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 前世マリアーナ、今世久留廻くるみ真凛です。
 そして何故か前世暗殺者で今世本家次期当主の婚約者になりました。
 ちなみにその年の差7歳。こんな年上の女を婚約者にするってどういうことなんだろう。上流階級の人間なのに、

 ……やっぱりキスしちゃったからかな。

 それは入学式が終わった日。私に婚約破棄を叩きつけて、その挙句に処刑にした元王子がいるよーやだよーって話を流架に(半強制的に)話してたら、だ。
 なんかこう暴走しちゃった流架にキスされた。
 その後数日は流架の顔が見れなくて避けてたら、ご当主様から直接「婚約しなさい」と言われました。

 わ、私もショタコンじゃないから断ろうとしたんだよ! そしたら流架に「……責任とってくれないんだ」ってご当主様たちの前で言われちゃって、キスのことまで言われたら、こりゃまずいってなって気付いたら高速で婚約話に頷いてたんだよ!
 過程はどうあれ小学生の男の子に手を出した高校生って……。流架に前世があるとはいえ、うぅ……。
 そういえば私が死んだあと、ルカはどうなったんだろ。幸せな人生を歩んでくれたのかな。
 聞いてみたいけど怖い。だから未だに聞けずにいる。
 それにしても、私の人生は婚約は必須なの? 前世でもこのくらいの時期に婚約した気がする。これで婚約破棄までセットだったら、のろわれ……そ、そんなことはない!


 というわけで廻神流架(8歳)の婚約者になった高校生の私(15歳)。
 そんな私の目の前に今いるのは元王子だったりする。

「マリアーナ、なんだろう……?」

 ついでに言うと元王子は前世持ちらしい。

 元王子に関して、マリアーナは特に恨んでない。確かにこの野郎! ってなる気持ちはあるけど、最終的には恋ってすごいなぁって気持ちに収束する。
 元王子は私じゃない人と婚約したいがゆえに私との婚約を解消した。そしてその相手は元王子を愛したゆえに私の罪をでっちあげ元王子に密告した。そして元王子は愛する人からの密告を信じた。その結果の婚約破棄と国家反逆罪ということだ。
 やってることは酷いけど、しょうがないよねっていう諦めの気持ちが勝る。

 マリアーナは元王子を愛すことができなかった。
 正確にはルカを拾って世界を知ったマリアーナは、元王子のお人形ではいられなくなった。初恋はきっと元王子だった。物心ついた時から元王子が婚約者だって言われて育ったし、元騎士よりも元王子のほうがわかりやすく私に好意を示してくれた。でも、それは刷り込みのようなもの。
 きっとマリアーナと元王子が結婚しても、幸せな生活にはなれなかったと思う。
 それなら両思いの二人が一緒になったほうがいいじゃない?

「私を、赦せないだろう……」
「えっ、いや、あの?」

 だから許すも許さないもないんだけど。
 私の手をとって跪き、騎士の誓いでもするように私の手の甲にキスをする元王子に私は戸惑う。

 これ、私が記憶があるからいいけど、記憶がなかったら変な人だからね? 元王子が大丈夫? 頭大丈夫?
 あ、でもそういえばこの人、新入生代表挨拶してたから、頭はだいじょう……

「いや、許さなくていいんだ。ただ、今世は私が必ず君を幸せにすることをここに誓う」

 ぶ。じゃなかった! やばい!
 こんなポケッと流されてる場合じゃない!

「あ、あの、若王子くん……? マリアーナって、なんのこと、かな? 外国人さん?」
「……記憶がないのか」

 そうですよー前世の記憶なんてありませんよー。って、ことにしとく。
 元王子は立ち上がり、考え込むように指を顎に当てる。
 よし、そのままドロップアウト希望。
 今さら元王子と関わってもめんどくさいことにしかならない。というか私は流架だけで手いっぱい。流架って結構独占欲強いみたいだし。一応名ばかりとは言え今の私は流架の婚約者。
 これで終わりかな、と思って立ち去ろうとすると、手首を引っ張られて強制的に目が合う。

「……私は若王子蓮という」
「はぁ……久留廻真凛です……?」

 なんで自己紹介……?
 首を傾げながらも、自己紹介されたので自己紹介を返す。早く帰らないとめんどくさいんだけどな。
 流架に高校入学の記念にもらった腕時計を見ると、もう普段の授業が終わって30分も過ぎてる。ああ、まずい。走れば大丈夫かな。なんとか間に合う……よね?

