上 下
8 / 19

08

しおりを挟む
 ハーレムは嫌い。ハーレム男も嫌い。ハーレムと名のつくものは生理的にみんな無理。

 ローランは私を犯し尽くして、また勇者の旅へとで出ていった。
 私は一人ローランの部屋だと思われるところで顔の見えない知らない人たちにお世話をされる。
 顔が見えないのは、私の視界が黒い布で覆われているから。ローランに無理矢理付けられた布は、私がローラン以外を見ないようにするためのものらしい。
 解こうにも逃げようにも、黒い布は魔法によって固定されているのか解けないし、この部屋は外から鍵がかけられているようで逃げられない。
 魔法が使えないのはやっぱり首輪のせいらしい。ローランの言葉の端々にこの首輪が魔法使い用に作られた魔力封じの首輪だと匂わせるような言葉があった。

 どうしようもない。詰んだ。

 私の身体はローランの手によって快楽に目覚めているし、心だって唯一話して視界に入れることができるローランに依存しはじめてる。
 こんなことになったのはローランが原因だと頭では理解してるのに、どうして心は自分の思う通りにならないのだろう。
 このままだとローランにすべてを委ねる日も遠くないと思う。

 そんなの絶対嫌なのに。

 ベッドから降りてうろうろとしてみるけど、目が見えなくて魔法も使えない時点で意味がない。
 私の身の回りの世話をしてくれる人たちは決して私の声に応えない。本当にどうしようもない状況。

「もう、やだ……」

 頭が狂いそう。


「助けてやろうか?」
「っ、だれっ!?」

 人が入ってきたような気配はしなかったはずなのに、聞こえた声に慌てて振り向く。けれど当然ながら何も見えない。
 男の人の声。ローラン以外の男の人の声をここに来て初めて聴いた。
 ……よく考えたらこの部屋に来てからローラン以外の人の声が初めてだった。

「私か? ……まあ、うん。私のことはどうでもいいじゃないか。ここから出たいのか、出たくないのか、どっちなんだ?」
「出たい、けど……」

 明らか様に怪しい人。
 この人を信じてもいいの?

「それなら私が出してやろう」
「え……」
「その代わり、ローレンスにはもう近付かないで欲しいんだ」

 まるで悪魔との契約みたいと思った。だって、私にとても都合が良過ぎるから。
 ローランをローレンスと呼ぶ人。この人がローランとどういう関係なのかはわからない。けど、きっと近しい関係なのだろう。

「ローレンスはね、隣国の王女との婚約が決まってるんだ」
「………あぁ……」

 悪魔は優しく私に教えてくれる。

「だからね、君みたいに化け物染みた容姿をした子がローレンスと必要以上に仲良くするのはとても困るんだよ。ローレンスの結婚はこの国と隣国の友好を繋ぐためのものなのだから」

 だから、ローランはハーレムの中から一人を選ばなかったんだ。ローランは自分がこの国と隣国の友好を深める存在だと知っていたから。
 なら、私はなんだったんだろう。私は、どうして……。

「君はね、ローレンスの一時の欲に付き合わされたに過ぎない。パーティーから勝手に消えた子なんて拐かしやすいだろう? そういうことだよ。ローレンスは君じゃなくてもよかった」
「わたし、じゃなくても、よかった……」
「そうそう。だから私がここから逃がしてあげても、もうローレンスには近付いてはいけないよ。また君が傷付くだけだ」

 悪魔の言葉はすんなりと頭の中に入ってくる。とてもわかりやすい事実だった。
 だって、ローランが私なんかだけを愛しているなんていう事実よりよっぽど真実味がある。最初からわかってたはずだ。ローランの言葉は嘘だって。
 それなのに、どうしてだろう。どうして私の瞳からは涙が止まらないの?
 溢れた涙は私の目を覆う布にシミをつけていく。

「おや、泣いてるの?」
「っ、」
「心配ないさ。すぐにローレンスは君のことを忘れる。君も、化け物は化け物らしくひっそりと過ごしていればローレンスのことなんて忘れるだろう」

 元の生活に戻るだけ。ただそれだけのこと。
 どちらにせよ、私なんかがローランの隣にいられないとわかってた。ここから出たいと望んでいた。
 なら、願った通りじゃないか。

「はやく、ここから出して……」
「私相手にその言い方はどうかと思うが……、まあいい。君をローレンスから離すことができるなら許してやろう」

 悪魔は私の後ろに回る。はらりと黒い布が外れて落ちた。
 そしてそのまま光が溢れ、転移魔法が行使されたのだとわかる。どこに飛ぶかわからない。けど、そんなのどうだっていい。

 ローランから離れられるならもうどこだってよかった。

 光を感じてゆっくりと目を開けると、そこは私が昔いた森の中。魔力が使えるようになったのか、確認するように魔力を練る。

「少し、違和感があるけど……なんとか使えそう……」

 前と同じとは言えないけど、身を守るくらいの結界なら使えそう。でも、冒険者にはなれなそう。

「笑える……」

 私になんの価値もなくなってしまった。元から私にはなんにもなかったのに。
 魔法だけが私の取り柄だったのに。

 ハーレム男は嫌い。それはずっと変わらない。

「ローランなんて、だいきらい」

 世界で一番、大嫌いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

【完結】悪役令嬢を恐喝したヒロインは、バッドエンドを突き進む

五色ひわ
恋愛
 孤児院で暮らす私は、慰問に来た王子と出会い前世の記憶を取り戻した。どうやら、私は後に聖女となるこの世界のヒロインらしい。あと五年ほど我慢すれば貧困から抜け出せる。その時は、そんなふうに考えていた。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン
BL
公爵令息に転生したキトリー(天然無自覚)は王子と婚約破棄をして、従者である塩顔耽美系・蛇獣人のレノ(イケメン好青年)を連れて郊外にある別邸に移り住んだ。 そして、そこで”ようやく自由な生活を送れる!”と思っていたキトリーだったが、レノが村の子に告白されているところを目撃! BL大好きなキトリーは目をかっぴらいてのぞき見し、盗み聞きする。でもその事がレノにバレて……。 キトリーは笑って謝るが『自分には好きな人がいますので』と言ったレノの言葉が気になり「一体誰が好きなの?」と迂闊にも聞いてしまう。 「気になりますか?」と尋ねられて素直に頷けば、キトリーはレノに告白され、迫られて!? 「俺は主人公になりたいわけじゃないの! 壁か天井になりたいんだー!」と叫ぶお話です。 ゴタゴタ、わちゃわちゃ、恋愛よりもちょいコメディ寄り。 くすっと笑えてもらえたらいいなというお話ですので、ご理解いただければと思います。 またこのお話は実験的な要素も含め、キトリーが女主人公NL版でのお話も投稿しております。 (でも内容はほとんど変わりません) お好きな方で、どうぞ。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

処理中です...