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魔女の本性

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豪華な領主の馬車に乗り込み、王都へと向かう。
私だけなら、箒で飛んでいきたいところだが、領主とその娘が同行だ。
問題は一通り片付けたので、特に急ぐ理由もなく、貴族の豪華な旅を楽しまさせてもらった。私の連れは、偽姉弟と猫又三匹で、偽姉弟は馬車に同乗していたが、猫又たちは、馬車を警護するように少し離れて並走していた。並走していたのは猫又だけではなく、佐助たち忍もついて来ていた。
忍たちも王都の王妃に直接、報告したいらしく、また念願の九尾が捕まったので、今後のことを王妃に相談もしたいようで、私たちに付いてきた。ま、私が九尾を逃がすかもしれないという懸念があるのかもしれない。なにしろ、私たちが九尾を詳しく知らないように、忍たちも魔女という存在をよく知らないのだろう。この私が捕らえた獲物をそう簡単に逃がすわけがないのだが、逃がすかもと疑って、ついてきているのかもしれない。
また、私が九尾を金に換えるため東方に向かうと聞いて、ともに故郷に帰りたい忍もいるらしい。
王妃に恩義があるので、その辺りのけじめをつけて何人か私と行動を共にしたいようだ。
佐助は、私を東方まで道案内してくれると約束している。大所帯ではないが、一人気ままに東方へとはいかないだろう。
とりあえず、王妃に会って諸々報告して、東方への旅に必要な情報を集めて、必要な準備を整えて東方に向かう予定だ。
王都に向かう途中、国王が隣国に、戦の終結と賠償のための使者を送ったと聞いた。妹姫様は、まだこちらの国にいるようだ。軍を動かした父のいる祖国に帰るよりも、姉のそばにいる方が安全と判断したらしい。
軍を追い返しただけで丸く収まるほど世の中は単純ではない。時読みほどの先読みはできないが、なんとなく、東方に向かう前に、王都で新たな面倒ごとを押し付けられそうな予感がする。なにしろ、隣国の王をたぶらかした九尾を捕らえたのは、この私だ。その私に、隣国の王をどうにかして欲しいと頼まれるかもしれない。
首を突っ込んだ以上、最後まで面倒を見てもいいだろうとは思う。王族に借りを作る好機だ。悪名高い魔女が、二つの国のいさかいを収めたとなれば、多少は魔女の評判もあがるだろう。善人だった白になるつもりはないが、松明を手に店を囲まれるような事態を避けるために、世のためになることをしてもいいだろう。
そんなことを考えつつ、道中、領主の知り合いの貴族の歓待を受けながら、何事もなく王都に辿り着いた。
だが、王宮に着くと、私は国王陛下に諸々報告した後、王妃と妹姫様に拉致された。
「あ、あの、これは・・・」
「今夜、陛下主催の晩餐があるのは、聞いているわね」
「は、はい、私が敵を追い返した労をねぎらうと。それに出席せよというお話は伺っておりますが」
貴族が何かにつけて、贅沢な晩餐や派手な舞踏会が好きなのは知っている。
今夜も、敵を追い返した私を貴族連中にお披露目するための晩餐だろう。貴族連中にとって、いったい何者が、今回のことを収めたのか気になるだろうし、国王陛下や王妃には、魔女を飼いならしていると貴族に見せびらかしたいのかもしれない。
「あなた、そういう場所に相応しいドレス持っていないでしょ」
王妃がぐいぐい来る。
「ですが、魔女として呼ばれているので、陛下も、そんな堅苦しい格好はしなくていいと」
「だめよ、あなたは、私の懇意の薬師でもあるんだから、あまり無粋な格好をされると私のメンツに関わるわ」
王妃が、少し真顔になる。確かに、此度の功労者で王妃と馴染み深い薬師の私が見すぼらしい格好をしていたら、陛下や王妃の恥になるかのかもしれない。
