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エスタ様と共にリアム様がお待ちになられてる客室に向かうと、ルビーと戯れているリアム様がそこにいた。
ルビーと戯れているリアム様はとても絵になる。それにほぅっと見惚れていると、私たちに気がついたリアム様が顔を上げた。
「シルヴィア」
リアム様が私の名前を呼ぶ。なんだろうと思ってビクビクしていると、ルビーが私のところまで飛んできた。
両手を合わせて手のひらでルビーを受け止めると、ルビーは「きゅう!」と嬉しそうに鳴いて私へと擦り寄る。
そのかわいさに笑みがこぼれた。
「ふふ、ルビーったら。くすぐったいわ」
「きゅーきゅっ!」
「ルビー」
ルビーと戯れていると、リアム様が硬い声でルビーの名前を呼ぶ。ルビーは名残惜しそうに私の鼻先をぺろりと舐めると、リアム様の元へと戻って行った。
「シルヴィア。話しがある」
「お話し……ですか?」
「うん。だからバーミリオン公爵令嬢は席を外して欲しいんだけど」
そう言いながらリアム様はちらりとエスタ様を見る。エスタ様をその視線を返しながら、クスリと微笑んだ。
私としてはエスタ様がいらっしゃったほうが安心できる。それはリアム様を信用していないとかそういうのではなくて、リアム様と一緒の空間にいるのはいつだって緊張するから。
それに、お話ってなんなのだろう。もしかして婚約破棄の件? 私を待っている間に気が変わったのだろうか。
「あら。私がいたらできないようなお話しなのですか?」
「ふたりっきりで、話したいんだよ」
「年頃の娘を異性とふたりっきりなどできないと思いませんか? せめて、メイドは付けてください」
「……なら、いいよ。君もそこにいて。そんなに長い話じゃないから」
ふぅ、とため息を吐きながらリアム様が私たちに長椅子に座るように促す。それに頭を下げて、私たちはリアム様と向かい合わせになるように座った。それを見てリアム様は不機嫌そうに眉をしかめる。その視線を真正面から受けて、どきりと胸が音を立てた。
座ったらダメだったのかしら。なにを言われるのか、怖い。
ギュッと膝の上で拳を握ると、その上に手を重ねられる。ハッとして隣にいるエスタ様を見ると、優しく微笑んでいらした。
ガチガチに固まっていた身体から力が抜ける。エスタ様に微笑みを返すと、エスタ様はこくんと頷いてリアム様を見た。
「……シルヴィアは、さ。俺と婚約破棄してラウルと一緒になりたいと思ってんの?」
神妙な顔をしたリアム様に訊ねられたお言葉に目が点になる。
どうしてここにラウル様が出てくるのだろう? ラウル様と一緒にいるときに気絶してしまったから? そういえばこの前の夜会でファーストダンスを踊ったことにも苦言を言っていた。……自分は、レティ様とファーストダンスを踊っていたのに。
「ラ……彼とは、なにもありません。婚約破棄後も彼と婚約などすることはないでしょう。なので、安心してください。婚約破棄したあと、私は修道院に行き、リアム様の視界に入ることはありませんから」
ラウル様、と呼びそうになって、リアム様に不快だと言われたことを思い出した。
ラウル様の名前を呼ばずにそう言うと、リアム様はどうしてだか苦虫を噛み潰したような顔をしている。
また私はなにか失敗してしまったのかしら。悪くないと思ったのだけど。
「ふぅん。まあ、婚約破棄なんてしないんだけどね、絶対に」
ずくずくと膿んだように胸が痛い。
その言葉がいつか裏切られることを思うと、余計に。
「リアム殿下」
「なにかな、バーミリオン公爵令嬢」
「あなたは、シルヴィアのことをどう思っていらっしゃるの?」
「エスタ様っ!」
「だって、シルヴィア。酷すぎるわ、あなたたち」
だからといって、リアム様になんてことをお訊ねになるの?
驚いてエスタ様を見つめるけど、エスタ様の瞳は真剣そのもの。リアム様はその視線を受けて、怪訝そうに眉間にしわを寄せる。
「それを、どうしてバーミリオン公爵令嬢に言わなければならない」
「別に言わなければならないということはありません。けれど、」
「俺の気持ちは幼いときから変わってない。それはシルヴィアも知っている」
えっ? 幼いときからって、なんの話?
