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やせい の こんやくしゃ が あらわれた !

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 宗さんと同棲を始めて二ヶ月が経った。時々宗さんの妹である優子ちゃんも泊まりに来たりして、二人で喧嘩を始めるときもあるけど、宗さんとのお付き合いは上手く行ってると思う。
 宗さん、シスコンじゃなかったのかなと思うけど、首を突っ込むとなんかとてもめんどくさそうな二人なので、二人が喧嘩してるときは基本放置だ。
 最近の悩みは目につくところに結婚雑誌がおいてあること。何冊あるのってぐらい、いたるところに置いてある。
 あと、宗さんの話の中に結婚したっていう人が大勢いて、ほとんど毎日のように結婚生活はいいぞ、って話をされること。
 普通、こういうのって男女逆なんじゃないかなって思う。
 宗さんの結婚アピールがすごくて、本当に結婚するのかなぁ、なんて少しだけウキウキとしてるところにそれは来た。

「あなたが柿原未唯さんですか?」

 目の前にいるのはいかにも清純派っていうような気弱な女性。おどおどとした目で私を見つめてる。
 すごく、綺麗な人だ。
 そう思ってポーッと女性を見ていると、「あの、」と恐々と話しかけられてハッとする。

「はい。そうです。失礼ですが、あなたは……」
「私、南雲千晶と言います。宗さんの、婚約者です……」

 ごーんっと頭に鈍器が振り下ろされたような衝撃を感じた。


 仕事帰りの午後六時。私は現在ファミレスにいる。今日は宗さんは出張でいないので、帰りの時間は気にしなくていい。
 目の前の清純派美女はファミレスには合わなくて、なんだか現実じゃないのかなぁ、なんて感じる。あと男性の視線がチラチラと痛い。私にじゃなくて、自称宗さんの婚約者に、だけど。

「えっと、宗さんの婚約者って……」
「はい。政略結婚ですが……」
「せいりゃくけっこん」

 せいりゃくけっこんってなんだっけ。

「私の父の会社が今度宗さんのお父様の会社と提携することになって、それで……」
「宗さんのお父様の会社って……」
「ご存知ありませんでしたか? 宗さんは今でこそ他会社の営業にいますが、いずれはお父様の会社にお戻りになって、会社を継ぐことが決まってるんです」

 頭の中がパニックになりそう。不安そうに私を見る南雲さんの言葉に嘘はなさそう。
 宗さんがいつか社長になるなんて話、聞いてない。というか、宗さんってもしかして金持ちボンボンなの? そういえば一緒に住んでるマンションも高級マンションだった。
 宗さんと仲直りして、優子ちゃんとも仲良くなって、毎日が平和で楽しくて、そんなこと忘れてた。最初は家賃も半分払うって言ってたのに。そういえば光熱費も宗さんに甘えて負担してもらっちゃってる。私って、本当に宗さんにおんぶに抱っこだ。
 宗さんがそんなすごい人だとは知らなかった。普通のサラリーマン家庭だと思ってたのに。社長ってなに? どこの国の人なの?
 なにより、宗さんの父親が会社を経営してるなんて話は聞かされてない。それも政略結婚を考えるほどの。なんだか信用されてなかったみたいでショックだ。

「えぇっと、いつご結婚されるんですが?」

 訊いてからハッとした。
 私、なに聞いてるんだろう?
 でも、今月とか言われたらどうしよう。浮気? 二股? この場合悪いのは私?
 想像以上に自分が混乱してるのがわかる。

「結婚は来年の予定です。家の都合があるので、すぐにというわけにはいかないので」
「あ、そうですか……」

 ちょっとホッとした。
 すぐにというわけじゃないなら、話し合うこともできる。宗さんを信じたい。別れ話で拗れたときの宗さんを。
 私と結婚したいって言ってくれる宗さんを信じたい。うん。信じよう。

「お話はわかりました。宗さんから詳しく話を聞きます」
「そ、それは待ってください!」
「え?」

 立ち上がろうとして、南雲さんにスーツの袖を引っ張られて首をかしげる。

「私が婚約者だというのは家同士の繋がりで、宗さんはまだ知らないんです! それに、私は柿原さんに別れてほしくてここに来たのではありません!」
「えっと……、と、とりあえず座りましょう?」
「あっ、そうですね。ごめんなさい」

 南雲さんが袖からパッと手を離して、席に座る。私も雰囲気に飲まれて席に座った。
 南雲さんの目的がわからない。宗さんはまだ自分に婚約者がいるって知らないの? お金持ちって怖い。そんなことがあり得るんだ。

「あの、私になにをしてほしいんですか?」
「私、別にあなたたちカップルを壊したいわけじゃないんです。家同士の繋がり。愛されないのは分かってますから」

 南雲さんはそう言って笑顔に陰を落とす。
 そっか。南雲さんだって親から言われて無理矢理……

「でも、私は宗さんのことが好きです。彼に愛人がいてもいいんです。私は許します」

 じゃなかったらしい。

「私があなたにお願いしたいのは、宗さんにこの結婚にどうか前向きになってもらえるようにお願いするためです」
「……は?」
「あなたという愛人の存在を私は許します。一夫多妻制のようなものだと思ってください。正妻は私ですが」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」

 なにを言ってるんだろう、この清純派美女。
 どうしよう、電波かな。

「私、宗さんにそんなお願いできません」
「どうしてですか?」

 本気で訊いてるんだろうか。当たり前じゃないか。
 こてんと可愛らしく小首を傾げて、本当に不思議そうな南雲さんに胸の中に黒いモヤモヤが溜まる。

「好きな人を独占したいと思うことは当たり前です。どうしてわざわざ違う人と結婚してくださいなんてお願いしなくちゃいけないんですか?」

 宗さんの愛人なんてそんなのやだ。私だって、宗さんと結婚したい。宗さんが私と結婚したいっていう思いを、私はちゃんと受け止めたいって思ってる。
 だって、私は宗さんのこと愛してるから。
 もう別れたくなんてない。
 南雲さんをまっすぐ見つめて言い放つ。

「はぁ……。あなたはよくわかっていませんね」

 そんな私に南雲さんは呆れたように、説明を続けた。
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