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媚薬売りミーム

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媚薬売りだと自分から名乗ったことはない。だが、「感度倍化」の媚薬が売れて、とても好評だったので、王都で媚薬売りと呼ばれるようになってしまった。
今夜も、お得意様の王妃様がお忍びで、うちの店を訪れていた。客層があれなので、私の店は売春街の外れにある。
もちろん、王妃とばれないように地味な馬車を店に乗り付け、地味なドレスに、お付きは女官一人だけ、顔は真っ黒な扇で隠してのご来店だ。
「あなたのお薬のおかげで、ようやく陛下の子をみごもることができました。ありがとう」
と、ご機嫌そうに女店主の私に話し掛ける。
「では、薬膳茶と媚薬の相性は良かったと」
王妃には、夜の生活を盛り上げるための性欲を増進する媚薬だけではなく、王と王妃両方の体調を整える薬膳茶を処方してお渡ししていた。
妊娠というものは、ただやればできるという簡単なものではない。お互いの体調が良くなければ、できるものもできない。
「もし、妊娠で気分が悪いときには、この薬をお飲みください」
薬の小瓶を王妃に差し出す。それは妊婦の胎調を整える薬だった。媚薬と薬膳茶を用意して、次はこれが必要になるだろうと事前に調合しておいたものだ。
「ありがとう、あなたにはどれだけ感謝してもしたりないわね。ね、前に話してた、私専属の王宮薬師になる件、本当に引き受けてくれない?」
「申し訳ありません、私の薬を必要としているお客様がここには多いものですから」
「そうね、聞いてるわよ。あなたがここで店を開いてから、都の病人が減ったって。娼婦の病気持ちもいなくなって、この辺りの顔役も、あなたには頭が上がらないそうね」
「よくご存じですね、王妃様?」
「ええ、陛下ほど忙しくはありませんが、これでもこの国の王妃ですから。都の噂話が色々と集まってきますのよ」
王妃は扇で口元を隠しながら、妖しく笑った。そうなのだ、もともと王妃は、私の薬師としての評判を自分で聞きつけて、わざわざ王宮から、この売春街の近くまでお忍びで来た。その時も、お供は女官ひとりだった。あれから、王妃はお得意様になった。
「恐れ入ります」
「では、今日は、このお薬をいただいて失礼しましょうか」
王妃は、連れて来た侍従の女官に目で合図した。いくらお忍びで、身分を隠していても、代金の支払いは自分ではしない。
女官は、金貨の詰まった革袋をずいと差し出した。受け取ってみると、かなり重い。
「おつりはいらないわ」
「こんなにたくさん・・・」
「いいのよ、もらっておいて。あなた、お金のない人からお金を取らないんでしょ。その分と思って」
そう言って、王妃は店内の薬瓶たちを物珍しそうに眺めていた。
「わかりました、ありがたく頂戴しておきます」
そう、王宮のある華やかな都とはいえ、誰もが裕福ではない。だから、つい、タダ同然で薬を渡すことも多かった。
というか、貧しい者ほど病気にかかりやすく、そういう人からお金は取りずらかったのだ。
だから、貴族や豪商など、お金を持っている人からは、しっかりいただいて、お店は苦労していなかった。
「そうだ、今度来るときに、私にあった化粧品を用意してくれないかしら。あなたの年齢不詳の美しさを分けていただけるような素敵な化粧品を」
「年齢不詳だなんて」
「あら、あなたが不老不死のバケモノとか言う噂も聞いてますわよ」
「噂ですよ、陛下。とにかく、化粧品ですね」
「ええ、お願いできる?」
「はい、お任せ下さい、十歳は若く見える魔法のような品を揃えておきます」
若返りの薬の開発は、不老不死と同じくらい昔から、薬師の研究対象だ。いや、若返りや不老不死を求めて薬師が生まれたと言ってもいい。若さを保つため、自分でも色々試していた。その結果、王妃が言うように年齢不詳と言われる程度には若さを保っている。
「妊娠中のお肌の管理も考えた化粧品で、よろしいでしょうか」
「そんな都合のいい化粧品を用意できるの?」
「はい、来月の今頃でよろしいでしょうか」
王妃にとっては、この店に来るのは気晴らしも兼ねているらしく、毎月のように来店していただいている。
「お願い」
そうして、王妃が出て行くと、入れ違いに女の子が店に飛び込んできた。
「先生! 先生!! 大変だ。店で冒険者が暴れてる!!」
「ないだい、またかい」
その女の子は売春宿の下働きのカカという少女で、まだ幼いゆえ、客は取っておらず、よく娼婦たちに頼まれてうちにきていた。娼婦のパシリをするとお小遣いやおやつがもらえるらしく、彼女は、頻繁にうちに出入りしている。娼婦たちも、うちのお得意様だ。
「また、頼むよ、先生」
「わかった、すぐ行くよ」
必要になりそうな薬を適当に鞄に詰めて、カカに案内されて店を出る。
「あんた、客が出て行くまで、待ってたね?」
王妃と入れ違いなのがあまりにもタイミングが良すぎてそう尋ねた。
「だって、商売の邪魔しちゃ、悪いだろ?」
「急ぎのときは、構わないさ、急用に目くじらを立てるようなお客様でもないし」
貴族には、身分違いで威張る人は多いが、王妃はそういう人ではない。王妃の接客より、トラブルを優先しても気分を害さないだろう。
とにかく、店を閉めて、カカが世話になっている娼館に急いだ。