リアム様の言葉に戸惑ってしまう。リアム様のお気持ちなんて知らない。幼いときから変わってないって、なんのこと?
戸惑ってる私に気付かないリアム様は、淡々と続きを話す。
「別に今さらシルヴィアと心を通じ合わせようとか思ってないから安心してよ。ね、シルヴィア。わかってるでしょ?」
「私は……」
なんの話かわからない。
「ところで、リアム殿下はどうして他の女性とお戯れになるのですか?」
「それは……」
「それによって悲しんでる人間がいることをお分かりになられて……」
「お、お待ちくださいっ!」
ずいずいとリアム様を問い詰めようとエスタ様に待ったをかける。
ダメだ、これ以上は。これ以上、エスタ様に言わせるのは違う。
だって、私とリアム様の問題だもの。
「エスタ様、それ以上は」
「でも……」
「私が、ちゃんと、お訊ねしますから」
知ることは、とても勇気のいること。
だから、私からリアム様になにかを訊ねることはしなかった。なにも言わなかった。知りたくなかったから。
お父様に『リアム殿下と話し合いなさい』と言われた。けれど、私は今さらだと思ってきちんと向き合おうとしなかった。
知ることは、簡単なことだったのに。
「私、リアム様のお気持ちなんて知りませんし、わかりません」
「……は?」
「婚約者がいながら、他の女性とお戯れになり、あまつさえ口付けなんてするリアム様のお気持ちなんて、わかるはずありませんっ!」
「はぁあっ?!」
気持ちを吐き出すと、なんだかすごくすっきりした気がする。突然私にこんなことを言われたリアム様は驚きに目を見開いていたけど、私はすっきりとした気持ちでリアム様を見返した。
初めて、こうやってリアム様に自分の気持ちを伝えた。
「私、私は……」
「待って、俺が誰と口付けしたって?」
「えっ……」
「俺、シルヴィア以外の女に唇を許したことないけど!?」
まさかそこに反論されるとは思わなくて、目をぱちくりと瞬かせる。
あんなはっきりとレティ様とキスをしていたのに、それをなかったことにするの?
「どうしてそんな嘘をおっしゃるの?」
「いや、嘘とかじゃないけど!」
「だって、私見たんですもの」
「はぁあっ!? どこで!?」
「……気絶した日、騎士団の練習場の近くで」
なんだかリアム様がこうして焦っている姿は初めて見た気がする。リアム様はいつも余裕を持ってて、私もリアム様の前ではしっかりしなくちゃって思ってたから。
浮気を指摘された男性ってこんな感じなのかしら。
勢いあまって腰を浮かしたリアム様をジッと見つめていると、リアム様の表情が変わった。
「あっ……あれは、ちがっ! あれはあの女が!」
「あの女って……」
「いや、というかそもそも俺が女といたのは!」
リアム様の動きがピタリと止まる。いたのは、なんだというのだろう。
それに、どんな理由があるのだろう。教えてくれるのなら、私は知りたい。夢の中でも触れられないリアム様の秘密。
「……ごめん。今は言えない」
苦しそうにリアム様は目を伏せて椅子へと座る。
ギュッと心臓が掴まれたような気がした。リアム様の秘密。それにどんな意図があるのか、知りたかった。
「シルヴィアは、さ。その、好きな人、いるんだよね。それは、変わってないの?」
リアム様はちらりとエスタ様を見て、気まずそうに私に訊ねる。
それに私は頬を染めながらもこくんと頷いた。
私の気持ちは幼い頃のまま。リアム様のことを出会った時から好きなの。
小さいときに、領地の泉で想いを伝えた頃のまま。
「そっか……。そう、だよね……」
頷いた私にリアム様は落胆したように肩を落とした。
やはり、私がリアム様を好きでいることは不都合だったのだろう。わかっていたこと。リアム様が望んでいるのは女遊びに文句を言わない婚約者。わかっていたのに。少しでも分かり合えると期待してしまった。
「少しお待ちください」
「エスタ様? どうなさりました?」
今まで黙っていたエスタ様が手をあげる。それにこてんと首をかしげると、エスタ様はなんだか苦々しい顔をしている。
