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見世物にしよう

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晩餐は、妹姫様を迎えての豪勢なものだった。
急な来訪だったのに、完全に読んでいたのか王族をもてなすのに恥ずかしくない料理が並んでいた。私も同席させてもらってその美食を楽しませてもらった。妹姫様警護のため部屋の隅で四人の騎士が仏頂面で立っていたが、そのうちの一人が私の媚薬の餌食になると考えると食事の邪魔にはならない。
食事の会話は、主に、時読みの武勇伝だった。先が読めたとはいえ、どうやってこの国を勝利に導いたか、姫様は興味津々だった。どこから攻めて来ると分かっていても、それだけで勝てるほど、戦は簡単ではない。
時読みは、惜しげもなく、いつも通りの口調で自分の武勇伝を語った。得意の土魔法で、たくさんの落とし穴を作り、時には、土壁で街道を塞いだ。時読みも私も、人殺しが好きではない。私は水源に投げ込めば、多くの人々を殺せる毒を知っているし、時読みの土魔法も落とし穴ではなく、土砂崩れや川の流れを変えるような地形を変化させる大魔法にすれば多くの敵兵を一気に殺せただろう。だが、多くの人々を殺せる術を持っているからと言って、いくら魔女でも殺戮をしたがる悪癖はない。
「なるほど、我が国との道がふさがったから、攻めにくくなったと同時に、流通も途絶えがちになったのですね。姉様が嫁いだのに両国の貿易が滞るわけです」
妹姫様はうんうんと納得するように頷いた。
「実は、ここに辿り着くまで、随分と遠回りしたのですよ」
「それは、失礼を」
時読みが素直に謝る。
「できれば、時読み様に道を元に戻していただけると助かるのですが」
「道をですか?」
「そうです。両国の友好と発展のため、いかがでしょう」
「でしたら、領主様に会っていだけますか。私の一存では決めかねます」
「ああ、確かに、それが筋ですね」
姉は国盗りに興味があり、妹は男を優先したが、政治的な視野がないということではないらしい。
確かに隣国の侵攻を防いだ防壁を取り除くならば、この地の領主に話を通すのは当然だ。
「本当は、できれば内密に姉の子供に会って、すぐに国に帰るつもりだったけど、仕方ないわね。で、その領主様は、我が国が攻め込んだこと、まだ根に持つような御仁かしら?」
「いいえ、私のような魔女の助言を聞き入れてくださる聡明な方です」
「なるほど、だから、姉様に踊らされただけの我が国は負けたのでしょうね」
「すぐ、会われますか?」
「王都への用もあるから、早い方がいいわ」
「分かりました」
時読みは、槍使いのメイドを呼び、彼女に領主の館へ姫様が向かうという伝言を託した。
「我が父なら、都合がよければ、明日にでも会えるでしょう」
妹姫様は槍使いのメイドに尋ねた。
「なら、できれば明日、お会いしたいわ。ここから領主の館は遠い?」
「いえ、歩いても半日もかかりません」
「では、明日、お会いできることを、楽しみにしているとお伝え下さい」
そして、槍使いのメイドが陽が暮れているのにも関わらず父親に知らせに出て行った。盗賊は最近狩ったばかりだし、土地勘のある彼女なら夜遅くとも大丈夫なのだろう。時読みが止めないのなら、問題はないのだろう。
だが、一応、時読みは飼い犬になった首輪メイドを護衛につけて、姫様たちは時読みの屋敷で、一晩、ゆっくり休むことになったが、私が晩餐の後、少し薬作りの仕事をしていると、私の部屋を、あの軽業師の少女がやってきた。
「夜分に、すみません」
「いいわよ、うちの忍がひどいことしてごめんね」
「そ、それで、あの三尾を生かす代わりに提案したいことがありまして」
「提案?」
「はい、ただ生かしておくだけでは九尾は出てこないかと。そこで、三尾たちを見世物として連れまわすのはどうでしょうか?」
「見世物として、大衆の目にさらすということ?」
「そうです。実は、私の姉の見立てですが、この時期に王妃の妹さんをこの国に呼んだのは、九尾に妹さんを襲わせるつもりではないかと。姫様を殺し、九尾が化けて入れ替わろうとするのではないかと。そうなれば、九尾は二つの国の共通の敵となり、それを理由にした姉たち忍集団に敵討ちをさせれば、王妃様の株が上がり 王妃様にとっての実家、義実家である両国への発言力が増すことを狙っているのではないかと。ですが、何も関係ない姫様を巻き込むのは忍びないと思い、九尾の狙いを姫様からそらすために、王都に向かう姫様の後を追うように三尾を見世物として連れて歩けば、九尾の狙いをあの姫様からそらせられるのではないかと」
