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 断固野外は拒否したおかげで、まだ再会してからセックスはしてません。
 ヴィンスと再会してから二日であの港街を出て、生まれ故郷への道を戻ってる。
 あんまり荷物置いておかないでよかったな、と思った。
 まあ例え多くても私の場合はアイテムボックスっていう異世界転生お決まりチートのおかげで余裕なんだけど。
 余計な娯楽系知識ありがとう。まさか旅に出ることになるとは思わなかったから、アイテムボックスとかどこで使うんだろうと思ってたけど、役に立ったよ。
 アイテムボックスはユリアンとシュウカとメイにも大絶賛だった。
 なんでも遠い北の国のお姫様が持ってたような特殊な魔法なんだそう。冒険者には比較的多いらしいけど、それでも珍しくて、貴族だとまず見ない珍しいスキルだと言ってた。そのお姫様とか冒険者って、転生者だったんじゃないかな、と思ったけど憶測に過ぎない。アイテムボックスは転生者のスキルとしては定番すぎるほど定番すぎる。
 詳しく聞きたかったんだけど、ヴィンスにユリアンとあんまり話さないでって言われて話を切り上げられた。ちょっと嫉妬深すぎる気がします。

 故郷に着いたけど、メルリアに用があるだけだったから、街の中には入らずにそこから少し離れた場所に暮らしてるメルリアの家にだけ寄ることにした。
 いや、ヴィンスには両親に顔見せてきなさいって言ったんだけど。私と一緒じゃないとやだって言うんだよ。かわいく潤んだ目で見られたら強く言えなかった。ヴィンスの顔に弱いんですぅ。あの顔には弱いんですぅ。
 ヴィンスは本当に顔がいい。かわいい。
 私もおじさんとおばさんには会いたいんだけど、クラリスを刺激したらと思うとよくないことだと思う。お腹に赤ちゃんもいるんだし、なるべく穏やかに過ごしてもらいたい。
 そういえばクラリスはクソチャラ勇者とどうなったんだろう。
 赤ちゃんまでいるんだから、結婚するんだよね。しないとかありえない。チャラ勇者は責任を取るべき。

「ミゲラ、久しぶり」
「メルリア、久しぶ……、なんでいつもの格好じゃないの?」
「あの格好はミゲラの前だけだよ」
「知らなかった」

 私たちを迎えたのは髪をゆるく三つ編みにして横に流してる男。普段は女物の服を着てるメルリアが男の格好ってすごい違和感。
 いつもの挨拶のように私を抱き締めようと腕を広げるメルリアに、私も腕を広げて抱き着こうとすると、ヴィンスに止められた。

「なにしようとしてるの」
「挨拶だよ」
「……そんな挨拶、俺してもらったことない」
「あー……うーん。ねー?」

 したことないし。
 嫉妬深い元婚約者の前で、睨まれてる私がわざわざする必要ない。
 ヴィンスに会うときって大抵クラリスとセットだったから。クラリスと一緒じゃないヴィンスと会った試しがない。あ、私が孤児院に入る前は違ったか。もう昔のことすぎて遥か彼方だけど。
 言葉を濁すようにメルリアを見ると、にんまりと楽しそうに笑ってる。メルリアってクラリスとヴィンスと顔を合わせるとき、大抵変な顔で笑うんだよねー。だからヴィンスにも嫌われてるんじゃない?

「へー、ミゲラって孤児院の子たちにもこうやって挨拶すんのに、ヴィンセントにはしないんだ」
「メルリア、知ってるくせにそういうこと言わないで」

 メルリア、そういうところだぞ。だからヴィンスに嫌われちゃうんだぞ。

「……………ミゲラ姉は俺のだもん」
  
 んんんっ、かわいい~~~~~~!
 むぅっと口を尖らせて私に抱き着くヴィンス。天使だと思う。拗ねてるんだね、拗ねっちゃったんだね。
 あまりのかわいさによしよしよしと、がっつり頭を掴んで撫でまくる。

「ミゲラ。君、騙されてるよ」
「ヴィンスの頭がちょっと大暴走気味なのは知ってるから大丈夫だよ」

 ヴィンスがかわいいだけじゃないとか知ってる。この身をもって。

 というか、ヴィンスがかわいいとかそれはどうでもいいとして。

「ねえ、メルリアって隠し子とかいる?」
「はあ? いるわけないよ。僕のことなんだと思ってるの?」
「え、そうなの?」

 でも、と視線をズラすと聖女の後ろにはちらちらと恥ずかしそうにこちらを伺ってるメイちゃん。
 それならメイちゃんって貴族だし、メルリアとどう接点があったんだろう。

「なにあの子。知らないよ」
「え~? あっちは知ってたけど? メルリアが王都に行ってた間の知り合いとかじゃないの?」
「僕、王都に友達とかいなかったから」
「てことは、メルリアの友達って私だけだけど?」
「そうだよ。ミゲラは僕の唯一の友達だね」