本当にどうなさったのだろう。
「失礼ですが、リアム殿下はシルヴィアのお相手をどなただと思ってらっしゃるのですか?」
「どなたって……」
リアム様はなんだか言いづらそうにエスタ様を見る。どうしてそこでエスタ様を? 関係ないと思うのだけど。人がここにいては言いづらいのだろうか。
「わかりました。もう結構です。リアム殿下、殿下は女性関係をどうにかなさってください。それを終えたら、今度はシルヴィアと二人きりでお話し合いをなさってください」
「エスタ様……? どうなさったの?」
「シルヴィア。婚約破棄の話はしばらくなさらないほうがいいわ」
「それは……」
「お願い、シルヴィア。私を信じて」
そう言われてしまったら断れない。
エスタ様がこんなに強く言うなんて珍しい。本当にどうなさったのかしら。
不思議に思ってエスタ様を見ていると、エスタ様はこっそりと私に耳打ちする。
「今ここでシルヴィアの気持ちを言ってもいいけど、あなたは自分で言いたいのでしょう?」
「……ええ」
「告白なさるのは二人きりのときにして。今なさってもいいけれど、リアム殿下の女性関係が清算されていないままでは、シルヴィアが悲しむわ」
「エスタ様……」
私のことを考えてくださるなんて本当にお優しい方。
でも、告白をしたとしてもリアム様のお気持ちは変わらないと思う。それでも、私はこの気持ちをはっきりと言葉にしなければいけないのかしら。
また、傷付くの?
「……女性関係を清算すればシルヴィアは俺と婚約破棄をするなんて考えない?」
「それは……」
「ええもちろん。私、エスタ・バーミリオンが保証いたします」
「エスタ様!?」
「わかった。ちょっと今から王宮に行ってくる」
「リアム様!?」
私、なにも言ってないのに。
立ち上がり、ルビーと出て行ってしまったリアム様に、私は戸惑うことしかできなかった。
ルビーと戯れているリアム様はとても絵になる。それにほぅっと見惚れていると、私たちに気がついたリアム様が顔を上げた。
「シルヴィア」
リアム様が私の名前を呼ぶ。なんだろうと思ってビクビクしていると、ルビーが私のところまで飛んできた。
両手を合わせて手のひらでルビーを受け止めると、ルビーは「きゅう!」と嬉しそうに鳴いて私へと擦り寄る。
そのかわいさに笑みがこぼれた。
「ふふ、ルビーったら。くすぐったいわ」
「きゅーきゅっ!」
「ルビー」
ルビーと戯れていると、リアム様が硬い声でルビーの名前を呼ぶ。ルビーは名残惜しそうに私の鼻先をぺろりと舐めると、リアム様の元へと戻って行った。
「シルヴィア。話しがある」
「お話し……ですか?」
「うん。だからバーミリオン公爵令嬢は席を外して欲しいんだけど」
そう言いながらリアム様はちらりとエスタ様を見る。エスタ様をその視線を返しながら、クスリと微笑んだ。
私としてはエスタ様がいらっしゃったほうが安心できる。それはリアム様を信用していないとかそういうのではなくて、リアム様と一緒の空間にいるのはいつだって緊張するから。
それに、お話ってなんなのだろう。もしかして婚約破棄の件? 私を待っている間に気が変わったのだろうか。
「あら。私がいたらできないようなお話しなのですか?」
「ふたりっきりで、話したいんだよ」
「年頃の娘を異性とふたりっきりなどできないと思いませんか? せめて、メイドは付けてください」
「……なら、いいよ。君もそこにいて。そんなに長い話じゃないから」
ふぅ、とため息を吐きながらリアム様が私たちに長椅子に座るように促す。それに頭を下げて、私たちはリアム様と向かい合わせになるように座った。それを見てリアム様は不機嫌そうに眉をしかめる。その視線を真正面から受けて、どきりと胸が音を立てた。
座ったらダメだったのかしら。なにを言われるのか、怖い。
ギュッと膝の上で拳を握ると、その上に手を重ねられる。ハッとして隣にいるエスタ様を見ると、優しく微笑んでいらした。
