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日常とカレー

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「中学校までバスで1時間だよ?
田舎すぎる。」

午後6時を回った頃、珍しく私が居間の畳の部屋で勉強をしていると、縁側から秋君が上がり込んできた。

「秋君、今勉強してるからお喋りは後で…」
「1ページしか進んでないのに?」
「……。」


数学のテキストを持ち上げられ、答えが白紙のページをぱらぱら捲られる。
……こういう時は話題を変えるのが1番だ。


「わぁー!それ学校の制服?」
私は秋君の制服を指差す。

カッターシャツに黒ズボン、
白セーターに赤いネクタイの四季中学校の制服。
対して私はジャージ愛好家なので、肌寒くなってからは四六時中ジャージを着ている。


「そうだよ。」
「いいな~その制服!格好いい!」
秋君は頭を掻いてうつむく。得意げそうだ。
「…ふん!だろ。」

「うん、私も着たい。」
「そっちかよ…。」

私がケロっとした表情で言うと、露骨に落胆された。
因みに今のはワザとである。ははは。


「あーあ、何かお腹空いたなぁ…。爺さん野菜炒めしか作らないから飽きるし…」
「野菜農家だからね」

そんな事をぐだぐだと話していると、TVのニュースが終わり、お昼の食レポ番組が始まった。
太めで愛らしい女性が、お店でマイク片手に声を張り上げる様子が映し出された。

『今日みたいな夏の終わりは、やっぱりカレー!店員さん、隠し味なんかは入れてますか?』

『そうですね…とびきりの愛情と「売れろ!」という念を込めました。』

『そうなんですね~!隠し味は柚子胡椒という事で~…』

食レポが終わると、カレーが画面にアップで映し出された。
じゃがいもや人参がゴロゴロ入った熱々のルーに白いご飯。
2人で画面を見つめる。 






 ごくりと、喉が鳴る。


数分後、
私達はエプロンをつけ、頭に三角巾をたずさえて台所にたってた。

「カレーつくるぞー!!!」
「おー!」


「まず、野菜を切って、次に、鍋に入る…」


私はまな板を滑らせ、鍋に野菜を投入した。

「………………肉は!?」
私が鍋をお玉で掻き回してると、秋君が意義を唱えた。

「お肉、食堂にしかない…」
「肉がなきゃカレーじゃないよ!」

(例え秋君が認めなくても、カレー粉が入ってれば世間はカレーと認めるんだよ…。)


秋君は冷蔵庫を開け、タッパーに入ったウインナーを出した。そして問答無用で鍋に入れた。
「オレがやる、お玉貸して。」
「えー貴様の様な青二才にできるの~?」
「何キャラだよ…」


秋君はお玉で野菜と水の入った鍋を掻き回す。
その横で私は机に項垂れて鼻歌を歌っていた。歌った理由はただ暇だったからだ。別に意味は無い。

真剣な面持ちの秋君は「よし。」と言うと私の方を向いた。

「姉さん、カレー粉頂戴。」

「えー其処に置いてたよ?」

そう言うと、秋君は苦虫を噛み潰したような、呆れかえったような表情になった。

「…これ、シチューの素だけど。」

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