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眠れぬ夜のホットミルク(中編)

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「……ふぅ」




全く…ここのお年寄りは、意外とズバズバ人の事情を詮索するし、言うのでヒヤヒヤする。
私も若いだけあって、爺さん達にセクハラ発言されたりするが、適当に笑って流したりしてる。



私と男の子は、木が左右に生え渡っていて、陽射しが葉っぱの少しの間からしか当たらない山道を、黙々と静かに歩いていた。
サンダルと運動靴が 道に擦れる音と、虫の鳴き声だけが耳に響く。



社まで20分程。それまで、このまま歩く。


…………

……………………。




「……ああ!ごめん手!!!」

「………」



手を握ったままだ!
バッと手を離すがやっぱり男の子は俯いたまま。
喋らない。



(も…もしかして私に触られたのがめちゃめちゃ嫌だったとか? それとも……私、汗臭かったりする!?)


もしかして昨日洗い忘れたこのジャージが臭いとか!?
うーん臭くはない…よね?
自分の匂いだから分かんない訳じゃないよね!?

私は自分の腕をすんすん匂う。

男の子はそんな私の姿を、
「急に自分の腕を嗅ぎ出して…どうしたんだろう…?不審者?」という顔で見てくる。


(私が稲荷様の初対面で向けた顔と同じだ…!向けられてみると辛いものがある…!)


というかこの子…秋也君は中学生。

男子中学生に稲荷様を見せ、「この人は神社の神様だよ!」と言った所で信じるだろうか?
この視線がより鋭くなるだけではないだろうか?


そんな事をうだうだ考えている内に、私達は鳥居に足を踏み入れた。





「今日は早いな…………誰だその小僧は」


社の中には私のお供え物待ちの稲荷様がいた。
私がお供え物ではなく、秋也くんを連れてきたのでちょっと吃驚している。

秋也君はと言うと、稲荷様の銀髪・赤白の袴姿に驚きの表情で固まってる。

きっと最初の私の様に、心の内でコスプレイヤーだと思っているに違いないな、これは。


稲荷様に近づく。
「ええっと…耳をお貸しください……」

私は稲荷様の耳にこっそりと『あるお願い事』をする。
ごにょごにょごにょ…


「………


神様っぽい事をしろ、
じゃないと不審者だと思われる?何言ってるんだ」



「変な事を言ってるのはわかります!でもやって下さい!!!
ひと目見ただけで『わぁっ!この方は神様だ!崇めたつらなければ!!』と即座に思うような事、あるでしょう!!?」



稲荷様はふむ、と顎に手を置く。


「烏を追っ払うとかならできるぞ」



「からす……。」


そんな事を目の前でしても『何だこの人?動く案山子かな?』と思われ、あの視線が更に深くなるだけに違いない。


あっ!

「そうだ!狐になって下さい」



狐に変身など、人間にはできる所業じゃ無い。

仮に、もしそれで手品師だと思われてしまったら、稲荷様はもうこの村専属マジシャンだと言う事にしてしまえばいいし(なげやり)



「お願い…!お願いします!マジシャン!」

「誰がマジシャンだ。」

すると稲荷様は少し考えこんで笑った。
「…まぁそこまで懇願されて悪い気はしないし、いいだろう。」

「稲荷様!さすが守り神!かっこいい!」

「ふん、もっと言え!」


稲荷様は、秋也君の目の前で銀毛の狐に変身した。 



「!?」

秋也君はかなり吃驚している。
よし!そこですかさず説明だ!

「この人はね、社のかみー…」

「………かわいい。」





「え?」
秋也くんは稲荷様の近くにしゃがみ込む

「な、撫でてもいいですか?」

「尻尾ならいいぞ」

「うわ~~~!!!凄いもふもふしてる!」

宝石みたいにキラキラした瞳で稲荷様をモフりだした。
え?あれ?


「狐さんは人の言葉が話せるんですか?」

「この社の守り神だからな、当然だ。」

「へぇ…凄いですね!」

(受け入れるの早くない!?)

私は二人の後ろで呆然と立ち尽くす。
そこに丁度、川の神こと蛙さんがやってきた。


「わっ!でっかい蛙!」

「こんにちは~この子は誰ですか?」


「えっとですね、この子はもり…」



「森 秋也です!今日からこの村に越してきました!」

「そうですか~かわいいですねぇ」


蛙さんは秋也君の頭を優しく撫でる。 
秋也君、めちゃめちゃ嬉しそうだ。
それから私を置き去りにして、3人でわいわいと話し始めてしまった。

(お呼びじゃない感が凄い…!)



時間がたつにつれ、夕日が沈みはじめた。空を飛んでいる烏がカーカーと鳴いている。

「オレそろそろ帰ります。また来てもいいですか!?」

「ああ、いつでも来いよ、秋也。あとついでに結子も。」


「私の扱い、一気に悪くなってません…?」


秋也君が稲荷様と熱い握手を交わした後、私達は並んで鳥居を出た。






            ✴

 


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