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魔女の実力
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白の魔女は嫌いではなかった。
彼女の生き方、考え方を否定はしない。
私だって、貧乏人から大金を巻き上げるようなことはしなかったし、店を囲んだ連中も憎んではいない。
ただ、白の魔女ほどお人よしにはなれないだけだ。彼女は妬まれ、火あぶりにされた。
魔女の秘術を尽くして弱い人を助けていただけなのに、奇跡を起こすのは神だけだと、自称聖職者たちが魔女狩りを扇動したのだ。
彼女の弟子なら、彼女に憧れる前に敵討ちが先だろうに、今も、その聖職者が所属していた宗教団体は存在する。
神を信じろ、神が救ってくださる。という常套句を掲げて神の名を使って昔と変わらず人々からお布施を集める連中が生き残っている。
ところが、この目の前のカマ野郎は恩師の敵討ちよりも、師である白の魔女を崇拝するあまり、他人の皮を被って女のふりをし、女の髪を集めて武器にしている。あのお人よしの白の魔女が生きていたら、さぞや嘆くことだろう。
「よく見てなさい、本気の魔女の戦い方を」
私は弟子である偽姉弟にそう言って、魔女の戦い方を教えるために一歩前に出た。
「人間の髪はとても強靭で、それを武器にするのは悪くない考えね。でも、その髪を自在に操るため、意識を手中して魔力を通し続けなければならない。魔力が通ってなければ、髪が生き物のように動くわけない。だから、まずはその集中力を途切れさせる」
「は、クシュン、クシュン・・・」
派手女が急にくしゃみを始めた。
「知ってる? とても小さなスギの花粉を嗅ぐと人間って、くしゃみが止まらなくなるのよ」
私が、こっそり振りまいた花粉のせいで、派手女が涙を流しながらくしゃみを始めていた。
「どう? 涙が止まらないでしょ。私がいろんなスギや花から集めた花粉よ」
激しくくしゃみをしていると、べろりと派手女の顔の皮が捲れた。
「あ、ごめんね、肌を若く保つ薬があるんだけど、若く保てるのなら、その逆に老けさせる薬もあるのよ。本物の皮膚のようにみずみずしさを保っていたようだけど、悪いけど、その肌、もうカサカサよ」
派手女は慌てて捲れた顔を押さえていたが。顔だけでなく、腕や指も、しわだらけになり、捲れだしていた。
「あらあら、素顔は、割といい男じゃない。その顔で、魔女の秘術で人々を救って賢者様とか言われてた方がいいんじゃない」
必死に皮膚がくずれないように抑えているが、壊死の進行する肌はボロボロと剥がれて、もはや男であることを隠しきれなくなっていた。我が弟子の男娘が、ひどくぎょっとしていた。私は単純にその光景に驚いただけだと思ったが、実は、彼はその派手女に口でイかされたことを思い出して、男にしゃぶられたんだという事実に絶望していたのだ。後で分かったことだが、娼婦として金を稼ぐとき派手女は幻惑の魔法で本物の女を抱いていると客を騙していた。男娘の場合は魔法は使わず本物の口でしたようだが、そんなこと何の慰めにもならない。つまり、彼はまだ本物の女性に気持ちいいことをさせてもらっていなかったというわけだ。
そして、くしゃみで集中力が乱れ髪を操れなくなると、メイドは髪を振りほどいて自由になり、キッと睨んで槍で改めて突こうとした。
「クッ、貴様」
鋭い槍を躱そうとして、彼は背後に飛んだ。その肉体は完全に男のそれであり、わずかに女性の肌が張り付いているのが、醜悪だった。メイドが彼を追い詰めるように槍を振る。
「死ね!」
次の瞬間、カッと光った。
まぶしい。
思わず誰もが目を細めたが、次に上がったのは男の驚嘆する悲鳴だった。
「うわっ」
ズンと重いものが落ちる音がして私は目を開けた。
「時読み・・・」
昔と全く変わらない、まるで少女のような時読みが、メイドのそばに立っていた。
「はい、どうも、お久しぶり」
「あ、あいつは?」
「そこよ」
少女の指差した先には穴ができていた。
落とし穴だ。
その底には、穴を隠してあった板と土を頭からかぶった魔女のなりそこないの男がいた。
「なるほど、目つぶしの魔法を仕掛けて、こう逃げるのが分かってたから、事前に落とし穴を掘ってたのね。相変わらず、えぐい手を使うわね」
私があきれていると、穴の底の男も、諦めたような顔をしていた。
「ね、これ、私がもらっていい?」
時読みが穴の男を指差す。
「ええ、いいわよ、あなたが捕まえたようなものだし・・・、こいつにどんな未来を見たの?」
「それは、内緒」
時読みは楽しそうに笑っていた。
魔女の正体を隠し、豪邸に住んでいるからといって、私以上に常識的な魔女はいない。
魔女の秘術で若々しく清楚な少女のなりをしているが、こいつは男好きなビッチである。