ガチガチに固まっていた身体から力が抜ける。エスタ様に微笑みを返すと、エスタ様はこくんと頷いてリアム様を見た。
「……シルヴィアは、さ。俺と婚約破棄してラウルと一緒になりたいと思ってんの?」
神妙な顔をしたリアム様に訊ねられたお言葉に目が点になる。
どうしてここにラウル様が出てくるのだろう? ラウル様と一緒にいるときに気絶してしまったから? そういえばこの前の夜会でファーストダンスを踊ったことにも苦言を言っていた。……自分は、レティ様とファーストダンスを踊っていたのに。
「ラ……彼とは、なにもありません。婚約破棄後も彼と婚約などすることはないでしょう。なので、安心してください。婚約破棄したあと、私は修道院に行き、リアム様の視界に入ることはありませんから」
ラウル様、と呼びそうになって、リアム様に不快だと言われたことを思い出した。
ラウル様の名前を呼ばずにそう言うと、リアム様はどうしてだか苦虫を噛み潰したような顔をしている。
また私はなにか失敗してしまったのかしら。悪くないと思ったのだけど。
「ふぅん。まあ、婚約破棄なんてしないんだけどね、絶対に」
ずくずくと膿んだように胸が痛い。
その言葉がいつか裏切られることを思うと、余計に。
「リアム殿下」
「なにかな、バーミリオン公爵令嬢」
「あなたは、シルヴィアのことをどう思っていらっしゃるの?」
「エスタ様っ!」
「だって、シルヴィア。酷すぎるわ、あなたたち」
だからといって、リアム様になんてことをお訊ねになるの?
驚いてエスタ様を見つめるけど、エスタ様の瞳は真剣そのもの。リアム様はその視線を受けて、怪訝そうに眉間にしわを寄せる。
「それを、どうしてバーミリオン公爵令嬢に言わなければならない」
「別に言わなければならないということはありません。けれど、」
「俺の気持ちは幼いときから変わってない。それはシルヴィアも知っている」
えっ? 幼いときからって、なんの話?
リアム様の言葉に戸惑ってしまう。リアム様のお気持ちなんて知らない。幼いときから変わってないって、なんのこと?
戸惑ってる私に気付かないリアム様は、淡々と続きを話す。
「別に今さらシルヴィアと心を通じ合わせようとか思ってないから安心してよ。ね、シルヴィア。わかってるでしょ?」
「私は……」
なんの話かわからない。
「ところで、リアム殿下はどうして他の女性とお戯れになるのですか?」
「それは……」
「それによって悲しんでる人間がいることをお分かりになられて……」
「お、お待ちくださいっ!」
ずいずいとリアム様を問い詰めようとエスタ様に待ったをかける。
ダメだ、これ以上は。これ以上、エスタ様に言わせるのは違う。
だって、私とリアム様の問題だもの。
「エスタ様、それ以上は」
「でも……」
「私が、ちゃんと、お訊ねしますから」
知ることは、とても勇気のいること。
だから、私からリアム様になにかを訊ねることはしなかった。なにも言わなかった。知りたくなかったから。
お父様に『リアム殿下と話し合いなさい』と言われた。けれど、私は今さらだと思ってきちんと向き合おうとしなかった。
知ることは、簡単なことだったのに。
「私、リアム様のお気持ちなんて知りませんし、わかりません」
「……は?」
「婚約者がいながら、他の女性とお戯れになり、あまつさえ口付けなんてするリアム様のお気持ちなんて、わかるはずありませんっ!」
「はぁあっ?!」
気持ちを吐き出すと、なんだかすごくすっきりした気がする。突然私にこんなことを言われたリアム様は驚きに目を見開いていたけど、私はすっきりとした気持ちでリアム様を見返した。
初めて、こうやってリアム様に自分の気持ちを伝えた。
「私、私は……」
「待って、俺が誰と口付けしたって?」
「えっ……」
「俺、シルヴィア以外の女に唇を許したことないけど!?」
まさかそこに反論されるとは思わなくて、目をぱちくりと瞬かせる。
あんなはっきりとレティ様とキスをしていたのに、それをなかったことにするの?
