性分ではない。
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