有名になった王都の私の媚薬をもとめて、手紙を送って来る間柄だった。
彼女の生き方、考え方を否定はしない。
私だって、貧乏人から大金を巻き上げるようなことはしなかったし、店を囲んだ連中も憎んではいない。
ただ、白の魔女ほどお人よしにはなれないだけだ。彼女は妬まれ、火あぶりにされた。
魔女の秘術を尽くして弱い人を助けていただけなのに、奇跡を起こすのは神だけだと、自称聖職者たちが魔女狩りを扇動したのだ。
彼女の弟子なら、彼女に憧れる前に敵討ちが先だろうに、今も、その聖職者が所属していた宗教団体は存在する。
神を信じろ、神が救ってくださる。という常套句を掲げて神の名を使って昔と変わらず人々からお布施を集める連中が生き残っている。
ところが、この目の前のカマ野郎は恩師の敵討ちよりも、師である白の魔女を崇拝するあまり、他人の皮を被って女のふりをし、女の髪を集めて武器にしている。あのお人よしの白の魔女が生きていたら、さぞや嘆くことだろう。
「よく見てなさい、本気の魔女の戦い方を」
私は弟子である偽姉弟にそう言って、魔女の戦い方を教えるために一歩前に出た。
「人間の髪はとても強靭で、それを武器にするのは悪くない考えね。でも、その髪を自在に操るため、意識を手中して魔力を通し続けなければならない。魔力が通ってなければ、髪が生き物のように動くわけない。だから、まずはその集中力を途切れさせる」
「は、クシュン、クシュン・・・」
派手女が急にくしゃみを始めた。
「知ってる? とても小さなスギの花粉を嗅ぐと人間って、くしゃみが止まらなくなるのよ」
私が、こっそり振りまいた花粉のせいで、派手女が涙を流しながらくしゃみを始めていた。
「どう? 涙が止まらないでしょ。私がいろんなスギや花から集めた花粉よ」
激しくくしゃみをしていると、べろりと派手女の顔の皮が捲れた。
「あ、ごめんね、肌を若く保つ薬があるんだけど、若く保てるのなら、その逆に老けさせる薬もあるのよ。本物の皮膚のようにみずみずしさを保っていたようだけど、悪いけど、その肌、もうカサカサよ」
派手女は慌てて捲れた顔を押さえていたが。顔だけでなく、腕や指も、しわだらけになり、捲れだしていた。
「あらあら、素顔は、割といい男じゃない。その顔で、魔女の秘術で人々を救って賢者様とか言われてた方がいいんじゃない」
必死に皮膚がくずれないように抑えているが、壊死の進行する肌はボロボロと剥がれて、もはや男であることを隠しきれなくなっていた。我が弟子の男娘が、ひどくぎょっとしていた。私は単純にその光景に驚いただけだと思ったが、実は、彼はその派手女に口でイかされたことを思い出して、男にしゃぶられたんだという事実に絶望していたのだ。後で分かったことだが、娼婦として金を稼ぐとき派手女は幻惑の魔法で本物の女を抱いていると客を騙していた。男娘の場合は魔法は使わず本物の口でしたようだが、そんなこと何の慰めにもならない。つまり、彼はまだ本物の女性に気持ちいいことをさせてもらっていなかったというわけだ。
そして、くしゃみで集中力が乱れ髪を操れなくなると、メイドは髪を振りほどいて自由になり、キッと睨んで槍で改めて突こうとした。
「クッ、貴様」
鋭い槍を躱そうとして、彼は背後に飛んだ。その肉体は完全に男のそれであり、わずかに女性の肌が張り付いているのが、醜悪だった。メイドが彼を追い詰めるように槍を振る。
「死ね!」
次の瞬間、カッと光った。
まぶしい。
思わず誰もが目を細めたが、次に上がったのは男の驚嘆する悲鳴だった。
「うわっ」
ズンと重いものが落ちる音がして私は目を開けた。
「時読み・・・」
昔と全く変わらない、まるで少女のような時読みが、メイドのそばに立っていた。
「はい、どうも、お久しぶり」
「あ、あいつは?」
「そこよ」
少女の指差した先には穴ができていた。
落とし穴だ。
その底には、穴を隠してあった板と土を頭からかぶった魔女のなりそこないの男がいた。
「なるほど、目つぶしの魔法を仕掛けて、こう逃げるのが分かってたから、事前に落とし穴を掘ってたのね。相変わらず、えぐい手を使うわね」
私があきれていると、穴の底の男も、諦めたような顔をしていた。
「ね、これ、私がもらっていい?」
時読みが穴の男を指差す。
「ええ、いいわよ、あなたが捕まえたようなものだし・・・、こいつにどんな未来を見たの?」
「それは、内緒」
時読みは楽しそうに笑っていた。
魔女の正体を隠し、豪邸に住んでいるからといって、私以上に常識的な魔女はいない。
魔女の秘術で若々しく清楚な少女のなりをしているが、こいつは男好きなビッチである。
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