「でも、私、作法とかあまり知りませんから」
「いいの、いいの、とにかく、見られる格好をしてくれるだけでいいから、ね、私に任せてくれない」
「は、はぁ・・・」
多分、これ以上、ごねても無駄だろうと私は王妃の着せ替え人形になることにした。
とっても直接王妃が何かするわけではない、王妃のお付きのメイドたちが、王妃の指示にしたがつて、手際よく、私に貴族のドレスを着せて、化粧をし、いかにも、貴族ぽっく私を仕上げた。
正直、堅苦しくて、きつい。何度かすべて脱ぎ捨て、逃走しようかと考えたが、それでは、国王陛下と王妃のメンツを本当に潰すだろう。
晩餐は立食で、魔女である私に会わせてくれたのだろう。多くの貴族が集まっていたが、特に私が魔女だと紹介されることはなく、軽いパーティーのように始められた。ま、隣国を追い返した噂の魔女の顔を貴族連中にお披露目できればいいのだろう。もしかしたら、隣国を追い返した私を、悪魔か何かだと疑っている貴族がいるのかもしれない。確かに、いくら魔女とはいえ、大軍をほぼ無傷で追い返すなど人間業とは思えないだろう。
魔女の私が普通の人間に見えれば、それで安心する者もいるのかもしれない。
その場には妹姫様もいて、姉である王妃と談笑していた。なるほど、隣国に攻め込まれたけど、二人の仲は良好であり、現国王の父親の方がおかしいと王妃が貴族連中に見せつけているようだ。
とりあえず、国王陛下と王妃、妹姫様に軽く挨拶して、隅の方でおとなしくしていようと思った。
だが、何人かの貴婦人が私を取り囲んだ。
「あなたが、媚薬売りよね」
「は、はい・・・」
「あなたが、王都を去ったと聞いた時には。もうお薬が手に入らないかもと思って心配していたのですが、まさか、戦を鎮めて凱旋なさるとは」
「ど、どうも・・・」
どうやら、王妃経由で私の薬を御贔屓にしてくださったお客様らしい。実は、他にも大貴族のおっさんが私に話し掛けたそうにしていたが、貴婦人たちに囲まれて、私に近づけずにいた。
「ところで、これまで通り、王妃様にお願いすれば、お薬は手に入るかしら」
「そ、そうよ、そうよ、あれのお陰で、枯れていた主人がビンビンになって・・・」
「あ、あの、これまでどおり、王妃様にお話しいただければ、ご用意いたしますので」
「本当、お願いよ」
「はい」
東方に旅立っても、王妃となら、何とか連絡は取れるだろう。九尾の褒美に領地をもらうということになれば、向こうに定住だろうが、意外に早くこっちに戻ってくるかもしれない。もしかしたら、ここよりも、東方の方が、激しい迫害を受けて、逃げ帰って来ることだってあり得る。
店を燃やすことになるなんて、思ってもみなかったし、つい最近まで九尾なんて妖怪についても知らなかった。
何が起こるか分からない。そして、それは突然起きた。
生演奏が響く、貴族たちが集うその華やかな場所に、一人の忍が王妃の前にドロンと急に現れた。
「このような場所に、失礼します、火急の要件にて、急ぎ、ご報告を」
急に現れた忍は、無礼であることを承知で、一方的に周囲に聞こえるように叫び始めた。
「隣国の王は、国王陛下の使者様の首をお斬りになりました。また、先の戦の敗戦の責任を取らせるため、多数の将軍の首を明日の朝、刎ね、軍を再編して、再び進軍すると」
「それはまことか」
国王陛下が、つい声を荒げる。
「はい、使者様の首が刎ねられるのを見て、隣国の王が、そう宣言するのを、しかと見ました」
隣国から、ここまで死に物狂いで走って来たのだろう、その忍は、そこまで言うとバタンと倒れた。
私は駆け寄り、ハチミツを配合した精力剤を素早く飲ませた。
本来は、股間をビンビンにさせる媚薬と合わせて、ハッスルさせるための精力剤だが、疲れているときの滋養強壮にも使える。
