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「凛見てー、俺の彼女」

 HRが終わりリュックに荷物を放り込んでいれば、スマホを突き出し、そう言い放った光希に目を白黒とさせた。

「は……」
「愛梨ちゃん。可愛いでしょ」

 戸惑いながら覗いたスマホには、光希と女子が親しげな様子で写った写真が表示されていた。

「あぁ、うん。おめでとう」
「ありがとー!」
「いつできたの」
「今日の昼!」

 今朝言っていた用事とはこのことだったのかと合点がいく。

「ってことで、しばらく昼休みとか放課後とか彼女と過ごす!ごめん!」
「全然いいけど」

 顔の前で手を合わせる光希に、戸惑いながらも頷く。

 そんな様子は微塵も感じなかったが、いつの間に仲良くなったのだろうか。四六時中一緒にいるわけではなかったが、昼休みも放課後もほぼ毎日一緒にいたため、そんな時間はなかったように感じる。

 その中で作ったというのだから、器用なものだなと感心した。

「あ、そうだ。凛からも塚本君にお礼伝えてくれない?」
「塚本に?」
「うん」
「それどういう――」
「あ!愛梨ちゃんHR終わったっぽい。またねー凛!」

 浮かれているのか、俺の様子など気にも留めず、軽い足取りで教室を出ていく光希に手を振り、頭の上ではてなを浮かべた。

 塚本にお礼?何のために?

 首を傾げながら、支度を終え、はたと動きを止めた。

 1人だ。
 今日もいつものように、当然光希と一緒に帰ると思っていたが、予期せず1人になってしまった。というか、今後も1人だ。2人の時間を増やしてほしいとは言われたけれど、3人から徐々に2人に、と身体を慣らしていこうと考えていた手前、突然2人の時間が急増するのは想定外だ。

 いや、その案については、もともと塚本は乗り気ではなかったし、これ以上2人が仲良くなることもないし良いのかもしれないけれど。あまりにも急で心の準備ができていない。
 今から塚本に連絡をしたほうがいいのだろうか。しかし、昼に放課後のことは話していなかったから、すでに帰っている気もする。だとしたら明日から……?

 テスト対策のために持ち帰るテキストで重量が増したリュックを膝の上に抱え、考え込んだ。

 伝えるとして、なんと伝えればいいのだろうか。今日の昼の会話の後に毎日時間作れますよ、と伝えるのは嫉妬していた事実を肯定しているようで、恥ずかしい。実際、そうではあるけれど。

「凛、帰らないの?」

 頭上から聞こえた声に、肩を揺らした。顔を上げれば、こちらを不思議そうに見つめる塚本がいた。
 あれ、今日一緒に帰る約束してたっけ?そう思いながら、「帰るけど」と返せば、「じゃあ、帰ろ」と短く言う塚本に返事を返しした。リュックを背負い、教室を出る。

 HRが終わってから、そこそこ時間が経っていたような気がするが、まだ帰っていなかったのか。それとも、HRが長引いていたのだろうか。伝えるなら、今がチャンスだよな……。

 横目で盗み見ていると、目が合った。首を傾げた塚本の眉がかすかに上がる。

「……光希、彼女できたって」
「うん、さっき聞いた」
「塚本にお礼伝えてって言われた」
「岡田君、案外律儀だね。メールでもお礼言われた」

 機嫌の良さそうな塚本に目を泳がせる。

 何て伝えればいいのだろうか。2人の時間を増やせそう?明日からは2人で過ごそう?

 どれもしっくりとこず、履き替えた中履きを片手に頭を悩ませる。ふと、横から顔を覗かれ、ドキリと心臓が跳ねた。

「どうかした?」
「……何でもない」

 誤魔化すようにロッカーに靴を押し込む。

「そういえば、何で光希からお礼言われてんの」
「あぁ、紹介したの俺だから」
「は、」
「岡田君の彼女、俺のクラスの子なんだよね」

 何でもない様子で校舎を出る塚本をまじまじと見つめる。

 仲介するようなタイプだっただろうか。どちらかといえば、人間関係に対して希薄な方で、紹介するよりされる側だと思っていた。実際、俺の友達を紹介することはあっても、塚本の友達を紹介されたことはない。……いや、これももう数年前の話だから、変わっていてもおかしくないけれど。

「何?」
「いや、お前がそういうことするの珍しいなって」
「だって、凛がずっと岡田君といるんだもん。岡田君に彼女でもできれば2人の時間も増えると思って」
「え、」
「そうじゃなきゃやらないよ」

 思いもよらない理由に間の抜けた声が漏れる。

「付き合ってからも岡田君のこと優先してるし」

 塚本が不服そうに口を尖らせた。そして、一つの答えにたどり着く。

「もしかして、根回しって……」

 満足気な笑顔を向けられる。

 あぁ、そういうことか。塚本は俺との時間を増やすために、光希は彼女をつくるために2人で会っていたのか。1人で勝手に勘違いをして、うだうだと考えこんでいた自分が恥ずかしい。

「……いつから」
「文化祭のちょっと前からかな」

 塚本と光希が仲良くなり始めた時期と合致する。
 準備期間に会っていたときも、今朝俺を置いていったときも、このことを話していたんだろう。確かに、何の関係もない俺を呼ぶ必要なんてない。それなのに、あんな不満をぶつけてしまっただなんて。心の中で思っているだけならまだしも、なぜ言ってしまったんだろう。半日我慢していれば、なかったことにできたのに。

「岡田君なんて言ってた?」
「……昼休みと放課後、彼女と過ごすって」
「よかった」

 楽し気に顔を緩ませる塚本が「それで?」と続ける。

「岡田君いないけど、凛はどうするの?」
「……2人で、一緒に過ごす……?」
「誰と?」
「……お前と」

 満足げに微笑まれ、首筋を掻いた。

 さっきも一緒に帰れると連絡をする前に塚本の方から迎えに来たことを踏まえると、ここまで計算済みだったのだろう。結局、俺も光希も塚本の策略にまんまと嵌り、上手く踊らされていたのだ。
 その事実に不満が全くないわけではないが、それ以上に自分のために慣れないことをしてくれたことが嬉しく、むず痒さを感じた。

「今日、凛の家行っていい?」
「……いいよ」

 塚本に顔を覗き込まれ、鼓動が早まる。
 その嬉しそうな顔に、早く2人の空間に慣れなければな、と決心した。

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