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 魔王を消して、勇者を殺して、第二皇子を殺すのにはこの俺でも骨が折れる作業だった。
 魔王を殺すのはいい。けれど相討ちとして俺が死のうにも、隣国との関係が悪化していては俺とララの二人の余生に邪魔が入るかもしれない。
 そう考えて処理をしていたら一年もララと話すことのできない時間があった思うと気が狂いそうだ。夜中にララが寝静まった頃にイタズラだけして帰るなんて、まるで変質者みたいじゃないか。

 そうしてやっと俺は全てを終わらせてララに逢いに来た。
 ララが隠れて俺を嫌がったけど、最終的に俺を受け入れてくれて天にも昇る心地だった。

 ──それに、まさか前世を思い出しているとは。

 俺から逃げた理由がわかった。俺が彼女の死んだ理由だとわかったから、ララは俺から離れようとしたのだろう。
 ララと彼女の性格はあまり似てないせいで気がつかなかった。
 彼女がはっきりと言葉にするタイプなら、ララはなにがなんでも隠そうとするタイプだと思う。
 というか、何度か元の世界の言葉を使ったとき、ララは全然反応しなかったのに。そこで気づけよ、自分。

「ラーラ」
「なぁに、ローラン」
「はぁあああ……しあわせ………」
「ローランって、前より少しゆるくなった……よね……?」

 腕の中にはララ。ララの匂いは俺を落ち着かせてくれる。
 不思議そうに首を傾げてるララの首すじに顔を埋めながら、ふんふんと変態よろしく匂いを嗅ぐ。いい匂い。ララはくすぐったそうに身をよじるけど、決して嫌がったりはしない。
 これが俺のララ。

「ララ、今日はギルドに行くのやめてゆっくりしよっか」
「だ、ダメだよ。ローラン、この間もそう言って……」

 かあぁぁっ、と頬を染めるララの初々しさに笑みがこぼれる。そう言ってずっと二人でベッドでいたよな。覚えてる。
 あの時のララ、エロかった。
 第二皇子であり勇者としての俺は死んだとはいえ、冒険者ギルドをやめたわけではない。名前をローと名乗り、再登録してある。一部では俺がローランだと知っているけど、それ以上はなにも言わない。
 だって、誰も人生を終わりにしたくないだろう?
 そんなわけで悠々自適なララとの二人きりの生活。
 幸せ以外の何者でもない。

「なら、ローラン。今夜は火鳴鳥のシチューが食べたいな」
「そっか。じゃあクエスト火鳴鳥関連にしような。ちょうどいいのがあるといいけど」
「あと、ギルド長が氷漬けクエスト消化してもらいたいのがあるって言ってたよ」
「それは無理。あれ、1日で終わらないから」

 二日も三日もララに野宿なんてさせたくない。どっかの誰かがいつかはやってくれるだろう。それは俺じゃない。
 腕の中にララを閉じ込めたまま、テーブルのコーヒーを飲む。

 俺が魔王と相討ちになって死んだと言ったとき、国民全員かそれはもう悲しんだという。俺はその間魔王城にいたから民の様子を知らないが、あとから唯一の協力者であるリックに聞いた。
 リックはそのまま騎士として国に使えるのかと思えば、冒険者として聖女の妹であり俺になびかなかった女と結婚して旅に出るらしい。いいことだと思う。
 応援としてリックには金以外に俺の加護を付けた弓と片手剣を渡しておいた。女は片手剣使いらしい。
 ララはこの小屋から出ることが少なく、勇者と魔王が相討ちになったことは知らなかったとか。そういうとこ、かわいい。

 ララの首輪は早々に廃棄して普通の冒険者としてやってる。二人で組んで。ペアで。夫婦で。
 巷では氷雪の最強夫婦なんて言われてる。ぜひとも広めて欲しい。氷雪はいらないが。最強夫婦って響きがいい。というかララは確かにアルビノの見た目が氷雪っぽいが、なんで俺まで氷雪なんだ? わからない。

「ローラン」
「ん?」

 時折ララは甘えるように俺の胸板に髪をすり寄せる。まるで小動物のようなそれに色々疼きそうだ。
 けど、これはララなりの甘え方。いちいち犯し尽くしてたら俺もララも大変だ。
 そんなときはララの髪にそっと指を入れ梳いてやる。
 まるで女神のような白い髪は美しくて、それでいて長い。そういえば俺が会った女神も白銀に紅い瞳だった。もしかしたらララの容姿は本来であれば神聖なものなのかもしれない。

「……昨日、ローランに女の人がベタベタしてた」

 ララの小さなヤキモチ。顔が緩みそうになるけど、キリッと持ち上げて、ララの機嫌を直すように目尻にキスをする。

「俺にはララだけだよ」
「嘘ついちゃ、やだよ……?」
「ララには嘘をつかないよ」

 気持ちよさそうに目を細めるララを見て、最近よく考える。
 もしかしたらララには最期の記憶がないのかもしれない。ただ俺という好きな人が他の女をよく侍らせていた。それだけが強く印象に残っているのかも。

 ただの推測だけれども。

「嘘ついたらローランのこと嫌いになるからね」
「それは冗談でも言わないで」
「ご、ごめんなさい……」
「ダメだよ? 俺がほんと傷付くから」

 こくこくとララが頷く。
 ララが俺のことを嫌うなんて……そんなの許さない。想像だけで殺せる。心中できる。

「ろ、ローラン? 怒っちゃった? ごめんね、嘘だよ。私、ローランのこと大好きだよ……?」

 不安に眉を下げて俺の服を握るララに心臓が跳ね上がった。かわいくてかわいくて抱き締めたい。けど焦らしたい。
 前世風に言うのなら、俺の嫁くそかわいい、だ。

「ローラン……」

 へにょ、と眉を下げたララは本当のウサギのよう。容姿も相まってか、今にも死んじゃいそうにふるふる震える子ウサギ。
 ちなみにララは再会してからずっとその容姿を隠していない。あんなところやそんなところまで見た仲だから当たり前かもしれないが。
 そんなララの瞳にうるうると涙が溜まってきたので意地悪を終えることにする。

「嘘だよ、ララ。世界で一番愛してる」
「私も……。ローランのこと、世界で一番愛してる」

 前世からなのだ。来世もずっと、君と一緒に。
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