その甘いハチミツ味の薬を飲み、忍の顔色も少しは良くなる。
さてと・・、私は、その精力剤をビンごと忍に渡してから、国王陛下の前にひざまづいた。
「どうも、私の仕事は、まだ終わっていなかったようです」
私も、忍と同じように周りに聞こえるように大声で言った。
「失礼ながら、陛下、たった今から、やり残した仕事をしてきてもいいでしょうか。それと、王妃様、あなたのお父上を害する結果になっても、文句はありませんよね」
私は、国王と王妃を交互に見た。
「うむ、お主なら、なんとかできるというのか」
「はい、魔女の名に賭けて。その代わり、陛下、魔女らしいやり方となりますので、王妃様、それと妹姫様も、お父上を害することなりますが、よろしいですか」
「仕方ありません、我が父が、ここまでおろかだとは思いませんでした。あなたの好きなように。お願いしますわ」
国王陛下と妹姫様も黙って私に頷いていた。了承は取り付けた、なら、さっさと片付けるだけだ。
「では」
私は派手に箒を呼び出して、その場から逃げ出すように晩餐会場を抜け出した。
そんな私の箒に、佐助と猫又のクロが慌てて飛び乗る。
「あら、よく、追いついたわね」
どこからともなく現れて、私の箒に飛び乗った佐助とクロを見る。
「ところで、さっきの忍者、なんかわざとらしかったんだけど」
「ああ、あれっすか。たぶん演技じゃないですか.王妃に頼まれて、もし火急の用があるなら、派手に現れて、大声で、みなに聞こえるように話してくれと。ま、そうした方が、話が通しやすいですからね」
「なるほど、やっぱり、演技か」
それに乗って、私も、王妃たちに隣国の王に手を出してもいいという言質を得た。貴族たちの前でああいえば、王妃たちも、自分たちの父を庇えないだろうと。
私は、そのまま一気に単騎で乗り込むつもりだったが、後ろを見ると、義姉の箒にしがみついて、弟くんと残りの猫又が私に付いて来ていた。いきなり飛び出していく師匠のあとを、私のように貴族っぽい格好をした偽姉弟が、必死についてくる。
「あらあら、ついてこなくてもいいのに」
私はスピードを緩めて、弟子たちに声をかける。
偽姉妹の他に、猫又二匹が偽姉の箒に乗っていた。
「無理してついて来なくて、良かったのに。私一人だけで十分」
「いえ、師匠だけで、楽しそうなことしないでください」
「師匠の弟子として、ついて行きますから、絶対」
「あらま、健気な弟子を持ったものね」
付いてきたいというのなら、止める理由はない。
「でも、好きにやっていいというお墨付きをもらったから、エグイものを見るかもよ」
この前は、あまり死者を出さないように言われていたが、その甘さが、敵になめられ、父親に再侵攻を思いつかせたと王妃は考えたのだろう。もし、生かさずに、大打撃を与えて撤退させていれば、いかなる愚王でも再侵攻は考えなかったかもしれない。そう思ったからこそ、貴族たちの前で魔女の好きにさせると決断したのだろう。
私としても、もう二度と隣国には攻め込みたくないと思い知らせるだけの過激な打撃が必要だと思う。
それに、魔女がせっかく生かして帰した者たちの首を刎ねるなど見逃せるものではない。
王妃の父親には、二度と愚かなことを考えないように、魔女の恐怖を植え付けてやろう。
箒で飛びながら、私は魔女らしい笑みを浮かべていた。
媚薬以外にも、相手にわからせる方法を私は知っている。生きたまま肉体を腐らせる方法も、死なない程度に苦痛だけを与える方法も、色々だ。ついふふふと笑ってしまう。久しぶりに魔女の血がたぎる。
偽姉弟は、私が良からぬことを企んでいることを察したのか少し距離を開けて飛んだ。










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