「つまり、私に王都に向かう姫様の後を追わせ、代わりに九尾に狙われろと」
「はい。ここで大人しく三尾を生かしておくだけよりも、同族を見世物にして屈辱を味合わせれば、その方が九尾を確実に誘い出せるかと思います」
「私より、あなたの方が九尾に詳しいのよね。それで九尾を誘い出せる自信があるのなら、いいわ、のってあげる。わたしも、ここでじっとしているのに、そろそろ飽きていたところだったの」
「あ、あの、それと、すみません、げ、解毒薬を・・・」
「解毒薬?」
「その、昼間のあれの毒が消えなくて・・・」
軽業師は急に頬を染めて、もぞもぞと身体をくねらせた。
「毒って、昼間の媚薬のこと?」
「そ、そうです、あれの解毒薬を・・・」
「変ね。匂いを嗅いだだけだから、もう効果は切れてるはずだけど?」
「・・・」
私はじっと彼女を見つめて考えた。
「もしかして、昼間、あれとやった感覚が気持ち良すぎて、夜になってもうずいている?」
図星だったらしくて、私は大きくため息をついた。
「もう媚薬の効果はないはず、よほど、お互いの肉体的な相性が良かったのね」
「相性?」
「私にもよくわからなんだけど、好きとか嫌いとか言う感情ではなく、男女には肉体的な相性というのがあるみたい。そういうのは、専門家の商売姉さんたちに聞くのがいいわ。ちょうど、私が連れて来た娼婦がここで何人かお世話になってるから、彼女たちに聞くのね」
私が連れて来た娼婦たちは、この屋敷に出入りしている商人に気に入られて、この屋敷を出て行った者もいたが、まだここに残っている者もいた。時読みのメイドたちはみな親切だったし、あの首輪メイドもすっかり心を入れ替えて働いているようで、娼婦だからと言って見下す男もいないので、私の媚薬の愛好家でもある娼婦たちの何人かは居心地良さそうに屋敷に残ってた。
私は彼女を、その手のプロに会わせることにした。大体の事情を聞くと、彼女たちは私を部屋から追い出して、軽業師と話し込み、男女のイロハを色々と教え込んだようだ。たぶん、佐助を色仕掛けで骨抜きにしろとささやいていると思う。
私は娼婦たちの部屋を追い出されると、時読みの部屋に向かった。
私がノックして部屋に入ると、ベットの上には半裸状態で、時読みに可愛がられたらしいメイドがぐったりと横たわっていた。時読みは、私が何か言う前に自分で言った。
「あなたたちと狐たちを王都まで運ぶ、馬車の手配でしょ、わかってる。もう用意してあるから、好きに使っていいわよ」
「どこまで見えてるの?」
「そんな怖い顔しなくても、大丈夫、私は、人生の勝ち組でいたいから、時読みになったんだから。あなたは死なない、死なせない」
「あら、あなた、私のことがそんなに好きだったの?」
「知らなかった? いずれは、あなたも、この子みたいにかわいがってあげるから」
時読みはベットで休んでいたメイドのお尻をぱちんと叩いた。
「いつまで、私のベットを独占してるつもり。休むなら、自分の部屋で休みなさい」
「は、はい、失礼しました」
時読みのメイドははだけたメイド服もそのままに、慌てて部屋を出て行った。
「ちょっと、扱いが雑じゃない?」
「いいのよ、雑な扱いを喜ぶ子もいるんだから、あんたって、媚薬以外は、てんでダメね」
「あら、私は、あまり人の道を外れたくないだけよ」
そう言って私たちは、お互いに笑みをこぼしていた。
「で、馬車のことだけ?」
「いえ、あなたのメイドを借りたくて、噂の九尾を相手にするのに、ね」
「首輪と、槍使いの二人ね」
「ええ、槍使いは、うちの弟子が懐いているようだし、首輪のメイドも、戦闘向きだと思って」
「いいわよ、その代わり娼婦たちとあの姉妹はここに置いていくんでしょ?」
「ええ、連れて行って、死なれたら、目覚めが悪いわ」
王都を逃げ出しただけとは状況は違う。化けキツネたちをエサにして、敵の親玉を誘い出すのだ。
負けない自信はあるが、一国を傾けさせたというバケモノ相手である。
「どう? 今生の別れになるかもしれないから、今夜、この私の部屋に泊って行く?」
「あんた、今さっき、メイドを可愛がったばかりでしょ」
「平気よ、それと、あなたの媚薬の効果をここで試してみる気はない?」
「いいえ、遠慮するわ。じゃ、お休み」
要件を済ませた私は、ロリビッチの寝室からさっさと退場した。

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