 そう言ってメルリアが私の頬に手を伸ばそうとしたところで、ヴィンスにその手をはたき落とされた。

「俺のミゲラ姉に触るな」
「相変わらず余裕がないね」

 睨み合ってる二人を置いて、メイちゃんのところに向かう。ユリアンの後ろにいるメイちゃんと視線を合わせるためにしゃがんだ。
 メイちゃんもかわいいんだよね。
 勇者パーティって顔面偏差値あるのかな。

「メイちゃん。あれがメフィスだよ。お話したいことがあるんじゃないの?」
「ん……。弟子に、してほしい」
「……弟子?」

 メルリアに、弟子?
 ててて、とメイちゃんがメルリアのもとに向かう。

「メフィスさま!」
「ん?」
「メイ・ロール、です! 弟子に、して!」
「無理。僕、弟子とか取ってないから」

 メルリアの素っ気ない言い方に「がーん」とショックを受けるメイちゃん。
 え、冷たい。血も涙もないの?
 というか弟子ってなに? メルリアってなんか偉いの? 貴族の女の子に弟子にしてくださいなんて言われるほど? そんな話聞いたことない。

「メルリア」
「僕、王都で転移門の構想と設計に関わったんだよ。あと魔力暴走についての考察についての本とか出したことがあるよ。たぶん、この子はその本のファンとかじゃない? 僕、その本でしか名前出してないし」
「ミゲラ姉、俺は勇者だよ。歴代一強いよ」

 メルリアに張り合ってるヴィンスは置いといて、私の友達がすごかった件について考えたい。
 えー、私の親友すごいー。なんでこんな田舎街で魔法薬作りやってんの? こっちは大助かりだけど、王都のほうがお金稼げるよ? 
 そんな私の心の声に気付いたのか、メルリアがくすりと笑う。

「お金が稼げても親友は一人だけよ」
「私って愛されてる」
「なによ、いまさら」

 オネエ口調に戻ったメルリアに感動。
 メルリアって私のこと好きすぎじゃない? ヴィンスがクラリスと結婚してたら、メルリアと結婚するって選択肢もあったのかな、なんて考えてると、隣からぐすっと鼻水を啜る音が聴こえてそちらへ顔を向ける。

「メフィス、さまぁ……っ」
「俺のほうがミゲラ姉のこと愛してるもん……っ!」

 ヴィンス、7歳の女の子とおんなじ顔して泣いてるのはどうかと思うよ。

「私もヴィンスのこと愛してるよ。ほら、おいでー」
「ミゲラ姉っ!」
「よしよし。ヤキモチ妬かせてごめんね」
「なに、ミゲラ。子どもでもできた?」
「できたのは恋人です」

 失礼なことをいうメルリアをげしっと足蹴にして、抱き着いてきたヴィンスをよしよしと宥める。
 メイちゃんはユリアンとシュウカに慰められてた。メイちゃん可哀想。

「メイちゃんのこと、弟子にしてあげたら?」
「メイ、なんでもするっ!」
「いらないよ。そもそも子どもが勇者パーティにいるのってどうかと思う。家に帰ったら?」

 あまりの塩対応。たしかに私も7歳の女の子が旅ってどうかと思うけど。

「メイは生まれた時から魔力が強くて、物心つく前には魔力操作を覚えさせられた神童なんです。この旅への参加は彼女の強い要望でした」
「メフィスさま、会いたかった……」
「これが理由だったみたいです」
「とか言われても僕はその子を知らないし、弟子なんて取ってないし」

 うるうるとメルリアを見上げるメイちゃんを見ながら、ぐりぐりと私の肩に顔を押し付けるヴィンスの頭を撫でる。
 メイちゃんは、本当にメルリアのこと尊敬してるみたい。どこにいるかもわからなかったメルリアのために旅に出るだなんて相当だよね。それでも普通に探すよりは勇者パーティの一員として旅をしたほうが見つかる確率は高いかも。貴族なんだからお金を使う手もあったのに自分でなんて、健気~~!

「とりあえず家に入りなよ。色々話も聞きたいし」
「ありがとう。そういえば手紙、遅かったよ」
「わざと」
「……別にいいけどさぁ」

 メルリアから貰った手紙をなんだかんだで出発する前日に読んだら、「ヴィンセントがミゲラを探してるよ。ヒントを出したから近々そっちに行くかも」とかいう内容だった。
 手紙が来たのってヴィンスが来る前日だそ。少し連絡が遅過ぎると思うの。
 まあでも、私に抱き着くヴィンスを見てると、それも別にいいかって気持ちになるんだから、好きって気持ちは偉大だと思う。
 メルリアの手紙に気付いて街から逃げ出さなくてよかった。

 少しの間だけでも、ヴィンスとこうやって恋人気分が味わえるんだから、それって幸せのことだよね。
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