「くそ、俺のナニを見て笑ったくせに、そんな失礼な女に金なんか払えるかよ!!」
大柄ないかにも冒険者風の大男が、大声を張り上げていた。しかも、バカでかい大剣を抜いていた。怯えた娼婦たちが、その大男を遠巻きに見ている。
「なんだいなんだい、金がなくて、難癖つけてタダにしようとしてるケチ野郎が、ギャーギャーうるさいね」
わざと相手を挑発するように、娼婦たちを掻き分けて、大男のまえに出る。
「な、なんだ、てめぇは!」
「ただの薬売りだよ、お得意様で騒がれるとこっちの商売にも響くんでね、大人しくしてもらうよ」
そう言って、サッと小瓶の粉を大男に振りかける。
「クッ、なにしやがる、くっ、ぅぅ・・・」
効果はすぐに出て、特製睡眠薬を鼻から吸い込み、男はバタンと大の字に倒れた。
そして、次に冒険者が目覚めたとき、大男は自分が全裸で椅子に縛られているのに気づいて慌てた。
「な、なんだ、こりゃ」
「あ、起きたかい。どうだい、よく効くだろ、どんなモンスターでも一瞬で眠らせる睡眠薬さ、この辺りの冒険者なら、うちの商品の効果はよく知ってるはずだけど、あんた見たことない顔だね。地方で顔が売れたんで、王都で稼ごうと出てきたお上りさんかい?」
そう、私の薬は、モンスター退治にも役に立つから、王都の冒険者で、うちの近くの娼館で騒ぎを起こすバカはいない。
「な、おい、ほどけ、畜生」
完全に縛られているのに気付いた男は暴れるが、こちらは冷静に指摘した。
「こんな騒ぎを起こしておいて、すぐに開放してもらえるとおもったの? 甘いわね。しかし、ほんとうに、確かに笑っちゃうくらいの租チンね」
全裸の男の股間を見て、笑う。
「くっ・・・」
大男は思わず股間を隠すように太ももを閉じた。
「さて、ちゃんと、お仕置きしないと」
「な、なに!」
男の鼻をつまんで、クイと顔を上に向けさせる。鼻を押さえられているので慌てて口で息をする。そうして開けた口の中に、さきほどの睡眠薬とは別の小瓶の中身をその口の中に流し込む。
「お、おい、何を・・・ごほ、ごほ・・・」
全部飲み込むまで鼻をつまみ続ける。
「よし、飲んだわね」
男が、それをゴクンと喉の奥に飲み込んだのを確認して、鼻をつまむのをやめる。
「お、おい、なにを飲ませた、ど、毒か・・・」
「心配しなくても、命は取らないわよ。殺したら、死体の処理が面倒でしょ。ただのお仕置きよ、ふふふ。本当はちょっと薄めて使うんだけど、原液で飲んでもらったわ。だんだんお腹の中が熱くなって、下半身がビンビンになって来るでしょ」
「な、なに・・・、お、おい、なんだ、これ」
男の股間が勃起していた。全裸で縛られるという屈辱的な状況なのに、股間は別の反応をしていた。
「感度、ビンビンでしょ。身体に食い込んでる縄が気持ちいいでしょ。しばらく立たなくなるくらい、勃起させてあげる」
わざと、男の耳元で息がかかるように囁いてやった。
「お、おい、やめろ、この縄を解け、畜生」
男は狼狽えていたが、異常に感覚が敏感になり、勃起が止まらない。
「ふぅ~、ふふふ、いいお仕置きでしょ。感度百倍、千倍、いや、原液だから万倍かしらね。吐息がかかるだけでビクビクしちゃうでしょ」
男の股間は射精限界に到達しているらしく、それを必死で押さえようと我慢してるのか、男はブルブル震えていた。
「騒ぎを起こした罰。この薬の効果は朝まで続くから」
そして、そこにモンスターの大きな羽を持って来たカカが現れた。
「あ、あの、これ、持って来ましたけど」
羽というやつは、プレイで使えるので、この娼館にも常備されていた。
「じゃ、それで、このおっさんの肌をなでてあげて」
少女は、全裸で縛られながら勃起している冒険者の姿を状況を察した。
「あ、コチョコチョとくすぐれば、いいんですね」
少女は嬉々として、それを実行に移した。一撫で、ビク、ドビュッと男の肉棒の先端から白いものが飛び出す。
「あ、出た出た」
少女が笑ってそれを見ている。
「ふふふ、とうぶん、立たなように、絞り出してあげて」
「はい、わかりました」
「お、おい、やめろ」
後は任せて、私は、その部屋を出た。
すると、娼館の女主人のおばさんが、私に金貨を数枚握らせてきた。
「お疲れ、毎度、助かるよ」
「いえいえ、お互い様ということで、冒険者ギルドには、私から話しておこうか」
「ああ、何から何まで済まないね。任せるよ」
冒険者はその職業柄荒くれ者が多いので、ギルドという管理する組織がこの王都には存在する。
もちろん、冒険者の評判を落とすような者は、ギルドから除名されたり粛清されたりする。
騒ぎを起こした冒険者に制裁を加えたという顛末をギルドに伝えて、あとはギルドに任せよう。
地方から出てきたお上りさんのようだから、王都のギルドには、これでいられなくなるかもしれないが、自業自得というやつだ。
薬売りの私には関係ない。お忍びの王妃に薬を売り、娼婦たちをお得意様に持ち、娼館で暴れる客を取り押さえる、これが私の日常だった。


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