上 下
11 / 12

何言ってんだ、おまえ(本音)

しおりを挟む
 ええーっと、整理しよう。
 まずことの始まりはセラフィム様がヒロインと仲良くしていた。
 ↓
 私はアッシュ様と仲良くしていた。
 ↓
 なぜかアッシュ様の前で辱められそうになった。
 ↓
 ギリギリ免れたものの、セラフィム様に監禁された。
 ↓
 なぜか怒っているセラフィム様に私もイライラして、ヒロインのことを話した。
 ↓
 幼児帰りしたセラフィム様が泣いた。

 ………………?
 いや、整理しても意味がわからない。
 どんな状況なの、これ。

「ええっと、セラフィム様」
「エル……」

 ポロポロと呆然としながら涙を流すセラフィム様は中性的な容姿も相まって、まるで美女のようだ。というかもう美女。ただの美女、
 ええっと、情緒不安定なのかな?
 ラスボス殺人鬼がどうした。キャラ崩壊もいいところ。

「セラフィム様がなにを考えておられるのかわたくしには理解できませんが、泣くのはおやめくださいませ」
「……………」
「ええっ、さらに泣くんですか!?」

 ダーっと滝のような涙を流し始めたセラフィム様に焦ってしまう。
 いつもの色気たっぷりセクシー私様セラフィム様はどこに行ったんだろう。いやもうほんとに。

「エル、エルは、僕が死んだら好きになってくれる……?」
「はっ? いやあの、はっ?」

 令嬢としての仮面が剥がれ落ちそうになる。
 ラスボスがなにかとても弱気なことを言っている。
 え、死んだら好きになるってどういうこと?

「セラフィム様、セラフィム様はわたくしのような専属娼婦に気を使われなくても大丈夫ですよ」
「エルは専属娼婦なんかじゃないっ!」
「ええ? じゃあやはり性処理女ですか?」
「エルは僕の婚約者だろう!?」
「……まあ、そうですね?」

 婚約者という名の性処理発散道具では? と思ったけど言わない。だって、首を傾げる私に対して、セラフィム様がとても泣きそうな顔をしてる。
 私は空気が読める子。大丈夫、大丈夫。
 それにしても、どうしてこうなってしまったのだろう。
 セラフィム様のこの変化はいったい全体どうして? ゲームの中のセラフィム様はお色気たっぷりセクシー私様だし、こんなセラフィム様は知らない。

「すき、愛してる、エル……。君が死ねというなら死んでみせるし、君が殺せというなら誰でも殺してみせる。だから、お願いだ、僕を捨てないで……」
「………………………………………は?」

 縋り付くセラフィム様に茫然とする。
 本当に、今なんて言ったの?

「すき、あいしてる……?」
「エルに会ったときからずっと、君は僕の天使で……」
「冗談はおやめください、セラフィム様」
「えっ……」

 セラフィム様は驚いたように目を瞬かせる。
 言葉が出てこないようなセラフィム様に向かって微笑む。
 いやもう本当に怒らない私を褒めてほしい。
 今さらなに言ってんの、って。

「セラフィム様が私のことを好きだなんてそんな冗談は最低です。ありえません」
「な、んで……」
「だって、本当に好きならあんなケダモノのように人の身体を貪ったりしません!」
「うっ……」
「あ」
「エル……」
「もしかして、私の身体が好きという意味でした? そういう意味でしたら、勘違いしてしまい申し訳ございません」

 確かに私の身体はセラフィム様に好かれている自信がある。我ながらいい身体だと思うもん。

「違う、違うんだ……」
「セラフィム様?」
「僕はエルのことが本当に好きで……」
「まさかぁ! そんな心配なさらなくても大丈夫ですよ。エリー様は私なんかよりも身体の相性抜群です! ……たぶん」

 ねっ、元気出しましょ?
 そう思って励ますようににこにこと笑う。
 だけど、セラフィム様は茫然と涙を流すだけだった。それが絶望しているように見えてしまう。

 ……あれ、もしかして本当に私のことが好きなの?
 いやでもまさか。好きな人相手にあんな激しいことする?
 ぽくぽくと首を傾げて考える。

「エル……」
「セラフィム様って、そういえば鬼畜サド……?」
「きちく、さど……?」

 ヒロインとのセックスのときもなんか野外が多かったような……? そういえばヒロインが拐われて奴隷になる寸前の奴隷オークションに乗り込んで、そのオークション会場でヒロインを犯すなんていうシーンもあったな……。あと絶倫っていうのは変わらなかった。騎士たちが乗り込んでくるまで、人前でヒロインと交わってた気がする。

 …………あれっ? 私たちの行為はセラフィム様の通常運転?

「セラフィム様って、私のことをどう思ってらっしゃるんですか?」
「世界で一番愛しい天使。愛してる」

 即答だった。そう言ってセラフィム様は私の足元に跪き、足の甲に口付ける。

 へ、へー、服従の口付けまでされるほど私って愛されてたんだ。
 足の甲への口付けは「あなたに服従します」という意味。ゲームの中では騎士キャラにヒロインがされてたっけ。セラフィム様ルートではなかった気がする。

「エルを私のものにするためなら手段は問わない。死んでもいい。だれを犠牲にしてもいい。エルの心がそれで手に入るなら」

 あ、元に戻った。
 瞳は潤んだままだけど、子供帰りからは戻ったらしい。ちょっと寂しい。あのセラフィム様は可愛かった。

「愛してる、エル。エルに捨てられたら私は死ねる。エルの前でこの命を散らす」
「お、脅しですか……?」
「脅し? 違う、事実だ」

 そっちのほうがこわいな!?
 私の足に頬をすり寄せるセラフィム様に、身体がびくりと跳ねる。
 ああ、そういえば一週間、私はお預けを食らっていたんだった。身体がセラフィム様を求めるのも仕方ない。

「エル……。頼むから、私を好きになって……」

 ゾクゾクッと快感にも似たようなものが背中を走る。
 潤んだ瞳で私を見つめるセラフィム様の色気がすごい。それに、たぶんこれは優越感。セラフィム様が私を望んでいることへの、優越感。
 その色気に負けてすき、と言いそうになってから、ハッとした。

「え、エリー様とはどうして一緒に……?」
「あのクソ女は聖魔法が使えるから、その見極めのために。結果は禁断の魅了魔法を使うただのクソ女狐だったということがわかったから、王宮に引き渡してきた」
「ええ………エリー様……」

 ヒロインどうしたぁ……。
 ヒロインのことを考えていると、ちゅく、と足の先が温かいものに包まれる。ギョッとしてセラフィム様を見ると、足の指を口に含んで飴でも舐めるように舐っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、囚われました

りんごちゃん
恋愛
シェヘラザードは悪役令嬢だった。ヒロインに嫌がらせをして、婚約者である王太子に断罪される直前にゲームの記憶を思い出したシェヘラザード。その後に怯えるシェヘラザードに近付いたのは、彼女をさらに地獄へと落とす二人だった。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

音痴な歌姫はヒロインに婚約者と歌姫の座を押し付けたい

りんごちゃん
恋愛
音痴な歌姫アリアは、前世からの因縁である婚約者ど変態王太子シャルルと別れたい。ヒロインちゃんと逢ったらアリアを野山にポイッとエンドに陥れる婚約者はお呼びでないのである。ついでに歌姫も押し付けて、自分は平穏ノーマルエンドを目指したい。ど変態どクズ執着心の強いシャルルから逃げることはでき……。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

処理中です...