 手首をまだ掴んでる元王子は、私をチラチラと見ながら言いづらそうに口を開いては閉じる。
 言うなら早く言ってほしい。早く帰りたいよう。
 そう思いながらも辛抱強く待ってると、元王子は意を決したように口を開いた。

「私と、友人になってくれないだろうか……?」

 私を見つめる榛色の瞳。うるうると潤んでる瞳にウッと言葉が詰まる。
 元王子がなんか犬みたい。どうしよう。断ったほうがいいんだろうけど、そんな度胸はありません。というか断ったら泣きそう。

 うーんと考えて、考えた結果、頷こうとしたら背後から猛烈な体当たりが私の腰にクリティカルヒットした。
 痛い。半泣きになりそう。

「だめー。まりんお姉ちゃんはぼくのだもーん」
「……流架? なんでいるの?」

 私の腰を力一杯抱き締める流架に目を丸くする。
 私と目が合うと、にぱっと天使の笑顔を見せてくるけど、だめです。目が笑ってない。天使じゃなくて悪魔の笑顔だ。

 あっ、ちょっと腰がミシミシ言ってるんだけど。手加減してる? してないよね? 折れるよ?
 とりあえずどこか茫然としてる元王子の手から私の手首をそっと離すことに成功。落ち着かなかったから、ホッとした。

「おまえ……なぜ、おまえがここにいる……」
「えー? まりんお姉ちゃんのお家の本家がぼくのお家だもん。一緒に住んでるんだよねー、まりんお姉ちゃん」
「えっ、あ、うん。えーっと、もと……若王子くん、流架とは知り合い?」

 若王子と元王子って語呂似てる! 言い間違えそうになった!
 苦笑いしつつも、そう聞くと元王子は苦々しげに流架を見る。そんな視線を送られてる流架はどこ吹く風。よくそんな飄々とできるね。図太くない? そういえば流架って結構周りの評価はどうでもいいとこあったし、図太い性格なのかも。その度胸、ちょっとだけ羨ましい。
 あ、ちょっと胸に顔を埋めようとするのはだめー。あと流架のかわい子ぶりっ子は普通に可愛いから本来の性格がそれになればいいと思うな。
 私の胸に顔を埋めようとしてる流架の顔を片手で制して、元王子の答えを待つ。
 私の覚えてる限りだと、元王子とルカはそんなに交流がなかったと思ったんだけど、なんでそんなに難しい顔してるんだろう。

「……昔の、だ。私とその子供のことはどうでもいい。その、私も真凛、と呼んでもいいか?」
「は? まりんお姉ちゃんはぼくのこんんんんっ」

 とんでもないことを言おうとした流架の口を慌てて手で抑えた。
 私と流架が婚約者なんてバレたら、私がショタコンだと思われる。友達がいないからってそんなのヤダ!
 私が口を抑えたことが不満なのか、流架はジト目で私を睨んでる。ごめんね、流架。でもさすがに婚約者って広めるのは良くない。いつ婚約破棄になるのかわからないんだから。それにご当主様も婚約発表は流架がある程度大きくなるまでは待とうって言ってくださってるんだし。

 とにかくここはさっさと帰ろう。帰って流架と話そう。そうしよう。
 そう結論に達した私ははにかみ元王子を見てにっこりと笑顔を作る。

「も、もちろんいいよ! 流架は私のこと姉みたいに想ってくれてて、ちょっとヤキモチ妬き屋さんなの! 私、今日は迎えも来たからこれで帰るね! 若王子くん、また明日!」

 バイバイと手を振って、私は流架を抱き上げてその場から逃走した。

 流架の口から婚約者という言葉を出すことを阻止し、元王子から逃げ出すことに成功して一種の達成感に満ち溢れてた私は知らなかった。
 自分の抱き上げてる小学生が怒りの炎を燃やしてることを。
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