「どうしてそんな嘘をおっしゃるの?」
「いや、嘘とかじゃないけど!」
「だって、私見たんですもの」
「はぁあっ!? どこで!?」
「……気絶した日、騎士団の練習場の近くで」
なんだかリアム様がこうして焦っている姿は初めて見た気がする。リアム様はいつも余裕を持ってて、私もリアム様の前ではしっかりしなくちゃって思ってたから。
浮気を指摘された男性ってこんな感じなのかしら。
勢いあまって腰を浮かしたリアム様をジッと見つめていると、リアム様の表情が変わった。
「あっ……あれは、ちがっ! あれはあの女が!」
「あの女って……」
「いや、というかそもそも俺が女といたのは!」
リアム様の動きがピタリと止まる。いたのは、なんだというのだろう。
それに、どんな理由があるのだろう。教えてくれるのなら、私は知りたい。夢の中でも触れられないリアム様の秘密。
「……ごめん。今は言えない」
苦しそうにリアム様は目を伏せて椅子へと座る。
ギュッと心臓が掴まれたような気がした。リアム様の秘密。それにどんな意図があるのか、知りたかった。
「シルヴィアは、さ。その、好きな人、いるんだよね。それは、変わってないの?」
リアム様はちらりとエスタ様を見て、気まずそうに私に訊ねる。
それに私は頬を染めながらもこくんと頷いた。
私の気持ちは幼い頃のまま。リアム様のことを出会った時から好きなの。
小さいときに、領地の泉で想いを伝えた頃のまま。
「そっか……。そう、だよね……」
頷いた私にリアム様は落胆したように肩を落とした。
やはり、私がリアム様を好きでいることは不都合だったのだろう。わかっていたこと。リアム様が望んでいるのは女遊びに文句を言わない婚約者。わかっていたのに。少しでも分かり合えると期待してしまった。
「少しお待ちください」
「エスタ様? どうなさりました?」
今まで黙っていたエスタ様が手をあげる。それにこてんと首をかしげると、エスタ様はなんだか苦々しい顔をしている。
本当にどうなさったのだろう。
「失礼ですが、リアム殿下はシルヴィアのお相手をどなただと思ってらっしゃるのですか?」
「どなたって……」
リアム様はなんだか言いづらそうにエスタ様を見る。どうしてそこでエスタ様を? 関係ないと思うのだけど。人がここにいては言いづらいのだろうか。
「わかりました。もう結構です。リアム殿下、殿下は女性関係をどうにかなさってください。それを終えたら、今度はシルヴィアと二人きりでお話し合いをなさってください」
「エスタ様……? どうなさったの?」
「シルヴィア。婚約破棄の話はしばらくなさらないほうがいいわ」
「それは……」
「お願い、シルヴィア。私を信じて」
そう言われてしまったら断れない。
エスタ様がこんなに強く言うなんて珍しい。本当にどうなさったのかしら。
不思議に思ってエスタ様を見ていると、エスタ様はこっそりと私に耳打ちする。
「今ここでシルヴィアの気持ちを言ってもいいけど、あなたは自分で言いたいのでしょう?」
「……ええ」
「告白なさるのは二人きりのときにして。今なさってもいいけれど、リアム殿下の女性関係が清算されていないままでは、シルヴィアが悲しむわ」
「エスタ様……」
私のことを考えてくださるなんて本当にお優しい方。
でも、告白をしたとしてもリアム様のお気持ちは変わらないと思う。それでも、私はこの気持ちをはっきりと言葉にしなければいけないのかしら。
また、傷付くの?
「……女性関係を清算すればシルヴィアは俺と婚約破棄をするなんて考えない?」
「それは……」
「ええもちろん。私、エスタ・バーミリオンが保証いたします」
「エスタ様!?」
「わかった。ちょっと今から王宮に行ってくる」
「リアム様!?」
私、なにも言ってないのに。
立ち上がり、ルビーと出て行ってしまったリアム様に、私は戸惑うことしかできなかった。
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